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コラム 新型コロナウイルスと診療報酬改定の影響を紐解く

株式会社メディテール 代表取締役
宮田 武志

昭和39 年生まれ、第一薬科大学卒、広島大学修士課程修了。
研究職を経て総合メディカル(株)に入社後、薬局開発、人材育成、経営戦略、情報システムなどの構築を担当し、調剤薬局経営のノウハウを習得。その後ドラッグストアの(株)スギ薬局に移りドラッグストアと調剤の経営を学ぶ。現在は(株)メディテールの代表として中小調剤チェーンとドラッグストアに特化した経営支援を事業として展開をしている。無類のゴルフ好きであるが、冬はスキーもやる。座右の銘は「あるがまま」

はじめに

今回の執筆依頼を受けた3月中旬当初は、読者に2020年度の診療報酬改定と調剤報酬改定の影響についてお伝えしようと考えていた。新型コロナウイルスの影響はまだ中国に限定されていて、これほど世界へ急速に拡散していくことは想定できていなかった。
ところが、政府の緊急事態宣言以降、経済、医療、生活、働き方など私たちを取り巻く環境は全く様変わりをしてしまった。仕事が激減し、リモート勤務は仕事の中身や働き方をも変えた。パンデミックによる医療崩壊と社会崩壊を回避するために、休業補償やオンライン診療などのあらゆる政策が総動員されている。一方、学生の就活への影響も甚大で、合同説明会や会社説明会が中止になり、ほとんどの大学がオンライン授業に移行して、企業と学生を繋ぐ情報が分断されてしまった。勿論、診療報酬改定も大きな変化ではあるのだが、それを遥かに凌ぐ大きさの変化が起きている。

いつまでこの変化が続くのだろうか。完全に新型コロナウイルスを「収束」させるには集団免疫獲得かワクチンの普及しかないと言われているが、それまでは幾度かの「収束」を繰り返しながら、新型コロナウイルスとの戦いを長期戦(Withコロナ)で考えなくてはならないし、また収束したとしても、私たちを取り巻く環境は元には戻らないだろう(Afterコロナ)。
その中で、薬剤師の仕事はどのように変わっていくのか? 就活やキャリア形成は、どう変わるのか? 2020年の診療報酬改定と新型コロナウイルスへの対応の両面から、薬局の未来と、薬剤師と薬学生の不安を解消する糸口を探ってみたい。

「2020年度診療報酬改定」のポイント

2020年の診療報酬改定のポイントは2つ。一つめは「診療報酬改定の財源」が確保できた中での改定であったということ。もう一つは2025年を見据えた「患者のための薬局ビジョン」の実現のために、「かかりつけ薬局の再編」と「対人業務へのシフト」をさらに一歩進めた内容だということである。
薬局の経営者からは「2018年〜2020年診療報酬改定は、想定したほど厳しい改定ではなかった」という声を聞く。確かに、患者のための薬局ビジョンに向けて、改革は進んではいるが、数年前の厚生労働大臣の発言にあった「病院の景色を変える」といった状況ではない。しかしながら、筆者は2020年までは改革の“メニュー”を整備した改定であり、2022年からは本格的に“サービスの値段”に踏み込んでいく改定になると危惧している。

図1はよく目にする人口動態だが、いわゆる、団塊の世代のボリュームゾーンは2022年以降に75歳以上に到達する。
周知の通り、75歳以上は後期高齢者医療保険に移行し、その医療費は国と若年層の医療保険からの拠出で賄われる。診療報酬改定率は国が負担する医療費を指標にして決められるので、2022年以降は医療費財源確保の難易度が高まっていくことになる。加えて新型コロナウイルスが経済に与える影響は甚大なため、2022年以降は相当厳しい改定になり、いよいよ本格的に淘汰が進むと予測される。

次に淘汰の中身だが、「かかりつけ薬局の再編」で経営に最も大きな影響を受ける薬局は、病院・診療所の門前薬局と敷地内薬局である。これらの薬局が「かかりつけ薬局」や「専門医療機関連携薬局」に転換できないと、いずれは閉店やM&Aなどの経営判断を強いられることになる。薬局に勤務する薬剤師も早期に「調剤業務」から脱却して「対人業務」へ仕事を転換すべきである。在宅医療やプライマリ・ケアに積極的に取り組み、薬剤師として薬学的知識を活かして、患者さんを支援し、医師やコメディカルとの情報のフィードバックを積極的に行ってほしい。薬学生や若い薬剤師が就職先や転職先を選定する際には、個店でも、チェーン薬局でも、「かかりつけ薬局」として「対人業務」に転換しているかどうかをよく見極める必要がある。既に積極的に転換していれば、就職先や転職先の候補になるが、経営が何の対策も打っていなかったら、「見切る薬局」の候補になる。筆者は、以下のような薬局は生き残る可能性が低いと考えているので参考にされたい。

①前年度に比較して毎年処方せん枚数が減少している薬局
開局時には門前薬局だったとしても、それ以降にかかりつけ薬局としての取り組みがなされていないと、主の処方せん発行医療機関の患者数減少、地域の高齢化と人口減少、競合ドラッグストアの出店などの要因で徐々に処方せん枚数は減少していく。

②処方せんの集中率が変わっていない薬局
診療報酬上、集中率が高い薬局はかかりつけ薬局ではない薬局と判断される。集中率の高いままの門前薬局は、徐々に技術料の取得が低下して、経営が厳しくなっていく。

③薬剤師がピッキング業務をしている薬局
0402通知で、対物業務の一部を薬剤師以外のスタッフに移行することが公的に示されたが、未だにピッキング業務は薬剤師の仕事として認識している薬剤師が多い。早期に「対物業務」を「対人業務」に移行できないと生き残りは難しい。

オンライン診療「0410事務連絡」の衝撃

パラダイムシフトとは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言うのだが、薬局・薬剤師にとって「0410事務連絡」はまさにパラダイムシフト的な変革である。米国ではメールオーダー(郵送調剤)が広く浸透していて、メールオーダーとリアル薬局が混在している。幾度か米国の巨大な調剤工場も視察したが、もし同規模の調剤工場が日本に20箇所くらいできたとしたら、7億枚全ての処方せんに対応できることに驚愕し危機感を感じた。勿論米国と日本では医療制度が異なるので、法的に「対面の原則」や「調剤する場所」の規定がある限りにおいては、米国と同じようにはならないのだが、Amazonのヘルスケア参入やPillPack買収は、いずれ脅威となると考えていた。

0410事務連絡はオンライン診療の規制緩和に関する通知で、あくまでも時限的・特例的という条件付きだが、医療機関は初診からオンライン(電話を含む)で、診察から処方せん発行、患者にOTC薬の推奨を行うことができるようになる。全国の薬局・薬剤師もオンライン(電話を含む)で服薬指導と郵送での投薬を行うことができる。0410事務連絡の詳細は割愛するが、少なくともこれまでの規制のほとんどは緩和されて、米国のメールオーダーとほぼ同様の仕組みで郵送調剤が行えることになった。他業種からの参入の脅威に警戒しなければならないが、同時に薬局薬剤師は、このオンラインでの服薬指導を積極的に活用し、医師と役割を分担して、医療崩壊の危機に対して立ち向かい貢献すべきであると考える。

オンライン診療では、外来医療における医師と薬剤師の連携と役割分担がより求められるようになる。医療機関は通常の医療に加えて、新たに感染症患者への対応を行うことになるが、現在の業務のボリュームを変えることなく行うことは難しい。新型コロナ禍でのオンライン診療では、長期間にわたり医師は患者と会えないため、薬剤師はその期間にも定期的に患者の状態をヒアリング・把握して、もし課題があれば医師にフィードバックすべきである。勿論、これはかかりつけ薬剤師として当たり前の役割だが、オンライン診療ではその役割はより重要になる。詳細は厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(平成22年4月30日付)で、現行制度下で薬剤師が実施可能な9業務に薬剤師を積極的に活用することを推奨している(表1)。
薬学生や若い薬剤師が就職先や転職先を選定する際には、オンライン服薬指導に取り組んでいるかも含めて、是非確認してみていただきたい。

表1 薬剤師を積極的に活用することが可能な業務

1 薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること。
2 薬剤選択、投与量、投与方法、投与期間等について、医師に対し、積極的に処方を提案すること。
3 薬物療法を受けている患者(在宅の患者を含む)に対し、薬学的管理(患者の副作用の状況の把握、服薬指導等)を行うこと。
4 薬物の血中濃度や副作用のモニタリング等に基づき、副作用の発現状況や有効性の確認を行うとともに、医師に対し、必要に応じて薬剤の変更等を提案すること。
5 薬物療法の経過等を確認した上で、医師に対し、前回の処方内容と同一の内容の処方を提案すること。
6 外来化学療法を受けている患者に対し、医師等と協働してインフォームドコンセントを実施するとともに、薬学的管理を行うこと。
7 入院患者の持参薬の内容を確認した上で、医師に対し、服薬計画を提案するなど、当該患者に対する薬学的管理を行うこと。
8 定期的に患者の副作用の発現状況の確認等を行うため、処方内容を分割して調剤すること。
9 抗がん剤等の適切な無菌調製を行うこと。

(出典)厚生労働省 医政発0430第1号(平成22年4月30日)「 医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」より

以上、2020年の診療報酬改定と新型コロナウイルスへの対応の両面から、薬剤師の仕事の変化と、就活・キャリア形成の留意点を述べてきた。世界は消費活動の急速な縮小により、各企業の売上と雇用は急速に減少しており、雇用維持のための助成金、企業存続のための運転資金の供与などが検討されている。しかしながらこの莫大な財政出動と負債を決して将来の世代へのツケとしてはならない。今の世代の個人、企業、国・自治体がそれぞれ痛みを分かち合う覚悟を持つことが必要になる。

これまで医療制度は十年単位で少しずつ改革されてきたが、Afterコロナの時代は、全く新しい視点での改革が必要となり、これまでとは異なる時間軸で変革を進めなければならない。また一旦進んだ規制緩和を完全に元に戻すことも難しいだろう。過去の十年単位の流れが一年単位で動いていく時代に変わっていく。私たちは既に生じつつある新たな現実に対応し、既に変化のモードが変わったことを自覚しなければならない。決して「見切られる薬剤師」とならないように、事実に基づく最適な選択と弛まない努力を続けて欲しい。