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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第25回 アロマで認知症は防げるのか?

私がアロマとハーブで壁面を埋め尽くした薬局をしていた5年前、「アロマで認知症対策ブーム」がちょうど起こった頃だったため、普段はあまり回転しない精油たちがその時だけはまさかの売り切れ!品薄状態!が続いたことがありました。(この薬局は大阪の下町にも関わらず本格精油を50種類以上そろえた薬局だったため、ちょっと時代の先を行き過ぎたのか、5年でクローズしてしまいました笑。)それくらい、日本人は認知症に対して敏感であり、一大問題と捉えている方が多いということだと思います。実際、アロマテラピーをお伝えしている私としては、質問を受けるカテゴリーとしても一番多いのが、この「認知症対策」についてです。ということで今日はこの場をお借りして、実際アロマと認知症の関係をどう捉えるべきなのかについて自論を展開したいと思います。

●認知症の初期症状は「嗅覚異常」
認知症は進行の前段階において「MCI(軽度認知症)」という状態があります。この時、一番に現れる症状が「嗅覚が鈍くなる」というもの。例えば「ご飯の時の味噌汁のにおいがわかりにくい」などです。これは、海馬の変質より前に嗅内皮質が変質してしまうからで、特にアルツハイマー型の場合に顕著です。認知症と嗅覚の関係性は、私達が思っているよりも密接であると思います。

●嗅覚は古い記憶のアンカー <プルースト効果>
ロシアの文豪・プルーストが人生をかけたとも言えるほどの大作「失われた時を求めて」の書き出し部分には、香りと記憶の関係が大きな鍵となって表されています。そこには、主人公がマドレーヌをアールグレイに浸して食べようとした時に、その香りと味覚により懐かしい記憶が一度に大量に蘇ってきたと書かれています。 ―そうです!特定の香りにより感じる嗅覚は、ある特定の古い記憶を思い出させる作用があるのです。実際にこの嗅覚の特異性は「プルースト効果」と名付けられています。このことから、香りにより失われたかのように思っていた記憶を取り戻すことができるということですよね。

●認知症になると概日リズムが乱れてしまう
認知症患者は朝・夕などの時間の感覚が乏しくなることが知られていますが、朝・夕に特定の香りを使い、あたかも照明のスイッチのように香りと時間を関連付けることにより、日内リズムが整う可能性があります。鳥取大学の浦上教授が提唱された、「朝はローズマリー精油とレモン精油2:1、夜にラベンダー精油とオレンジ・スイート精油2:1のブレンドを嗅ぐことにより、認知症が予防または改善できる可能性がある」というエビデンスデータは、このことを物語っていると思います。

以上のことから、香りは認知症対策の一つの有用なツールとして利用すべきだと、私は考えています。特に日本人としてなじみのある日本産精油を使うことにより、その作用はもっと大きなものになるのではないかと考えます。もう発症した方はもちろんのこと、できれば最近物忘れがひどくなってきたなあと感じるミドルエイジの方こそが、香りの効果を実感しやすいのではないかと考えています。私もそろそろ、使いだそうかなと考えています(ほんとの話。)