薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ |
第56回「乳がんの薬物治療②」

LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬
前回は乳癌の薬物治療の全体像を確認しました。今回は、LH-RHアゴニスト(リュープロレリン・ゴセレリン)とアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール・レトロゾール・エキセメスタン)の特徴と使い分けを整理しましょう。

1. LH-RHアゴニスト
閉経前乳癌に使用される皮下注射剤です。下垂体のLHーRH受容体を持続的に刺激し、ダウンレギュレーションによってLH・FSHの分泌を抑制します。
投与開始直後には、一過性にLH・FSHが上昇することもあります。
■ゴセレリン(ゾラデックス®)
3.6 mg(4週毎)と10.8 mg(12〜13週毎)の製剤があります。注射器と薬剤が一体になったプレフィルドシリンジで、直径約1.2〜1.5mmの円柱状の固形物を皮下に埋め込むように投与します。
そのため、針が太く(3.6mg製剤で16G、10.8mg製剤で14G)、投与部位は前腹部に限定されています。
効果に関しては、10.8 mg製剤は3.6 mg製剤に対して非劣性が確認されています。
■リュープロレリン(リュープリン®)
3.75 mg(4週毎)、11.25 mg(12週毎)、22.5 mg(24週毎)と幅広い製剤があります。長期投与が必要な術後補助両方において、外来通院の頻度や患者のライフスタイルに合わせて調整できて負担を軽減できる点は大きなメリットです。
また、マイクロカプセル製剤で注射針が細く、腹部だけでなく上腕や臀部に注射することもできます。
■リュープロレリンとゴセレリンの比較
効果はほぼ同等で、どちらも卵巣機能を抑制できます。また、どちらもタモキシフェンと併用することでリスクの高い患者にも有効性が期待されます。
違いは、投与部位の刺激と投与間隔にあります。
2. アロマターゼ阻害薬(AI)

アロマターゼ阻害薬は閉経後や卵巣抑制下で使用され、末梢脂肪組織や副腎でのアンドロゲンからエストロゲンへの変換を阻害します。「非ステロイド性」と「ステロイド性」に分けられます。
■アナストロゾール(アリミデックス®)
非ステロイド性・可逆的アロマターゼ阻害薬。1日1回1mg内服します。服用時点の決まりはありません。
タモキシフェンと併用すると有害事象の増加と乳癌再発抑制効果の阻害の可能性があると報告されているため、タモキシフェンとの併用は推奨されません。
■レトロゾール(フェマーラ®)
非ステロイド性・可逆的アロマターゼ阻害薬。1日1回2.5mg内服します。アナストロゾール同様、服用時点の決まりはありません。
■エキセメスタン(アロマシン®)
唯一のステロイド性アロマターゼ阻害薬です。アンドロゲンと似たような構造をしているため、アロマターゼ阻害薬のアンドロゲン結合部位に結合することで不可逆的に阻害します。
1日1回25mg、食後に服用します。食後に投与することで、空腹時投与と比べてCmaxが25%、AUCが39%上昇します。
■アナストロゾール・レトロゾール・エキセメスタンの比較
アナストロゾールとレトロゾールは効果も有害事象の出現頻度も大きな差がありません。エキセメスタンは機序が違うので、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬で副作用や抵抗性が出たときに、切り替えて使用されることもあります。
服薬方法では、アナストロゾールとレトロゾールはシンプルに1日1回服用ですが、エキセメスタンだけは食後に服用する必要があるという違いがあります。
3. 副作用とその対応
LH-RHアゴニスト・アロマターゼ阻害薬ともに体内のエストロゲン量を低下させるため、ホットフラッシュや関節痛、骨粗鬆症、悪心などの副作用のリスクがあります。
骨密度低下のリスクが高い場合はビスホスホネートやデノスマブの併用が検討されます。
治療は年単位で続くため、患者が継続できるようにサポートすることが薬剤師の重要な役割になります。
4.LHーRHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用
「LHーRHアゴニスト=閉経前」「アロマターゼ阻害薬=閉経後」が基本ですが、閉経前でもLHーRHアゴニストで体内のホルモン環境を閉経後の状態にすることで、アロマターゼ阻害薬が有効になります。
ガイドラインでも再発リスクの高い患者に対しては、有害事象のデメリットよりも効果のメリットの方が上回るため併用が推奨されています。
閉経前患者へのアロマターゼ阻害薬投与は適用外使用となりますが、ガイドラインでの推奨もあり、LHーRHアゴニスト投与下もしくは卵巣摘出後の状態であれば保険審査上認められています。
参考
日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版・2024年3月Web版
社会保険診療報酬支払基金 支払基金・国保統一事例【投薬】581



