大田市
山々の自然に守られ、夕日が美しい豊かな海が寄り添う、島根県西部に位置する石見地方。
大田市、益田市を中心に歴史文化に触れる旅をした。
島根県大田市にある石見銀山は日本を代表する銀鉱山遺跡。2007年にユネスコ世界遺産に登録された。
1526年に発見以来、1923年の休山までの約400年に渡って銀が採掘され、最盛期の産出量は年間約1万貫(約38t)。世界の産出銀の約3分の1を占めていたと言われ、戦国大名の軍資金や江戸幕府の財源として調達された。
また海外にも輸出され、中国などのアジア諸国、ポルトガルやスペインなどのヨーロッパ諸国を交易で結ぶ役割を担い、石見銀山はその名を轟かせた。
町は銀山公園が中心で、左に行くと銀を採掘した大小900以上の間まぶ歩(坑道)がある銀山地区、右へ行くと鉱夫や精錬技術者、商人が暮らした町並み地区が続く。こちらは江戸幕府の代官所跡や武家屋敷、町家など往時にタイムスリップができる。
公園から銀山地区にある龍源寺間歩まで片道約2.3km、徒歩で45分の道のり。電動自転車を借りてもいいが、お勧めはワンコインガイド。銀山を知り尽くした地元のガイドさんが見どころを分かりやすく説明しながら案内してくれる。
龍源寺間歩は銀山を代表する幕府直轄の坑道で、大久保間歩に次ぐ2番目の規模。長さ約600m、高さ1.6m〜2m、幅は0.9m〜1.5m。内部は上下左右に掘り進んだ跡や、排水用として垂直に100mも掘られた竪坑(たてこう)も。
坑内は1年中ほぼ同じ12℃前後、手入れがされているとはいえガイドさんに手渡された懐中電灯がないと不安になる暗闇だ。
鉱夫たちは「螺灯(らとう)」と呼ばれる、サザエの殻に油を入れて火を灯したものを手に持ち、照らしながら作業をしたと言う。
ノミを使って1日に掘れるのは30cmほどだったそうで、壁や天井には無数のノミ跡が残る。銀を追い求めてよくここまで手掘りで進んだものだと、その職人魂と執念に関心せずにはいられない。
過酷な労働環境ではあったが、石見銀山は罪人ではなく職人や技術者集団で採掘されていた。作業は職種ごとに分業化され、時間も定められた賃金労働制。子どもがいれば米や味噌、薬などが特別支給されるなど厚遇だった。
銀山公園に戻り、そのまま大森の町並み地区へと向かう。
大森の町並み地区は江戸時代初頭、銀山の政治経済の中心地として栄えた場所だ。
古い町家や武家屋敷が残り、エリア一帯が重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。
江戸情緒あふれる通りが続く。のれんが掛かったお店は「群言堂(ぐんげんどう)」。ここは旧商家を改装した雑貨やオリジナル商品を扱う人気店で、建物内にはカフェもあり多くの人で賑わっている。
居心地のいい店内で、つい長居してしまう。
民家も店舗も統一感のある日本家屋が並ぶ。少し歩いた先に町並みが一望できるお寺、観世音寺に到着。岩肌に建つお寺の急階段を昇り、そこから見える景色に心を奪われる。
石見地方の特徴的な赤い石州瓦が、歩いているときとは全く違う、かわいらしい景色を見せてくれる。
途中には明治に建てられた裁判所跡や、大正時代に営業が始まった「理容館アラタ」(全国理容遺産認定第一号)など、江戸以降の文化にも触れ、町の最後に現れる建物が大森代官所跡だ。表門と門長屋が往時の姿を残し、中は明治に建てられた旧役所が建ち、現在は石見銀山に関する資料館として使われいる。
銀鉱山と繁栄を極めた町の歴史に触れられる、貴重な石見銀山の体験だった。
左:お食事処 おおもり
●大田市大森町ハ44-1
●電話 0854-89-0106
◎年中無休
◎営業時間 9:00〜17:00(LO16:30)
大森代官所跡の川向かいにある。熊谷家の酒蔵を移築したお店で趣がある。
右:café 住留(カフェ ジュール)
●大田市大森町ハ20
●電話 0854-89-0866
◎不定休
◎営業時間 11:00~夕暮れ時 (季節により異なる)
銀山公園近くのお洒落なカフェ。看板メニューは牛すじトロトロはやし。
●大田市温泉津町温泉津
●電話 0855-65-4894
●https://www.yunotsu.com/
◎年中無休
◎入浴料 大人500円 子ども200円(1歳〜小学6年)
太田市温泉津温泉にある薬師湯は外湯で楽しめる。洋館2階はサロン、屋上のテラスからは温泉街が一望できる。日本温泉協会の天然温泉の審査で最高評価の「オール5」を受けたかけ流し湯温泉。
隣接する旧館は温泉津に現存する最古の温泉施設。貴重な建物は震湯カフェ内蔵丞(しんゆカフェくらのじょう)として営業。
益田市
石見神楽は島根県西部、石見地方を代表する伝統芸能。神楽は日本神話、天の岩戸隠れの段でアメノウヅメが神がかりをして舞ったというのが起源とされ、謡曲を神能化した出雲の佐蛇神能(さだしんのう)が石見地方に伝わり、民衆の娯楽として演劇化されてきたもの。
太鼓や笛の軽快なリズムに乗り、印象深いお面と豪華で華やかな衣装に身を包んだ舞台は芸術性も非常に高い。秋の奉納神楽の他にも、観光施設や道の駅でも定期公演が行われ、解説付きの会場もあるので、初めて観る人にもおすすめ。
益田市には万葉歌人、柿本人麻呂が祀られている高津柿本神社がある。人麻呂は若くして歌を詠み、詩を作り、弓馬術を身に着けていたという。
鳥居をくぐり、そびえる石段を一段一段登る。宝物館には天皇や親王が詠んだ和歌などが収められ、毎年9月1日に開催される「八朔祭(はっさくさい)」や、流鏑馬(やぶさめ)神事は多くの人で賑わう。
また、人麻呂は多くの恋の歌を残したことにあやかり、恋愛成就を願う人も多く訪れる。
石見のや 高角山の 木の間より
我が振る袖を 妹見つらむか
現代語訳では、石見の高角山の木の間から名残を惜しんで私が振る袖を、妻は見てくれたであろうか。
石見にいた人麻呂が、結婚して間もない妻を残して上京するときの歌で、妻への思いがひしひしと伝わる。
島根県石見地方。伝統と風土を大切にする石見の人々。その息づく文化風土を静かに感じ、心地の良い余韻に今も浸る。
取材協力/石見神楽保存会 久城社中 中本剛さん
益田駅近くにある鉄板ダイニングTaishiがおすすめ。カープファンも集う人気店で、お好み焼きの種類は豊富。鉄板焼きに創作料理もご賞味あれ!腰掛料理田吾作は古民家を使った居酒屋さん。店内はレトロで隠れ家のようで楽しい。お昼に食べた海鮮丼は超絶品!どちらのお店も昼、夜とも大満足できる。
地元島根県を支える芽(薬局)が出ることを願って。
株式会社YOIKOホールディングス 代表取締役
大石 浩文さん
島根県益田市で創業された経緯を教えてください。
平成7年に、地元益田市津田町の津田医院さんが院外処方にされる際にお声が掛かりました。当時はまだ医薬分業はあまり進んでおらず、院外処方は島根県内でもまだ数える程度でした。私は地元の基幹病院で働いていましたが、独立し調剤薬局経営を行うことになりました。当時27歳でした。
元々、独立志向をお持ちだったのでしょうか?
それほど思ってはいませんでしたが、当時医薬分業という気運は薬剤師会の中でもありました。
特に益田市の薬剤師会は島根県内でも先導するような地域だったので、その流れに乗ったような格好です。今は当社直営が7店舗、グループの薬局が7店舗あります。
店舗をどんどん増やすというより、仲間に入っていただいて一緒にやっていけたらいいですね。
お互いに切磋琢磨できるのではないかと思います。
地域活動について。地元の高校生に職業紹介をしていらっしゃるのが面白いと思いました。
毎年されているのでしょうか?
定期的にやっています。島根県は薬科大や薬学部がないので、薬剤師不足が今なお言われています。
そういう意味でも、少しでも薬剤師という職業について知ってもらえたらと思っています。何事もまずは知ってもらうところからですね。実際に学生さんとお話しても、薬剤師は薬を渡すだけのイメージが強いようなので、普段あまり目に触れないような仕事内容や薬剤師の役割についてお話しています。興味を持ってもらえている手応えも感じています。
実際貴社でお勤めの薬剤師さんの地元の方、県外からの方の比率はいかがでしょうか?
14 店舗の中で言えば、7割くらいが地元の方です。あとはIターン就職で、島根へ来てから家庭を持ち、ずっと島根にいる人もいます。会社として長く安心して働けると思ってもらえている証だと思うので、それは嬉しいですね。この春に入社予定の学生は地元出身で、当社の奨学金支援制度を利用して入社予定です。学生の親御さんが患者さんとして当薬局に来られた際に、薬剤師の仕事についてお話したのがきっかけで興味を持ち、薬学部に進学後、当社に入社していただけることになりました。
大石社長から見た島根県、益田市の魅力を教えてください。
自然はもちろんのこととして、地元民として感じるのは、県外からの人に対しての接し方がとても寛容ですね。閉鎖的ではまったく無く、県外の方も地元のグループに溶け込みやすい気さくな気質があると思います。家庭を持たれる方は、地域の人と地域活動などを通して一緒に長く楽しめると思います。特に益田市の人はそういう部分が強いと思いますね。薬剤師に限らず、益田市には県外から来ている人が多いように思います。
薬剤師の仕事面では、全体的に患者さんも優しい方が多いように思います。
最大の特徴である独立支援について。
YOIKO ホールディングスが独立支援に力を入れられている理由について教えてください。
元々私は一人で薬局を始めましたが、薬局を経営するにあたって全くの素人なわけで、知らないがゆえの失敗を繰り返してきました。27歳で経営のことなど右も左も分からなかったですね。あのときこうしていたら、というのは後になって分かりました。10年近く1店舗の経営を懸命に行う中で経験を積み、周りを見る余裕が出てきました。
10年間の薬局経営の経験値やノウハウを持てたのだからそれを最大限に活かし、これから独立を目指す薬剤師の力になれたらと思いました。そして、私自身のこれまでの苦労や経験を伝えながら、グループとして横の繋がりを作りたいと純粋に思うようになりました。〝フランチャイズ〟ではなく、フラットな兄弟のようなイメージです。私にとってこれはすごく大事なニュアンスです。そのグループ会社が、現在6法人あります。
いろんな支援の内容があると思いますが、YOIKO さんの行う独立支援について、具体的にお聞かせいただけますか?
初めての方は薬局の立ち上げから申請手続きなどすべて代行して行います。あとは薬品や薬局内の備品などの物品購入、そして従業員の労務管理や給与計算、税務関係なども本部で一括して行います。一概にどうとは言えませんが、私は一から始めているので、そのようなノウハウや支援があることによる有難さが分かります。それを経験していない人にとっては、支援があることが当たり前になってしまうので、そのあたりをジレンマに思うことはありますね(笑)。横の繋がりで他店との交流もできますし、薬剤師が不足しているときにお互いが融通を利かせて助け合うこともできます。急なときに助け合うことができる環境にあるということは、少しでも安定的に経営していくための非常に心強い要素になると思います。
今後の目標、ビジョンについて教えてください。
薬剤師として地域に根差すことはもちろんですが、それ以外では、少しでも多くの独立支援を行い、その町一つひとつにオーナー企業(薬局)ができるようになればいいと思っています。島根県自体が人口減少で過疎化が進んでいて、人口が減るのと同時に企業自体もどんどん縮小や撤退が進んでいます。新たな企業ができることで、その町に税収入や雇用が生まれ、活性化に繋がるのではと考えています。島根県内の町一つひとつが少しでも潤っていくようなモデルを作っていけたらいいなと思います。500 世帯が住む町に1つくらいの割合でそんな環境を作っていきたいです。将来独立をお考えの方は、ぜひ安心して当社へいらしてください。
●取材協力/ 株式会社YOIKOホールディングス
益田市遠田町3358番地1
TEL:0856-31-7440(代表)