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特集 行政薬剤師のお仕事実録

就職先、転職先としてはややマイナー? 名前を聞いたことはあるけれど、実際はどんな業務をしているの?
多岐にわたる薬剤師の仕事の中でも、いまいちリアルが掴みにくい行政機関で働く薬剤師のお仕事について、じっくりお話を伺いました。
今回は、全国各地でさまざまな経験を重ねられた陸上自衛隊のベテラン薬剤官、全国に所在する麻薬取締部から、大阪の近畿厚生局麻薬取締部に勤務する麻薬取締官2名、厚生労働省管轄の独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pmda)で働く女性の4名にご協力いただきました。

陸上自衛隊阪神病院

磯田 しず香さん
陸上自衛隊阪神病院衛生資材課長
昭和大学薬学部卒業後、薬剤科幹部候補生として陸上自衛隊入隊。
・第13後方支援隊衛生隊(広島県安芸郡海田町)、補給統制本部(東京都 北区)、東北方面総監部及び東北方面衛生隊(宮城県仙台市)などさまざ まな任務地経験を経て、衛生教導隊(東京都世田谷区)にて隊長に就任。 2020年8月に16年ぶりに阪神病院へ。現在は診療サイドで使う資材を 調達する部門にて勤務中。

―自衛隊薬剤官を目指した経緯

大学時代、就職活動時に調剤薬局や民間の病院への就職も検討しましたが、人材育成に力を入れる自衛隊に一番魅力を感じました。兄が陸上自衛官だった影響も大きかったかもしれません。ちょうど大学生の頃、カンボジアやモザンビークへ自衛隊が派遣され、国外で活動する時代へと変わっていっていたので、そこにも魅力を感じました。自衛隊へ入隊すると、海外での活動などいろんなことが経験できて面白そうだなと思いました。

陸・海・空どこに入るかは採用試験を申し込む時点で、自分で選択します。入隊後に他の自衛隊へ変更することはできません。陸・海・空それぞれの薬学部出身者の薬剤科幹部(薬剤官)がどのような仕事をしているかは、事前に各地域にある自衛官の募集事務所を通じて、もしくは大学の薬学部にリクルーターとして派遣される薬剤官から説明を聞くことができます。また全国の自衛隊病院の中核である自衛隊中央病院でも、説明会を年1回行っています。

自衛隊の中で、薬剤官のポストはだいたい決まっています。陸の場合、主に病院勤務の他、補給統制本部及び補給処という医療用備品や医薬品、医療用消耗品などを一括購入して各病院、あるいは駐屯地の医務室に補給する組織への配置もあります。また、東京都世田谷区にある衛生学校の教官を行うことや、一部、野外で病院などを開設・運営する衛生科の部隊へ配置されるケースもあります。私は広島県安芸郡と宮城県仙台市にいた際、野外で病院などを開設・運営する部隊で働いていました。それぞれの勤務地への転勤は、命令により示されます。

―自衛隊病院ならではの特徴や設備面について

自衛隊という特性から、具体的な有事や災害を見据えての訓練を行うところが民間の病院と少し違いがあるかもしれません。
また、「組織で動く」という点が自衛隊の特徴であり強みと思います。参加したとある学会の、民間の病院で有事や災害を想定した訓練を行った成果の発表を聞いて感じたのですが、有事や災害が発生した場合の組織体制や自治体との連携要領から決めなければならないため、各部署での任務、指揮系統や窓口をどうするのか具体化するのに苦労されている印象を受けました。
自衛隊では災害対処計画などに基づき、各部隊などでの役割分担がすでに決められているので、有事や災害発生時に改めて組織づくりをする必要がありません。ある意味融通が利かないという見方があるかもしれませんが、やるべきことが明確なので、個々の思い付きや考えで物事が動くことはなく、有事のときは自衛隊の方が動きやすいのではないかと感じています。

2009年の新型インフルエンザ蔓延時もそうでしたが、補給統制本部に更に上位組織の陸上幕僚監部から事前に感染症や災害発生時に必要となる資材を購入し準備するよう指示があり、全国へ配布できるようにしています。全国の自衛隊病院や医務室で使用する医薬品や医療用消耗品などの多くは、施設毎ではなく陸上自衛隊の衛生として一括調達し補給しています。薬に関しては使用期限のこともありますし、無駄を出さないためにも大量ではなく、月々使う薬の量+αくらいを備蓄しています。
病院としての機能については、民間とそれほど大きく変わらないと思います。阪神病院では民間の方も受け入れていますが、今年は新型コロナウイルスの影響で患者さんが少ないですね。当院は200床で3階建てとなっており、2階、3階が入院患者の病棟です。常勤薬剤師は4名で、自衛官が3名、技官※が1名います。

※技官……異動の多い組織の中で、技術継承の点から異動を伴わない専門知識を持つ官職。病院毎に募集がかけられることが多く、募集体系も自衛官とは異なる。

―未曾有の災害下での任務、過酷な状況の中で感じたこと

自分のキャリアの中で一番大きく関わったのは、2011年3月の東日本大震災です。あれほどの大規模な災害は類を見ませんでしたし、原発事故もある中での活動だったので一番大変でした。普段からいろんな訓練を……特に東北では自治体と合同で訓練する機会も多くありましたが、それでも想定外の事態でした。

震災前からもともと仙台への転勤の内示が出ていましたが、人手が足らないということで転勤前から勤務することになりました。発災直後、東北道は点検整備で通れない状況でしたが、部隊の隊員が活動するうえで必要な防護衣、マスク、医薬品などを東京都世田谷区にある関東補給処用賀支処から何時間もかけて現地に届けたのは、自衛隊の輸送力のすごさを実感しましたね。また東北道が開通するまで仙台への引っ越しができなかったため、自衛隊車両で最低限の身の回りの必需品のみ載せて、当時居た東京から仙台へ向かいました。

現地で私は、隊員が活動するうえで必要な防護衣、マスク、医薬品薬や医療関係の資材(血圧計や熱中症対策のものなど)……いろいろと上がる要望・ニーズを確認し、補給統制本部や仙台駐屯地にある東北補給処と調整し補給する計画を作成し、活動する部隊に配布するという仕事をしました。東北で全国の部隊が活動している状況で、隊員の活動を支えるのも重要な任務の1つでした。
また、被災者への診療で使用する医薬品は、発災直後は自衛隊の資材を使うことができますが、ある程度落ち着いたら自治体のものを使わないといけないという決まりがあります。宮城県の避難所の診療で使用する医薬品は宮城県庁と調整して、診療を行う衛生隊が宿営をしている駐屯地への納品の調整も行いました。

当時、通勤がこの格好(迷彩服)ということもあり、住民の方に「助けに来てくれたんですね!」と感謝されることもありました。活動現場だと、被災者の方から感謝の言葉を言っていただける機会がありますが、私の任務は裏方なので被災者の方と直接やりとりをすることが無く、そのように声を掛けていただいたことは嬉しかったですね。
経験したことのない大規模の災害の中で教訓を積み重ね、それをまとめ、補給統制本部に意見提出し採用されたとき、大変な思いはしましたが、これが次に繋がっていくのだと実感しやりがいを感じました。

―自衛隊員として求められる資質、向いている人物像について

どうしても組織として動くので、人と関わることがものすごく苦手という人や、自分の個性を強く認めてもらいたいと思う人は難しいかもしれません。仕事については、組織が育ててくれるので心配ないと思います。
幹部候補生学校時代は、いろんな訓練に耐えられるように体力練成があります。入隊したばかりの頃は、それまで国家試験の勉強で体を動かしていなかったため大変でしたが、卒業する頃にはかなり体力が付きました。怪我をする人はいましたが、私の同期でドロップアウトしてしまう人はいませんでした。

―プライベートの過ごし方について

基本は週休2日で、有給休暇もあります。訓練や当直勤務により出勤になることもありますが、振替休日もあります。私の立場では薬局当直がありますが、他に非常時に対応する駐屯地の当直などがあります。年末年始の休暇、夏休みもちゃんとありますよ。
筋トレが趣味な自衛官は多く(笑)、私も休日に時間があればランニングをすることがあります。プライベートに特に大きな制限はありませんが、海外へ行くときには申請が必要です。外務省の海外安全情報で渡航制限がある国は申請が通らないことがあります。また、休日でも災害等が発生した場合、速やかに対応できるよう職場との連絡は必ず取れるようにしています。

―これからの理想、キャリアプランについて

自衛隊の中ではいろいろ課程教育がありますが、キャリアが20年にもなると、若い隊員をどう教育するかという立場になります。せっかく久しぶりに病院に来たので、できればもう一度薬剤師としてのブラッシュアップをしたいと思いますね。なぜかと言うと、救命士や准看護師の資格を持っている隊員から「薬はどうしても難しくて苦手なので、もっと分かりやすく面白くお話をしてもらえませんか?」と言われたことがあるので。もっと分かりやすく教えることができれば、有資格者の隊員に処置以外の部分でも更に興味を持ってもらえるのかなと思います。長らく病院から離れていたため、教えきれない部分は本での説明しかできませんでしたが、せっかく病院に来たので、隊員の教育に反映できるように自分の知識と情報を磨きたいと思います。

―自衛隊に興味のある読者へメッセージ

現在、自衛官全体では9割が男性ですが、若い隊員になると女性の比率は高くなります。男女雇用機会均等法が成立するまではほとんど女性は採用されていませんでしたが、徐々に女性隊員が増え、女性が活躍している業務も多々ありますので、女性の割合は増えています。
一か所に留まらず、いろんなことを経験したい方は男女問わず大歓迎です! 勉強や実習で大変かと思いますが、まずは国家試験に向けて頑張ってください。

阪神病院内にある薬局の調剤室。
2年前に拡大された、清潔感あふれる広々とした空間。

厚生労働省地方厚生局麻薬取締部

Nさん(30代男性)
近畿厚生局麻薬取締部密輸対策課所属
麻薬取締官
・名城大学薬学部卒業
・採用1年目は調査総務課、2年目から捜査部門に配属され現在8年目。

―麻薬取締官を目指した経緯

私は高校時代、将来何がしたいか特に希望が無く、とりあえず手に職をつけるために薬剤師資格を取ろうと思い薬学部に進学しました。
そんな私が麻薬取締官(以下麻取)を志した理由は2つあります。1つめは警察官である父の影響で自分も正義感を持って仕事に就きたいという気持ちが芽生えたこと。2つめは、5年生で病院実習へ行ったときにがんの患者さんに麻薬の服薬指導をしたことです。麻薬によって痛みが取れた患者さんは穏やかな様子になられ、麻薬が患者さんのQOL向上に非常に重要なものだということを学びました。しかし、一部の人たちが乱用していることで、麻薬には悪いイメージがあります。私は麻薬のイメージを悪くしている乱用者や密売者を取り締まりたいと思いました。
自分自身の正義感を活かしながら、薬学部で学んだ知識も活かせられる仕事がこれだ、ということで麻取を目指しました。

―麻薬取締官の仕事について

主な仕事は麻薬・覚醒剤・大麻などの薬物犯罪捜査です。捜査の大まかな流れは、情報入手、張り込み捜査、ガサ入れ、逮捕、取り調べ、裏付け捜査です。まさに警察のような仕事ですね。長いと2~3年捜査が続く事件もありますが、その間も同時進行で複数の事件を捜査しています。各班6~7名のチームで捜査を行いますが、大きな事件であれば警察と合同で捜査したり、密輸事件であれば税関と一緒に捜査したりすることもあります。

麻取の約3分の2は薬学部出身者で、男性が約8割です。
女性取締官も女性被疑者の身体検査の際に必要ですし、張り込みでバレにくいこともあって、チームには必ず女性取締官が1人はいます。いつでも現場に溶け込めるよう服装は基本的に自由で、制服もありません。
働き方は日によって違います。朝5時から深夜まで張り込みをしたり、9時から17時までみっちり取り調べをしたり……。事件が起訴されたらとりあえず捜査は一段落ですが、突き上げ捜査※に進展することもあります。

※上位の密売人を捜査すること

―採用試験、研修内容など

薬剤師あるいは薬剤師国家試験合格見込みであれば麻薬取締部の採用面接を受けることができます。国家公務員試験を受ける必要はありません。麻薬取締部に入れる年齢制限は30歳までですが、転職してくる人も多く、前職が薬局や病院勤務だった人もいます。

採用後の研修で基本法令や捜査手続、乱用薬物情勢、逮捕術などを学びますが、その後は捜査現場で先輩の仕事ぶりを見て学びます。特に現場でのスキルは研修で学ぶだけでなく、自主的な努力も必要です。私は、採用されてからしばらくは土地勘をつけるために近畿圏内を車でぐるぐる回ったり、取り調べに役立てばと思い心理学の本を読んで勉強したりしました。

―ずばり、薬学の知識の活かしどころは?

それが……捜査においては、あまりありません(笑)。どちらかというと刑事手続きなどの法律知識の方が重要です。ですが薬学の知識があれば、例えば、薬物依存のメカニズムや、薬物の構造式などは他の学部出身者の人よりもすぐに理解できると思います。また、医薬品の麻薬や向精神薬が関係する事件の場合は、薬学部で学んだ薬が出てきたりするので、そういった場合は、「おおっ」ってなるときがあります。他にも、押収した薬物を鑑定する鑑定課では当然薬学の知識が必須となります。私も薬剤師なので、将来的に鑑定課に配属される可能性はあります。

捜査課に配属された当初は驚くことばかりでした。真夏にエアコンを切った車内に隠れて汗をかきながら一日中カメラを回したり、ホームで始発から終電まで被疑者が新幹線から出てくるのを待ったり。報告書作成などの書類業務も多いです。個人的には取り調べが一番大変だと感じています。逮捕された被疑者には、怒鳴り散らす者もいれば黙秘する者もいてさまざまです。取り調べを担当している間は夢にまで相手が出てくることもあります(笑)

―麻薬取締官に求められる素質について

第一に強い正義感が必要だと思います。また、事件を解決するのはパズル、謎解きの側面もあるので、推理力も求められるかもしれません。必要な証拠をきちんと使う能力は、ある程度場数を踏むうちに身についていくものでもあります。体力面では、被疑者に負けないためにガタイが良かったり、走れたりすると有利ですね。日頃のトレーニングは欠かせません。

残念ながら、辞めていく人がいるのも事実です。新人は“かっこいい麻取”という夢を抱いて入ってくるので、現実の地道な捜査にギャップを感じてしまうのかもしれませんね。コツコツ地道な努力を重ねていける人の方が向いていると思います。
また、負けず嫌いな人も向いていますね。先輩の取締官は皆さん優秀なので、私も先輩方に負けないように、モチベーションを上げ、自己研鑽に励んでいます。

―麻薬取締部で働くやりがいについて

たくさんあります。中でも自分が入手した情報を基にガサ入れをして、大量の薬物を発見したときは、やってやった感がありますね。あと、取り調べでずっと否認していた被疑者が認めた瞬間は、涙が出るくらい嬉しい気持ちになります。どれだけしんどいことがあっても、こういうときがあると、また力が沸いてきます。

―今後の目標と麻取に興味のある読者へメッセージ

今は密輸対策課に所属し、密輸事件を多く扱っています。日本に存在する国際的薬物密輸組織を解明し、それらを1つひとつ潰していけたらと思っています。少なくとも薬物が当たり前の世の中にならないために捜査を続けたいです。

薬学の知識を活かす機会は多くはありませんが、私個人としてはこんなに面白い仕事はないと思うので、薬剤師の資格を違う分野で活かしたいという人は、ぜひお待ちしています!

左:近畿厚生局麻薬取締部が所在する大阪合同庁舎第4号館
中央:捜査車両で現場確認へ。
右:捜査に欠かせないアイテムたち。

Mさん(20代女性)
近畿厚生局麻薬取締部調査総務課所属
麻薬取締官
・神戸薬科大学卒業
・採用後2年間捜査を経験し、今年4月から調査総務課にて勤務。ときには捜査へ応援に行く機会も。現在3年目。

―麻薬取締部を目指した経緯

薬局で働く祖母や母、研究者の父の背中を見て、幼少期から私も薬剤師になりたいと漠然と考えていました。小学校の卒業文集にも「将来の夢は薬剤師」と書いたくらいです。高校生の頃、薬剤師にはどんな仕事があるのか調べたときに初めて麻薬取締官(以下、麻取)のことを知りました。
強く麻取を目指すようになったのは、大学で研究した「たばこの防煙」がきっかけでした。研究の一環で小中学生や高校生に対し、たばこや違法薬物に関する認識調査を行い、そこでそれらの危険性を伝えることの大切さを知りました。しかし違法薬物は依存性がたばこよりも強いので、啓発するだけではなく密売や乱用の取り締まりも重要だと感じたのです。

―調査総務課の仕事について

私が現在担当している業務は、医療用の麻薬や向精神薬の許認可手続きや、病院や薬局への立入検査や指導です。薬剤師の知識が活かされる業務です。

許認可には、免許、許可、登録、指定、届出などさまざまなものがあります。例えば、向精神薬輸入業者の免許の場合は、業者から提出された申請書類を確認し、構造設備などを直接赴いて確認し、免許証を発行する流れになります。
病院や薬局への立入検査では、麻薬や向精神薬の保管状況や帳簿等を確認して、それらの適切な管理を指導します。これによって、医療用の麻薬や向精神薬が横流しされたり、乱用されたりするのを防いでいるのです。

―必要な知識について

麻薬取締部ではさまざまな研修があり、そこで刑事手続きや捜査実務などを学びます。
調査総務課の許認可手続きでは、薬学部で勉強した知識が比較的活かされますが、捜査では薬学の知識を活かすことは多くありません。就職してから学ぶことばかりです。また、捜査では車の運転技術や土地勘も重要なスキルとなります。

―捜査課時代について

幸いにも現役の麻取の方から個人的に話を聞いたうえで入職したので、就職してからもあまりギャップを感じませんでした。やりがいを持って前向きに働ける職場だと思います。
ときには、マンションの部屋のドアを何日も見続けたり、繁華街の路上で立ったまま長時間張り込みしたり、夜まで食事する機会がなかったり、体力的にきついこともあります(苦笑)。
テレビの刑事ドラマでは華やかなシーンばかりで、短時間で事件が解決されますが、現実は逮捕するまでもっと長くかかります。でもそれは苦になりません。被疑者を見つけるまで粘りたい、もっと多くを明らかにしたい、という気持ちになります。

―麻薬取締部だからこそできる経験は?

さまざまな現場に行き、話したこともない職種の人と話せることで、世界がとても広がります。捜査では、被疑者はもちろん、照会先や合同で捜査する警察や税関や海上保安庁などさまざまな人に出会います。特に被疑者にはいろんな人がいて、暴力団関係者や外国人、大学生など、また年齢もさまざまです。麻取に就職していなかったら、まず行くことがないであろう場所で仕事をしたり、会うことがないであろう暴力団関係者と会話したりすることもあります。
とある海外組織が関係する事件で、麻取だけでなく警察・税関・海上保安庁と合同で内偵捜査を行い、チームで組織の拠点を突き止めたことがありました。その中で私は先輩と一緒に飲食店に入り、被疑者の隣の席で会話を聞いて情報を収集しました。女性取締官の強みの1つは、一見して捜査官に見えないところだと思います。男性取締官では都合が悪い捜査現場で抜擢されることもあり、そんなときはとても緊張しますが、同時にやりがいも感じます。

―簡単に薬物に手が出せてしまう時代。乱用者に思うことと、使命感

実際に取締官になってみると、安易に薬物を乱用している人が多いことにとても驚きました。そして罪を逃れようと平気で嘘をつくので、捜査課のときはそれをどうやって突き崩すか、いつも考えていました。違法な薬物密売で稼いだお金で高級車に乗り、罪を逃れるために平気で嘘をつく……まっとうに生きている人のことを思うと許せません。

違法薬物は極端に言うと国を破滅させます。最近は薬物の密売方法や隠し方も巧妙で、取り締まりとのイタチごっこです。それでも、自分の子供や未来の世代のために、薬物に汚染された社会にはしたくないと思います。麻薬取締官としてもっといろんな経験を積んで、組織に必要とされるような人間になりたいと思っています。

―オフタイムの過ごし方について

休日のリフレッシュは、私の場合はもっぱら睡眠と運動です。睡眠でしっかり疲れを取ったら、友人や家族とテニス、ゴルフ、スキューバダイビングなどいろんなことをしています。学生時代からスポーツをしていたので持久力はあると自負していたのですが、捜査はそれを上回るハードさでした(笑)。
休日でも突然仕事が入ることがあるので、プライベートの予定をドタキャンすることもよくあり、友人たちには迷惑をかけています。ただ、休日が出勤になっても代休が貰えます。もちろん有給休暇や夏季休暇もありますし、産休や育休を取っている人もいます。

―読者へメッセージ「興味があるならとにかくトライ」

就活では、就職先を安易に決めてしまった、という声をよく聞きます。実は薬剤師にもいろいろな仕事があるので、興味のあるものは徹底的に調べ、トライしてみることが大事だと思います。挑戦しないと何も開けません。少しでも麻取に興味がある方はぜひ挑戦してみてください。

右:法律に則った業務のため、法令集がマストアイテム。付箋がびっしり!

※業務の都合上、氏名と顔を伏せさせていただいております。

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pmda)

大道 容子さん
・北里大学薬学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻修士課程卒業
・独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pmda)入社、医薬品安全対策部にて勤務。現在7ヵ月目の若手社員。

―薬学部を志したきっかけ

叔母と祖母が薬剤師で親近感があったため、幼少期からなんとなく進路の1つとして考えていましたが、高校2年生のときに仲の良い友人が特発性血小板減少症になってしまったことが決定的なきっかけでした。服用していたステロイド剤の副作用が酷く長期間学校を休んでいたことがあり、「副作用の少ない薬の開発がしたい」と思って薬学部への進学を決めました。

―独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(以下Pmda)に入社した理由

Pmdaは企業を問わず、日本のありとあらゆる医薬品情報、副作用情報、新薬の承認審査に関係する情報を集め、より多くの人に貢献できるところに大きな魅力を感じました。
大学院へ進学した理由も、薬局や病院で薬剤師として現場で働くよりも、Pmdaや企業、CROで世界中の人に貢献できる仕事がしたいと思っていたからです。
病院や薬局での実習を通じて医薬品情報はとても大事だと実感し、就職活動時にはPmda以外にも複数受けましたが、受けた製薬会社でも医薬品情報を扱う部署を志望していました。

―所属している医薬品安全対策部の仕事内容について

医薬品安全対策部は、簡単に言うと副作用情報を集め、解析し、必要があれば製薬企業に添付文書を改訂する指示を行う部門です。毎日病院や薬局、製薬企業から”この薬を使ってこのような副作用が出ました”という大量の副作用情報が届くので、それが本当に薬のせいなのか、患っている病気のせいなのか、他に飲んでいる薬のせいではないのか、などを解析しています。
解析後、必要と判断されれば薬の添付文書の改訂も行います。添付文書が変わると患者向医薬品ガイドにも改訂が必要な項目があるケースがあるので、その書類の改訂も行っています。改訂は製薬企業とやりとりをして、こちらが文書を添削するイメージです。

まずは報告されてきた副作用症状を見て、それがすでに添付文書に書いてあるかどうかを確認します。添付文書にあれば特に改訂する必要はありませんが、書いてない症状については、それが明らかに原疾患や併用している薬のせいではないと判断されるものであれば、同様の報告が3件集まれば添付文書改訂に向け製薬企業に働きかけるという流れです。過去の事例を集めて、添付文書から読める副作用かどうかを確認という感じですね。

副作用に関する情報はすべて社内システムに格納されており、過去に似たような報告がなかったかなども照会することができますが、報告されたものが既知と判断していいのか、未知と判断するべきなのかがとても難しいです。

私の所属しているチームでは医療用薬品を扱っており、高血圧、高脂血症、パーキンソン病、アルツハイマー病の薬の副作用情報を収集したり調べたりしています。一般用薬品のチーム、ワクチンのチーム、抗がん剤のチーム……おおよそ疾患領域別にチームが分かれていて、それぞれの領域の情報を調べています。

―現在入社7か月。これまでに携わった仕事は?

患者向医薬品ガイドの改訂や、製薬企業から、理由があって添付文書を改訂したいという申し出もあるので、その内容を確認し、海外の情報も調べ、本当に改訂するべきかどうかをチームで会議しました。
当番制の仕事では、添付文書の改訂箇所が決まった後、企業がきちんと打ち合わせ通りに改訂されているかどうかの書類のチェックもあります。無事承諾すると企業がPmdaのサイトに掲載する手続きを行うため、その対応も行います。

海外の情報についてはアメリカとEUの添付文書を参考にすることが多いのですが、英語表記のため英単語を調べながら確認します。ですが専門用語が多いので、逆にそれさえ覚えてしまえばだいたい内容も理解できるようになります。日本のものと内容自体は似ていますが、違う点は書いてある副作用の症状の順番でしょうか。人種によって出やすい副作用なども多少あると思うので、いろいろ考慮されたうえで順番は決まっているのだと思います。

―新型コロナウイルスによる業務への影響

まず自分の働き方では、テレワークをする機会が増えました。業務内容面では、これまでは企業と対面で添付文書の改訂の打ち合わせをしていたところをメールや電話で行うようになりました。企業側もMRの人が病院に訪問できなくなっているため、医薬品の市販直後調査はダイレクトメールなど他の方法で行われています。そうなったことで集められる情報量も今までと比べると減ってしまっているのかなと感じます。企業の仕事に影響が出ているので、こちらも業務の仕方が変わっているような感じです。企業も臨床試験を中断したりペースが遅くなっていたりするので、そうすると副作用情報が集まってこなかったり、承認審査が遅れたりします。

―職場の雰囲気について

普段の社内はとても静かですが、雰囲気はとても良いと思います。真面目な人が集まっている印象ですが決して堅苦しいわけではなくて、新人の私に優しく接してくださったり、無理が無いように仕事量を配慮してくださったりします。社員の6割くらいは女性で、平均年齢は38.5歳です。
国立病院の薬剤部から出向されてくる人が多いようです。中途採用者の割合も多い印象で、病院薬剤師出身の人もいますし、CRO出身の人もいます。副作用情報の解析時に見る情報が病院の電子カルテの内容に近いものなので、その仕様に慣れている方が即戦力になるのかもしれません。

今年の新入社員は全体で40名ほど、同じ部署にも5人同期がいます。研修がほとんどオンラインになってしまい、チームも分かれているので業務で関わることはほとんどありませんが、新人のみの業務などでコミュニケーションを取れています。
また、社内にはお子さんがいる女性の主任もいますが、早めに帰宅していたりテレワークの頻度が多いので、家庭がある人でも安心して正社員として働ける環境だと思います。

―Pmdaに入って良かったと思うこと、大変なこと

医療従事者や患者さんの声を直接聞けるわけではないので、添付文書の改訂で世の中がどう変わったかを実感しにくいのですが、改訂した内容はPmdaのサイトにも載るため、自分が改訂に関わった品目の文書が公開されると嬉しいですね。現在、部署全体で医薬品の添付文書の形式を新しいものに移行していっていますが、膨大な量を締め切りまでに完遂できたときも達成感がありました。
反対に大変なことは、毎日いろんな病院、薬局、製薬企業、患者さんから届く副作用報告の量が膨大というのももちろんですが、情報が足りない中で薬による副作用かどうかを判断するのが難しいことです。患者さんの検査値、罹患している病気、他に飲んでいる薬……そういう情報が書いていないことが多いので……。

―Pmdaで働くうえで求められるスキル、性質など

薬学部や理系出身の人は大学や大学院で研究に携わる機会があると思うのですが、論文や実験結果のデータを読み解く力は仕事でもかなり必要になるかと思います。もちろん薬の作用の仕方、どういう副作用が出る可能性があるのか、といった薬学的知識も必要ですが、それは仕事をしながら調べて勉強していく側面が大きいです。薬学部で学んだ知識については、日々届く副作用報告の解析の際に役立っていると感じています。

添付文書改訂の作業のときには内容に間違いがないかを確認をする作業がとても多いので、注意深さも求められると思います。基本的にデスクワークなので、こつこつ地道に物事に取り組める人が向いていると思います。
また自主学習にはなりますが、仕事で必要かどうかは別として、薬が臨床ではどういう使われ方をするのかなど予備知識として知っておくとよりスムーズに仕事ができると思います。

―オフタイムの過ごし方

最近は新型コロナの影響もあり自宅で過ごすことが増えましたが、岩盤浴や温泉に行ってリフレッシュするのが好きです。荻窪、板橋、両国などを巡っています(笑)
休日は土・日・祝日のカレンダー通りです。夏休み、冬休みはチーム内で相談のうえ交代で取ります。それとは別に有給休暇が入社後すぐから15日付与され、よほど仕事が切羽詰まった状態でなければ取得できると思います。

―今後の目標

自分のチームだけではなく、関わっている部署や人にも関心を持って、いろんなことができるようになりたいと思っています。Pmdaにも大きく3つ部署があり、どこに所属していても他の部署と関わることがあるので、それぞれの仕事内容も知ったうえで仕事ができるようになりたいです。若手のうちは3年に1度部署異動があるので、どこの配属になってもきちんと働けるように、1つの仕事を極めるよりは、いろんな仕事に挑戦したいと思います。

―Pmdaに興味がある人へメッセージ

薬学部の卒業後の進路として病院、薬局、製薬企業などを考える人がとても多いと思いますが、それくらいしか選択肢に挙がらないのも仕方がない気がします。Pmdaの仕事は目立ちませんし、薬学部にいてもどういう仕事をしているのか知らない人が大多数だと思います。この記事を読んでいただいて、どういう会社なのかを知っていただき、医療現場や製薬企業とは違う立場で世の中を動かす仕事をしてみたい人は、ぜひ選択肢の1つに入れてみてください!