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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第4回 精油の正体

3回にわたり、実際の使い方に焦点をあてて、アロマテラピーの基礎知識を取り上げてきました。今回はもっと「精油(エッセンシャルオイル)そのもの」にクローズアップしたいと思います。

あの魅力的な遮光瓶の中にある香りのよい液体は何なのか?―薬剤師さんや薬学生さんなら気になるところですよね。極めてロジカルな言い方をしてしまえば、「植物の二次代謝産物である有機化合物の混合体」です。

精油の小瓶の中にはなんと数百種類の有機化合物が混在しています。これが芳しい香りの正体です。簡単なものでも200種類、ローズなど香りに奥行のあるものは400種類以上の有機化合物が検出されています。

ではなぜ植物は、こんなに多くの種類の有機化合物を作り出すのでしょうか?考えてみればちょっと不思議ですよね。だって根から吸い上げた水分(H2O)と、気孔から取り入れた二酸化炭素(CO2)をもとにして自分の栄養素となるグルコース(C6H12O6)を作って、植物としては不要な酸素(O2)を放出するのが光合成であり、植物にしかできない経路で自らの栄養を作り出しているわけですから、なぜその後にこの貴重なグルコースを壊してまで精油のもととなる有機化合物を生産するのでしょうか?

もうお分かりかも知れませんが、実は植物は自分の体を守るために、精油成分を作っています。植物は動けません。ずっとその場にいて動けないのにも関わらず、樹齢数百年と言われるくらい人間よりもはるかに長生きできる最大の武器となるのが、何を隠そう精油成分だと言われています。

精油の役割りとして大きく分けると次のように考えられています。
①忌避効果
外敵となる虫や小動物が嫌う香りを出して遠退けたり、必要以上に食べられてしまうのを防ぐ。

②誘引効果
虫媒花の場合、受粉を助けてもらうために特定の虫や小動物をおびき寄せる。

③近隣植物の成長抑制効果
自分の生存範囲であるテリトリーを確保するため、他の植物の発芽や成長を妨げる。

④冷却効果
精油を出すことにより気化熱を利用して植物自身の表面を冷やす役割。特に気温の高い地域に生息する植物には必要不可欠な効果。

どおりで良い香りからは離れられない訳ですね。人間ももしかしたら一種の誘引効果を利用されているのかもしれません。たしかに良い香りがする植物は人間にも特別に手厚く扱われていますから、種の保存という意味では植物の作戦勝ちと言えるかもしれません。
また抗菌作用をもつ精油成分は多いですが、これも動けない植物が細菌に負けることなく生き延びるために必要な作用だと言えます。
精油は植物が生存し続けるためには欠かせない、一種の飛び道具と言えるかも知れません。
植物って知れば知るほど、賢いですよね。