佐賀といえば、焼き物を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。そのイメージを決定づける一つに「伊万里焼」がある。
江戸時代、伊万里から輸出される上品で華麗なこの焼き物は、輸出先のヨーロッパでも高く評価されていた。実は「伊万里焼」とは総称で、それぞれの焼き物の特徴や歴史も、とても奥深い。
今回訪れた大川内山には現在でも30ほどの窯元が軒を連ね、個性豊かな伊万里焼を見てまわるのが楽しい。もちろん、自然豊かなこの土地は美味しいものもいっぱい。
見て、食べて、体験できる満足の伊万里の旅をお届け。
伊万里市内を歩きはじめて目に止まるのが、交差点や橋の欄干などにある、人形や壺などの伊万里焼のオブジェだ。
中でも伊万里川に架かる相生橋のオブジェは個性的かつカラフルで楽しい。酒樽にまたがったオランダ人が右手にグラスを持ち、酒瓶を掲げている像やオウムなど当時の技術やセンスに見入ってしまう。
もともと伊万里焼は、現在の佐賀県および長崎県にあたる肥前国で作られていた磁器のことを指し、有田焼をはじめ、三川内焼や波佐見焼などもまとめて「伊万里」や「伊万里焼」と呼んでいた。
オランダ東インド会社により、1659年から本格的にヨーロッパへの輸出が始まった伊万里焼は、約50年の間に200万個以上もの作品が渡り、「白い金」と評された。こうして“IMARI”ブランドは築かれた。
現在の伊万里焼は、伊万里市内で製造されているものを言い、有田町付近で製造されているものを有田焼と地名で分けられている。
また、当時の伊万里焼と現代の伊万里焼を区別するため、幕末までの焼き物を「古伊万里」と呼ぶ。なめらかな肌触りと透き通るような白地、染付と色絵の美しさが特徴とされている。
同じ時期に、「鍋島」という最高級の磁器が鍋島藩(佐賀藩の別名)により作られていた。将軍や大名への献上品として作られていた鍋島焼は、その高い技術が外部へ流出しないように、険しい地形の大川内山に御用窯が置かれ、徹底した管理のもとで作られた。「色鍋島」「鍋島染付」「鍋島青磁」などの傑作が生み出された。
秘法を守るため外部からの立ち入りも制限し、明治に入るまで鍋島は一般の人々の目に触れることも無かったと言われる。大川内山へと続く1本道には今も関所跡が残る。
関所の門を入ると陶工の庭があり、大川内山のシンボル、人気の「唐臼小屋」が水の流れる音と木を打ち付けるのどかで心惹かれる音を響かせている。伊万里焼の原料である陶石を水の力を利用して砕く装置だ。そばでは日本の音風景百選にも選ばれた「めおとしの塔」が、14個の風鈴の澄んだ音色を奏でる。陶工の庭でかなり楽しめてしまうが、まだ関所だ。
伊万里焼の欄干の橋を渡れば、いよいよ「秘窯の里」だ。山坂道を登りはじめると三方が山に囲まれ、まるで水墨画のような風景が広がる。30軒ほどある窯元やギャラリーを見てまわる。
廃藩置県後、鍋島藩の下絵図の図案帳と杏葉の紋を使うことを許された唯一の窯元や、有名人のギャラリー、カフェを併設したショップなどどこも個性があって長居をしてしまう。
坂に面して立つ窯元の町並みは美しく、レンガ造りの煙突も雰囲気抜群だ。
登り窯跡など歴史的文化遺産も多く、時々現れる路地を歩けば童心に帰る。日常の喧騒から離れ、歴史を色濃く感じる静かな集落と自然が見事に調和した場所でゆっくりリラックスできた旅だった。
伊万里川沿いにあるLIB COFFEE IMAR(I リブコーヒーイマリ)は築130年の古民家をリノベーションしたカフェ。
白を基調に古い梁とのコントラストが印象的な店内は、開放感もありゆったりしている。子どもを連れたママにも配慮した、琉球畳の半座敷も珍しい。
若い女性を中心に、あっという間に満席になる人気店だ。
伊万里牛を気軽に堪能できるのがレストラン チムニー。
地元の人や観光客に人気の老舗洋食店。グツグツの醤油ベースのレモンステーキは片面が焼かれ上面はレア。両面に焼きを入れてもいいが、この状態が美味。肉の甘み、爽やかなレモンの酸味と黒胡椒のハーモニーが見事。
伊万里牛100%の挽肉と伊万里産タマネギを使用したハンバーグも、甘みと旨味が凝縮され口に頬張るとぎゅっと肉感があるのにふわっと柔らかい。デミグラスソースとの相性も抜群。鉄板プレートに乗る野菜も大きく種類があり、色彩も豊かで大満足だ。
佐賀県北部、日本屈指の漁場、玄界灘では良質の魚介が獲れる。
櫓庵治(ろあじ)伊万里店で食したイカの活き造りは、透き通るほど美しく、コリコリとした中にもしっとりした食感と甘みが絶品。ゲソとヒレ部分は天ぷらに。伊万里牛の溶岩焼き、鮮度抜群の鮎の塩焼き、鰻巻、チーズ西京焼きなど数々の料理に舌鼓を打たずにはいられない。
漢方でニコニコ!伊万里から東洋医学のチカラで笑顔を広げる。
回生薬局 代表取締役
平野 智也さん
慣れ親しんだ漢方を生業にするまで。
前身の薬局と合わせると、回生薬局は来年でちょうど50周年になります。僕の父が創業者で、社長を引き継いで15年ほどになります。伊万里は地元です。
田舎で育ち、薬といえば祖母が煎じた薬草だったので、幼い頃は一切化学薬品を飲んだことがありませんでした。ひきつけを起こしても熱が出ても、とにかく煎じ薬。だから家中が臭かったです、漢方の匂いで(笑)。そんな環境で育ちました。そして、伊万里への地元愛はもちろんですが、地方と東洋医学や天然薬を一緒にブランディングできないか? ということを長年思っていました。天然薬でやわらかく病気を治したいと思っていたのです。ところが大学を卒業してある日、親戚に「体質に合う漢方薬を選んでほしい」と言われたのですが、まったくできませんでした。そのとき、薬学部を卒業したのに、自分は漢方のことを全然知らないことに気付きました。それもそのはずで、日本は標準の教育が西洋医学なので、漢方の教育がありません。なので、今のところは卒後後に自分で勉強するしか方法がないのです。
その後管理薬剤師をやりながら土日に中国に20年ほど通いました。
他にもシンガポール、台湾、香港、シンガポール、ベトナム、フィリピン……それぞれ東洋医学があるところに通い、薬科大学へ行ったり師匠についたりしながら漢方について学びました。
中国では、そこらに何となく生えている葉っぱが宝物だったりします。医薬品として世の中に出ていることもあり、日常生活の中で人を治しているわけですね。そういうことをやりたいというのが、ずっと昔からの夢でした。ただ、実際問題として漢方だけで生計を立てていくのは難しく、調剤薬局と並行して福岡で「未病ラボ」を開催するなどして、採算を取れるベースを整えていきました。尽力してくれたスタッフにも感謝しています。
西洋と東洋、うまく織り交ぜることが、事業のエッセンスに。
もともと採算面の事情で漢方だけで事業展開していくつもりはありませんでしたが、調剤薬局を経営するうえで強く抵抗を感じたのは、自分が飲みたくないものを患者さんに出しているという後ろめたさでした。自分が良いと思うものや自分の家族に勧めたいと思うものを、患者さんにも勧めたいですよね。
大きなきっかけになったのは、父が大腸がんになったことでした。大手術をした後に、僕の漢方薬を飲んでくれたのです。もちろんオペ(西洋医学)がないと生きていませんが、切除後の傷を塞ぐのは自分の治癒力なので、そこに漢方を組み合わせて良かったと思います。原点に戻るきっかけになりましたね。もちろん弊社でも処方せんは扱っていますし、同時に自然派の食品なども置いています。
東洋医学的体感施設「くすきの杜」オープン秘話と今後の展開について。
こちらについては前々から構想していましたが、奇しくも新型コロナウイルスが後押ししてくれました。普段、病気の予防が大事ということはみんな分かっているのですが、あまり本気になることはありません。これだけ「病気にならないこと」を世間が考え始めたのは、大きな後押しになったと感じています。くすきの杜には、漢方を中心に未病改善を目指し、健康と美を増進するためのさまざまな商品、設備を整えていますので、お悩みがある方も無い方も、ぜひお気軽に遊びに来ていただければと思います。
この施設を作った理由の一つに、医療機関が全国的に深刻なレベルで落ち込んでいることを考慮し、会社として違う柱を育てておこうという意図がありました。食品や情報を新たな柱にしたいと考えています。特に情報に関しては、ここ(くすきの杜)で健康改善をしたデータをデバイスで取ろうと考えています。お年寄りの方たちが、とりあえずデバイスを装着したまま過ごしてくれたら自動的にデータが取れるというシステムを今作っているところです。ヘルスケアポイントの付与に紐付けようと思っています。
市町村単位でもいろいろと健康づくりに関する取り組みは行われていますが、データを取っていないため、エビデンスになっていません。そのため弊社は、健康改善度をデバイスで取って、それを商品にしようと思っています。中国、アメリカがこれから迎える高齢化は、日本の比ではありません。そのため、世界で最初に超高齢化を迎えた日本で「どれだけ低下した認知機能や運動機能が、こういうことで改善できた」というデータを持っていれば、次世代の強力な武器になると思っています。ただ、集まることを禁止される事態が起こるとは思っていなかったので(苦笑)、感染拡大の動向を見ながら、いろんなことを慎重に進めています。
採用について。「自分にはこれができる」という武器を持ってほしい。
採用については、心意気があって「ここ(回生薬局)でやりたい!」と強く思う人に来てほしいです。採用活動をするうちに、お給料にはこだわらないので漢方だけがやりたいです、学ぶ機会が欲しいです、みたいなマニアックな人がけっこう集まるようになりました。
あとは、医療人でありたいと思っている人。それから、何か自分がお客様に、医療人として提案できる武器(とんがり)を持ちたいと思っている人ですね。一芸に秀でた人間になりたいという人は大歓迎です。
「医療人」とは、一言で「健康に不安がある人に安心感を与えられるプロフェッショナル」だと思っています。ホスピタリティ、専門性いろんな面があるとは思いますが、これだけは不変のものとして貫いていきたいです。また、薬剤師であってもその人の得意・不得意があると思うので、得意なことや良いところを伸ばしていったらいいと思います。
今後の展望について。
改めて50周年に向けて変化を起こそうと思っていますが、創業以来変わらない「起志回生」の精神は大事に、ピンチのときも志を忘れずに何度もチャレンジしていこうと思います。また、どんな商材やサービスを展開しても、働くスタッフ全員が「医療人」であるということだけは守り続けていって、形は時代に合わせて変えていこうと思います。ドッグランまでやるとは思わなかったと言われましたが(笑)。患者さんの安否確認もデバイスを使って行おうと思っています。情報を商品に。調剤薬局業から健康サポート業に脱却しようと思っています。
●取材協力 / 回生薬局
伊万里市立花町4005
TEL 0955-25-9122(代表)