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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第26回 『香育』って大事

香育(こういく)という言葉をご存知でしょうか?
我が国最大規模のアロマテラピー団体である日本アロマ環境協会(AEAJ)では、「子どもたちに香りの体験学習を通して、豊かな感性と自然環境への意識を育んでいただく目的で、子どもたちを対象とした香りの教育を『香育』と名付け、2001年より幅広い活動を実施」(以上、AEAJホームページより引用)というように、香りの体験イベント開催のほか、各地の小中学校等を訪れて「香育」の出張授業を行う際のサポートを行っています。

なぜ今、香りに触れる体験が必要なのか。これは私論になりますが、感情の豊かさに直結する取り組みだからだと考えています。このコラム連載の中でも何度かお伝えしていますように、嗅覚は大脳辺縁系という、古い脳と呼ばれている人間の本能の部分に直接影響を及ぼす感覚です。薬剤師や薬学生の皆さんはもうご存知のことだと思いますが、人間の脳は特徴として、ほかの生物に比べて大脳新皮質(新しい脳)が高度に発達しています。・・・理解・論理を司る脳は発達をしましたが、それに比して、感情・記憶の部分は割合として小さくなっている訳です。その部分を適度に刺激し、豊かな神経伝達をよみがえらせるために、香りは大きな意義をもっているのではないでしょうか?

以前、香育の講座を始めたばかりの頃、愕然とした経験があります。親子が数組参加された講座だったのですが、お母さんたちはラベンダー精油をはじめ数種類嗅いで「甘い、いい香り!」と言ったのに対して、10歳前後の子供たちが香りを嗅いで一斉に「なにこれ?くさい」と言ったのです。「くさい」という言葉は語弊があると思いますが、子供たちにとって精油の香りが「経験したことのない、違和感」と感じて、これを表す言葉がないので「くさい」と表現したのだと思います・・・。普段、空気の香りを感じておらず、化学調味料で香りづけされているこども達の脳内にある香りの「パレット」は、野山を駆け回った大人たちに比べて非常に乏しいのだと、思い知らされた体験でした。

一方で、感動した経験もあります。五歳くらいの女の子でしたが、マンダリン精油の香りを嗅いでもらってどんな香りかな?と質問すると、「甘くておひさまみたいに温かくって、オレンジ色の感じがして元気になった」と答えてくれました。まさに、マンダリンであることを言い当てたかのような的確な表現で、また、香りからそのイメージをここまで感じ取って表現できるのかと驚きました。香りを嗅いだ時の女の子のうっとりと、嬉しそうな表情は今でも鮮明に思い出すことができます。

「香育」を行う場合、なにもたくさんの精油を用意する必要はありません。むしろ、香りの凝縮物である精油をあえて使う必要はないのです。果物の皮であったり、葉っぱの裏をこすってもらったり、ドライハーブを粉にしたものを利用して香りに触れあって感じて頂く。そんな簡単な取り組みで、こどもの心が少し柔軟なものになるとすれば、社会が明るくなる気がしますよね!表現の仕方は、香り当てゲームであってもいいですし、感じたイメージを絵にかいてもらってもいいですし、どんな方法でアウトプットしてもらっても構いません。ぜひ身近にいるお子さんに、香りの世界へつながる扉を開けるお手伝いをされてみてはいかがでしょうか?

かく言う私も、アロマテラピーに初めて触れたのは、私が小学生だった頃に大阪で開かれた「花の博覧会」のパビリオンの一つの小部屋でした。このお話はまた、いつか機会があれば・・・。