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インタビュー

漢方薬のチカラで女性の人生をサポートする「誠心堂薬局」。

子宝相談約30年、妊娠者累計4,700名(2021年7月現在)を超える実績を持つ誠心堂薬局。全店舗に漢方のスペシャリストである中医学アドバイザーが駐在し、患者一人ひとりに質の高い医療を提供しており、日本全国から相談が寄せられる。
不妊症相談・治療に特化した漢方薬局の先駆け的存在として確立するまでの道のりを伺った。

「漢方といえば誠心堂薬局」と認知されるまで。

漢方が世間にあまり広まっていなかった入社当初から、誠心堂薬局が周知されていくまでの苦労や工夫について教えてください。

個人的には、まず漢方薬の値段の高さに驚きました。保険診療だと3割、2割負担のため薬代はそれほど高くないという意識があったのですが、漢方薬は、当時は一日分が約600円でした。2種類に増えると800円で、月額にすると2万5千円くらいしてしまいます。「こんなに高くて本当に売れるのか……?」というのが、当時の率直な気持ちでした。

見方を変えれば、それだけ価値のあるものを販売するということはそれ相応のサービスを提供しなければならないとも思いました。ですが、当時まだ23歳くらいの青二才だったこともあり接客は雑、患者さんには自分の言いたいことばかり言ってしまっていました。薬学部は4年制の時代だったので、大学でコミュニケーションの授業はまったく無く、ものを売ったり提供したりすることを学んでこなかったこともあって、最も苦労しました。
また、漢方薬局を利用される方は30~40代女性が圧倒的に多く、相談内容はほぼ婦人科系の内容でした。女性特有の生理の仕組みなどをまったく知らず、そしてそれを聞くことにも躊躇いがあり、患者さんとどう接していいのか悩みました。

会社としては、ちょうど私が入社したあたりが積極的に店舗数を増やしていこうというタイミングでした。粗削りながらどんどん前進していく状況だったので、うまくいくこととそうでないことのギャップがすごかったことを覚えています。対人コミュニケーションもそうですし、会社が社員に要求するレベルもすごく高くて、それがプレッシャーで去っていく人も多くいました。コツコツ地道に継続していくことに対しての大変さはすごくありましたね。

社として不妊治療、妊活相談に注力されている理由について教えてください。

入社当時は、来局される患者さんも大きく3つのお悩みに分かれていました。1つはダイエット相談、2つめは皮膚疾患(ニキビやアトピー)の相談、そして不妊症の相談です。
ダイエットや皮膚疾患の相談は医療の進歩と世の中の変化の中で減っていきましたが、不妊症というカテゴリだけ、なかなか改善されません。高度生殖医療もどんどん発展はしているものの、体外受精や顕微授精をすれば誰もが授かることができるかというとそうではありません。
そこのケアに関して、漢方薬の有効性はすごく高いんです。女性が社会進出していく中で、結婚や子供を授かりたいと思う年齢も上がり、確かに高度生殖医療も発展するのですが“なかなか授かることができない方の受け皿”という需要が世間的にあったこと、そして我々の培ってきたノウハウや技術がそこにすごく活かされるような状況になったのが、会社として不妊症相談に力を入れていく大きなきっかけだったと思います。

また、「妊娠して出産する」というゴールが明確で力を入れやすい分野だと感じますし、妊娠・出産という人生のライフステージが変わる、人が未来に向かっていくことに寄り添えるということに社員一人ひとりが価値を感じているから、舵を切ることができたのだと思います。

患者さんからのお声や反響はいかがですか?

不妊症に関していえば、無事出産できたらお子さんを連れてまた薬局に来てくださるのが一番嬉しいことですね。うまくいった方が、同じように悩んでいる人を紹介してくださることもあります。これは不妊症に限らずですね。
漢方相談薬局の1つの特徴として、お客様一人にすごく時間をかけて一緒に治療を進めていくので、人間関係がすごく密になります。最初は不妊症で相談に来られた方が、無事出産されてその後のケアのご相談に来られたり、更年期特有のさまざまな症状が出たときに戻ってきてくださったりする方が多いです。人とのつながりが大きい気がします。

代表の口癖の“やるからには地域ナンバーワン・全国ナンバーワン”という、結果を出すことにすごくこだわっていることが、口コミが広がり、薬局の認知度が高まることにもつながっているのではないかと感じています。

中医学アドバイザーがたくさん所属されていることも、結果を出すことやより良い医療を提供するためでしょうか?

はい。中国人の中医師(※)の先生方を中医学アドバイザーとしているのですが、本場中国でしっかり学んでこられた方々ですから、確かな知識と経験を持っていらっしゃいます。そういう方がお店に常駐しているということは、常に専門性を発揮できる環境だと思っていただいて良いと思います。
従業員としても、専門性の高い中医師がどういう処方意図で薬を選んでいるのかをすぐそばで聞ける環境が知識向上や経験値アップにつながるので常に中医学アドバイザーは採用していますし、必ずどの店舗にも常駐するよう人事面でも工夫しています。会社が成長する中で、現在は薬剤師も中医学アドバイザーと同じくらいのレベルで漢方相談に乗れるような環境が整ってきたと感じています。

※ 中医師は日本の医師免許はありません。

漢方に携わりたい! という人にとって、そばで学べてすぐ実践できる環境は嬉しいですね。同レベルでアドバイスができれば、どんな患者さんが来ても誰でも対応できてすごいことですね。

そうですね。なかなか他の薬局さんではない環境だと思いますし、漢方薬局でも同じような形態でやっているところは少ないんじゃないでしょうか。

オンラインとリアル店舗それぞれの特徴を生かし、すべての人に効率の良い漢方医療を提供。

現在千葉、東京での店舗展開ですが、関東以外への店舗進出の構想はありますか?

店舗出店は費用的に大変な部分もあるので、全国各地に店舗を作らなくてもオンラインで相談が可能なので、そこに注力していっています。奇しくもこのコロナ禍が後押しになっています。リアル店舗がなくても、対面に近い状態できちんと意思疎通をしながら相談できるのは画期的ですね。全国的にお店を作るよりも、オンラインを強化していって、全国の人に同じサービスを提供できるようになることが求められていると思います。とは言うものの、ニーズのある地域には引き続き出店していきたいとも思っています。

オンライン運営、店舗運営でそれぞれ目指されていることはありますか?

オンラインの方はまだ始めて間もないので、今後もっと伸ばしていきたい分野ですね。お気軽に相談していただけることがメリットなので、ハードルが高いと感じられて店舗に来づらいような方がオンラインで相談できて、当社としては比較的時間に余裕がある若手薬剤師がその相談に乗るという仕組みづくりができたら、もっと中医学や漢方の認知が広がる手助けになるのではないかなと思っています。

リアル店舗については、重い相談や真剣に相談したいという方をターゲットにしています。例えば自由が丘店は、開店当初は物珍しさで多い日で1日60名くらい一見のお客様が来られたりしていたのですが、そういう方はお客様として続かず、固定客の確保に非常に苦労しました。気軽に入れるようなお店作りももちろん大事ですが、本当に困って悩んでいる人が入りやすいお店を作ることが理想です。
興味本位の方やまずは簡単に相談したいという方はオンラインで対応、その棲み分けができれば、結果や実績としてより世間に認知されていくことにもつながると思っています。

誠心堂薬局自由が丘店。駅チカの大通りに面した開放的な店内にはたくさんの漢方薬品が置かれている他、相談ブース(半個室のブース有り)や自由が丘店限定の中医美容エステブースがある。

仲間をもっと増やして、漢方の有用性をもっと世間に広めたい。

松島様が思う漢方の魅力について教えてください。

西洋医学だけではどうしても解決できない病気や体調の不良はたくさんあり、そこに漢方薬を取り入れて状態が良くなる方もたくさんいらっしゃいます。私は、西洋医学は否定しませんし漢方薬がすべてとも思っていませんが、それを目の当たりにしているので西洋医学と東洋医学の両方を取り入れることが一番の理想と感じています。いいものを取り入れていくことがその人の健康維持にもつながるわけですから、西洋医学で足りない部分を東洋医学で補完できること、違うアプローチの仕方があるところがとても魅力的だと感じています。

それから、「養生」という考え方も面白いです。漢方薬は病気を治すことはもちろんですが、「病気にならないような体づくり」をしていこうという要素を多分に含んでいます。なんとなくだるい・調子が悪いという不定愁訴を、具体的にどういう部分のバランスが乱れているのか、という点に着目して治療することが西洋医学とは違っていて面白いですね。

「健康で長生き」のために、セルフメディケーションの点でももっと漢方が必要とされる時代になるかもしれませんね。

かかりつけ薬剤師や健康サポート薬局のような専門性を発揮する薬局が求められ、差別化・淘汰される時代になると思います。保険医療のあり方が変わるような世界観ではないのですが、一つの地域の薬局の在り方として、漢方薬専門の薬局があり、セルフメディケーションを推進していく一翼を担うことができたら、世の中にとっても良いことだと思っています。医療費はどんどん上がっているわけですけれど、代替医療の中でも漢方薬はしっかり結果を出せる分野ですし、病気を未然に防ぐという考え方もありますから、それを一人ひとりが認識して、例えば風邪などに自身で対処することが浸透すれば、医療費削減にもつながると思います。

コロナ禍で、自分の健康は自分で維持・管理することの大切さに多くの方が気付かれたと思います。その中には完全に独学で漢方を始める人も多いと思うのですが、そのリスクや、事前にきちんと学んでおいた方が良いと感じられることはありますか?

今はネットで調べて購入される方も多いと思うのですが、漢方も薬なので、薬害が報告されているものもありますから、適正な使用が大事です。新薬のように急激な副反応が出ることは少ないのですが、一番残念に感じるのは、ネットで調べて自己判断で購入されて、それが効かなかった場合です。「漢方って効かないじゃん」と思われると思うのですがそれがすごく残念で、きちんと自分の身体の状態を把握して、理論に則って考え薬を選んであげられたら、ひょっとするとすごくよく効いたかもしれないということが容易に想像できます。自分の体調や体質に合っている漢方を選ぶことができずに「漢方はだめだな」と思われてしまうのは非常に残念です。

漢方を通じて薬剤師に期待されることを教えてください。

これから薬剤師に求められることは、どれだけ患者さんのことを想って伴走できるかに尽きると感じます。薬の専門家として患者さんの体調を見ながら健康管理に貢献することになると思うので、漢方薬についての知識や技術を身に着けていくことはきっと大きな武器になります。また、西洋医学ではどうにもならない受け皿という意味では、漢方薬は必ず西洋医学とは違う力を発揮してくれると思います。
だんだん認知されてきているとはいえ、ドクターが漢方に力を入れていくかというと、そうはならないような気がしています。多くの保険診療でやっている漢方は、あくまで病名に対してこの漢方薬を使う、という感じで処方されているので、患者さん一人ひとりの体質を見て出しているわけではありません。そういう意味で、薬剤師として漢方薬の知識や技術を身に着けることは医師に向けて発信できる部分でもありますし、薬剤師の価値を高める意味でも必要な知識やスキルだと思いますね。

今後の誠心堂薬局の展望について教えてください。

漢方薬や中医学を学ぶ仲間をもっと増やしていくことが大きな目標です。そのために社内の研修制度を充実させていくことも重要ですし、ニーズのある地域には引き続き店舗を出店していきたいとも思っています。まずは関東の一都三県あたりに出店をして、同じように漢方を志す薬剤師を集めて、世の中にもっと漢方を広めていきたいと考えています。
あとは「誠心堂は不妊相談では関東ナンバーワン」と言われる薬局になること、女性のライフステージに合わせたケアができる薬局になるべく邁進していきたいです。不妊症の相談から妊娠出産、産後のケア、更年期、骨粗しょう症など女性特有の悩みに寄り添い続けられる薬局づくりをしていきたいと思います。