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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第57回「乳がんの薬物治療③」

抗エストロゲン薬と黄体ホルモン製剤

今回はホルモン療法のまとめとして、タモキシフェン、トレミフェン、フルベストラント、酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)についてです。

 

いずれもホルモン受容体陽性(ER+)乳がんに用いられる薬剤ですが、それぞれ作用機序や適応、ガイドラインにおける位置づけが異なります。

ポイントを押さえておきましょう!

 

タモキシフェン(ノルバデックス)

 

タモキシフェンは、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)に分類されます。乳腺ではエストロゲン受容体を競合阻害する一方、骨や子宮には部分的にアゴニスト作用を示す特徴があります。

 

術後補助療法として長く使われてきた薬剤で、閉経前の標準的治療に位置づけられています。

再発リスクが低くない時はLHーRHアゴニストと併用して治療します。閉経後の場合はアロマターゼ阻害薬が1番に推奨され、アロマターゼ阻害薬が使用できない場合にタモキシフェンが推奨されています。

再発リスクに応じて5年から10年までの投与が推奨され、5年間投与よりも10年間投与の方が再発・死亡リスクをさらに下げることが報告されています。

 

副作用としては、子宮内膜癌(子宮体癌)のリスク増加を心配される患者が多いかと思います。罹患リスクの増加には年齢が関係しており、55歳以上では2.96倍になりますが、54歳以下ではリスクの増加は認められていません。また、子宮内膜癌による死亡リスクの増加も認められていません。

不正性器出血などの症状があれば検査が必要になるため、すぐに連絡するように指導が必要です。

 

また、タモキシフェンはCYP2D6によって代謝されることで活性化します。そのため、CYP 2D6の強力な阻害薬との併用には注意が必要です。中でも、乳癌ではうつを経験する患者が多いことや、タモキシフェンによる火照りを和らげるために抗うつ薬が投与されることがあるため、強力なCYP 2D6阻害薬であるパロキセチンの併用には要注意です。

 

トレミフェン(フェアストン)

トレミフェンもSERMに分類され、タモキシフェンと構造が類似しており、臨床試験ではタモキシフェンと同等の有効性が示されています。副作用もタモキシフェンと類似しており、ホットフラッシュや血栓症リスクに加え、肝機能障害などに注意が必要です。

 

タモキシフェンと異なり、適応が「閉経後乳癌」となっていますが、閉経前乳癌に対して処方した場合も審査上認めるとされています。また、QT延長の恐れがあるため、クラスⅠA・Ⅲ抗不整脈薬とは併用禁忌であるという違いもあります。

 

 

フルベストラント(フェソロデックス)

フルベストラントは、選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)に分類される注射薬です。エストロゲン受容体の分解を促進する作用を持っているため、耐性化が起こりにくく、がん細胞の増殖をより長く抑えられると期待されています。

投与は筋肉注射で、初めの3回は 2週間間隔、その後は4週間間隔で投与します。

 

ガイドラインでは、再発・転移例においてフルベストラントの使用が推奨されています。閉経前の場合は、CDK4/6阻害薬とLHーRHアゴニストとの併用が第一選択とされています。

閉経後の場合は、単独投与あるいはCDK4/6阻害薬と併用しての投与が行われます。

 

副作用としては注射部位反応や火照りが多いです。また、肝機能障害や血栓塞栓症の報告もあるため、定期的な検査や症状の観察が必要です。

 

 

メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)(ヒスロンH)

MPAは黄体ホルモン製剤で、タモキシフェンと同等の有効性が示唆されている閉経前後どちらでも使用可能な薬剤です。

しかし、副作用として食欲増進による体重増加、浮腫(満月様顔貌)、血栓症、高揚感などが報告されているため、乳癌治療の第一選択にはなっておらず、他の治療を試した後の後期ラインでの使用が推奨されています。

 

 参考

日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版・2024年3月Web版
社会保険診療報酬支払基金 83 トレミフェンクエン酸塩(外科1)
各添付文書
アストラゼネカ株式会社 フェソロデックス患者指導用資料