感染制御専門薬剤師取得編
認定薬剤師制度とは、特定の医療分野等において高度な知識や技量、経験を持つ薬剤師を認定する制度です。薬剤師免許と異なり認定制度には更新があるため、継続的な自己研鑽を積んでいる証となります。
資格取得を通して、薬剤師として更に自信を持ち、仕事の幅を広げられるとともに、社内での評価対象や転職時の判断基準にもなります。
今回は「感染制御専門薬剤師」の取得について、大学病院に勤務する2名にお話を伺いました。新型コロナウイルス感染症感染拡大下でのリアルな活動、所感にも注目です。
取得に興味のある方はぜひ参考にしてみてください。
制度のおさらい
認定薬剤師とは、特定の医療分野等において高度な知識や技量、経験を持つ薬剤師を認定する制度です。薬剤師認定制度には❶生涯研修認定制度、❷特定領域認定制度、❸専門薬剤師認定制度の3つがあります。今回ご紹介する感染症制御専門薬剤師は、❸専門薬剤師認定制度に該当します。
各制度概要 | |||||||||
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認定制度 | 認証機構 | 述べ合格者数 | 試験内容 | 条件 | 費用 | 更新 | |||
目的 | 試験実施 | ||||||||
感染制御専門薬剤師 | 一般社団法人 日本病院薬剤師会 |
285名 | 令和元年度感染制御専門薬剤師試験 出題基準と範囲 1. 感染制御関連の薬剤師認定および法律 1) 感染制御薬剤師制度について説明ができる。 2)医療関連感染制御の変遷を説明できる 。 3) 感染制御に関わる法制度を理解している。 2. 微生物の基礎知識 1)微生物(細菌、真菌、リケッチア、クラミジア、ウイルス)の概要を説明ができる。 2) 病院・施設内感染に関連する主要微生物について説明ができる。 3)感染症法の類別感染症と原因微生物について説明できる。 3. 留意すべき細菌感染症の基礎知識 1) 細菌感染症とその対策について説明ができる。 2)薬剤耐性菌感染症について説明ができる。 4. 留意すべき真菌感染症の基礎知識 1) 真菌感染症その対策について説明ができる。 5.留意すべきウイルス感染症の基礎知識 1) ウイルスの形態、特徴、分類が説明できる。 6. 新興・再興感染症 1) 新興・再興感染症について説明ができる。 2)耐性菌による感染症について説明ができる。 その他19項目 |
(1)申請時において、感染制御認定薬剤師あるいはICD制度協議会が認定するインフェクションコントロールドクター(以下「ICD」という。)の資格を有している者であり、かつ、ICD制度協議会に加盟している学会・研究会のいずれかの会員であること。 (2)日本医療薬学会、日本薬学会、日本臨床薬理学会、日本TDM学会、ICD制度協議会に加盟している学会・研究会、日本薬剤師会学術大会、関連する国際学会あるいは日本病院薬剤師会ブロック学術大会において感染制御領域に関する学会発表が2回以上(うち、少なくとも1回は発表者)、複数査読制のある国際的あるいは全国的な学会誌・学術雑誌に感染制御領域に関する学術論文が1編以上(うち、少なくとも1編は筆頭著者)の全てを満たしていること。 (3) 病院長あるいは施設長等の推薦があること。 (4)日本病院薬剤師会が行う感染制御専門薬剤師認定試験に合格していること。 |
試験料: 日本病院薬剤師会 会員10,000円+税、 非会員15,000円+税 審査料: 日本病院薬剤師会 会員10,000円+税、 非会員15,000円+税 認定料: 20,000円+税 |
5年 | |||
感染制御に関する高度な知識、技術、実践能力により、感染制御を通じて患者が安心・安全で適切な治療を受けるために必要な環境の提供に貢献するとともに、感染症治療に関わる薬物療法の適切かつ安全な遂行に寄与することを目的とする。 | 年1回・12月頃に開催 |
※2020年7月現在
※申請の前提条件となる感染制御認定薬剤師、インフェクションコントロールドクターの資格概要についてはそれぞれ日本病院薬剤師会サイト、ICD制度協議会サイトをご確認ください。
※新型コロナウイルス感染症の影響に伴う令和2年度の認定申請、更新申請の対応については日本病院薬剤師会サイトをご覧ください。
認定薬剤師・取得者様用アンケート
浦上 宗治さん(41歳・男性)
佐賀大学医学部附属病院 感染制御部
資格/感染制御認定薬剤師(2011年)
感染制御専門薬剤師(2012年取得)
感染制御専門薬剤師資格取得に際して
● 取得を志した理由やきっかけ
浦上 日本全国どこの病院に行っても自分の専門分野(最も患者に貢献できる分野)が感染症治療・感染防止対策であることを示すことができると思ったため。
● 取得を志した理由やきっかけ
医師やコメディカルスタッフから感染症関連の問い合わせや対応の依頼を頂けるようになりました。
● 取得に至るまでに苦労したこと
特に無し。単位の一部はeラーニングで取得可能で、試験勉強は実臨床にも役立つ内容であったため苦痛は感じませんでした。
● 取得に至るまでの学習と実務の間で感じたギャップなど
ガイドラインの遵守ではなく、目の前の患者さんに応じた最適な医療を提案するスキルが必要とされること。
● 取得に際する勤務先からの補助や支援の有無など
単位取得につながる学会には一般演題に応募して、出張として交通費、宿泊費、参加費を支援してもらいました。
● 感染制御専門薬剤師としての今後の目標
医師が感染症で困ったときに頼りにされる薬剤師であるために、感染症領域では日本で一番臨床力のある(患者さんの病状、治療の有効性や限界を考察できる)薬剤師を目指しています。そして、患者さんや家族の喜びや悲しみを共感できる薬剤師になりたいです。
● 今後目指したい資格、あるいは必要に感じる資格、知識、経験など
インフェクションコントロールドクター(ICD)は職種に関わらず取得でき、国内19の学会・研究会で組織される協議会が認定する国内最大の感染症関連の認定資格です。薬剤師は博士号取得後5年以上のほか、単位や感染対策関連の活動実績など一定の条件を満たせば取得できるため、目指しています。
● 伝えたいこと、これから感染制御専門薬剤師を目指す方へのメッセージなど
感染症は頭から足の先までどこにでも起こり得る疾患であり、人の体を一番理解できる分野だと思います。しかも、抗菌薬は治療開始数日間で効果が表れる、臨床を劇的に変える薬剤です。感染制御認定/専門薬剤師として皆さんと一緒に抗菌薬選択や適正使用についてディスカッションできる日を楽しみにしています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大下において
● 感染制御専門薬剤師としての知識を具体的に活かせられたこと
COVID-19流行拡大時には、さまざまな薬剤が治療薬の候補として期待されました。新薬だけでなく既存の薬剤からも治療薬の候補が現れたため、最新のエビデンスに基づいて有効性と安全性を評価しながら施設内の適応外使用の承認を申請する手続きを担当しました。
● 反対に、自分の知識に不足を感じたり補うべきだと感じたこと
正しい情報を伝えるために、分かりやすく、誤解されないように情報を伝えるスキルが必要と感じました。
● 勤務先で、感染制御専門薬剤師として具体的に提言したこと
COVID-19対応マニュアルを策定する際に、治療薬や消毒薬、滅菌法について提言しました。
● 収束に向け、課題に感じていること
薬剤もマスクも人も限られた医療資源です。限られた医療資源を温存しながら、目の前の患者にベストを尽くすことの難しさを感じています。
● 今回のような未知のウイルス、想定外のウイルス感染拡大における心構え
どんな未知のウイルスも空を飛んでくることはありません。必ず人と人が接触して、世界中に広がります。どのようなウイルスに遭遇しても標準予防策(スタンダード・プレコーション)と手指衛生が有効だと思います。医療者だけではなく一般市民の方にも標準予防策と手指衛生の重要性を伝えながら、臨床では特効薬開発のためのデータを提供する役割を果たしたいと思います。
認定薬剤師・取得者様用アンケート
西 圭史さん(48歳・男性)
杏林大学医学部付属病院 医療安全管理部・感染対策室認定薬剤師制度設立前に
感染制御専門薬剤師を取得。
感染制御専門薬剤師(2010年取得)
感染制御専門薬剤師資格取得に際して
● 取得を志した理由やきっかけ
取得を目指した当時は、日本病院薬剤師会の認定薬剤師はがんと感染の専門資格のみで、業務として院内感染対策に携わっていたため取得することが当然と思っていました。また、簡単に取得できるものと思い込んでいました。4年を費やしたため、「取得するまでは諦められない」という気持ちがモチベーションとなりました。
● 取得して良かったと感じること
自分に自信がつき、院内外で発言する機会も増え、積極的に勉強会や学会に参加するようになり知識を深めることができました。学会や各都道府県薬剤師会から演者や講師として依頼をいただく機会にも恵まれました。現在は専門試験委員として携わることもできています。最も良かったことは、同じ志をもつ多くの薬剤師や他職種の方々と知り合うことができ、今でも交流があることです。
● 取得に至るまでに苦労したこと
専門資格を取得するためには論文2編が必要で、当時論文を書くことについて職場で指導してもらえる機会がないことが最もネックでした。また専門試験の申し込みを忘れて受験できなかった年は自暴自棄になったこともあり……。改めて振り返ると苦労して取得した資格と感じます。
● 取得に至るまでの学習と実務の間で感じたギャップなど
日々の業務における疑問や必要な知識が資格取得にも必要な知識となるため、正直、特別に資格取得のための学習をした記憶はありません。ただ、業務上薬学の知識だけでは事足りず、微生物学、病態生理、確率統計、医療機器などの知識が必要になるため、大学時代に学ばなかったことを働きながらどのように学ぶか工夫する必要がありました。
● 取得に際する勤務先からの補助や支援の有無など
資格取得に必要な講習会には、休みを利用して自費で行きました。当時はこれが普通だったと思いますが、今は資格の必要性が高まり、資格維持のための講習会は毎回ではないにしても出張で行くことができます。厳しい言い方かもしれませんが、補助や支援がなくても「資格を取りたい」という気持ちが上回ることを願いたいですね。
● 感染制御専門薬剤師としての今後の目標
現資格を維持するため感染対策に興味を持ち続けたいです。また、職場内や地域に同じ資格を持つ後輩を育てることにも関心があります。
● 今後目指したい資格、あるいは必要に感じる資格、知識、経験など
語学力の不足は常に感じるため、少なくとも日常会話ができるレベルの英語力を身につけたいです。叶うことなら海外留学や、海外の学会に参加し発表する経験を得たいと今でも思っています。
● 伝えたいこと、感染制御専門薬剤師を目指す方へのメッセージなど
現状、病院勤務であれば感染専門でなくても感染認定の資格は取得することは大きなメリットになります。是非、感染認定を目指すことから始めてほしいです。学ぶことが楽しく、それが必ず役に立つ領域の資格であることは間違いありません。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大下において
● 感染制御専門薬剤師としての知識を具体的に活かせられたこと
COVID-ウイルスの特徴を踏まえ、どのような感染防止対策が有効なのか、また現実的に使用可能で効果が期待できる薬剤は何かを提案する際に、収集した情報を活かすことができました。得られた情報から実際の対策や薬剤を使用するに至るまでの院内外の手続きに関する流れを把握していることも役に立ちました。
● 反対に、自分の知識に不足を感じたり補うべきだと感じたこと
呼吸に関する知識、保険診療(医療費など)に関する知識。また薬剤師としての自己主張の必要性も感じます。
● 勤務先で、感染制御専門薬剤師として具体的に提言したこと
・環境消毒の方法
・次亜塩素酸ナトリウムの使用方法
・治療薬の使用と管理
・薬剤部内の感染対策
● 収束に向け、課題に感じていること
改めて標準予防策と感染経路別予防策の理解と普及が必要と感じています。あわせてウイルスとは何か、細菌とは何が異なるのか、という基本的なことの啓発も必要と思います。他に一般市民の方には清潔・不潔の概念の認知、清潔にする手段と目的を理解して実行してもらうこと、これらのことを過剰にならない程度に継続することを理解してもらうことが必要不可欠です。
医療従事者としては、迅速で正確な判断、普段からのコミュニケーションとリーダーシップも求められます。
● 今回のような未知のウイルス、想定外のウイルス感染拡大における心構え
常日頃から自分自身の健康管理に十分に気を付け、冷静な判断と迅速な行動を取ることを大事にしたいです。