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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第45回 香りのメモリー 1.マートル

寒い季節になりました。そんなときこそ家の中で暖かくして過ごしていたいと、心の底から思います……。
さて、今回から数回にわたって、記憶に残る香りをご紹介したいと思います。私の香りの体験をお伝えすることによって、見えない香りを身近に感じていただけると嬉しいです。

マートルは日本名ではギンバイカ(銀梅花)と呼ばれます。白く丸い花弁と長いおしべを持ち品の良い花をつける植物で、西洋では古くから平和を意味する植物として扱われてきました。
私がマートルの香りと出会ったのは、まだ学生の頃、アロマのレッスンのときでした。
精油の小瓶の蓋を開けて鼻を近づけたときに、とても酸っぱいにおいがして、「この香りを使うことがあるだろうか?」と顔をゆがめてしまった私。
その表情を見て、私のアロマの師匠である西山先生が「この香りはね、時間が経つと香りが変わるの。驚くほど良い香りになるのよ」と教えてくれました。
ほんとかな? こんなに鼻につくようなにおいがまろやかになるものだろうか?と思って、私は疑問を払拭するために、精油をつけた試香紙をバックに入れて持ち帰りました。

数時間後、私はもうすっかりマートルのことは忘れてしまっていました。家に帰ってバックから物をとろうとファスナーを開けたとき、なんとも凛とした清々しい香りが、どこからか漂ってきたのです! とても驚きました。まるで香水のような、調和のとれた香りなのです。このときから、私はマートルの大ファンになってしまいました。
酸っぱい香りの原因はシュウ酸化合物と言われています。シュウ酸化合物は酸味がありますが、比較的揮発速度が早いため、半時間もすれば空気中に逃げていきます。残った香りは非常にバランスのとれた良い香りが続きます。美の女神であるヴィーナスが誕生した後、あまりの美しさに目を奪われた神々から逃げるためにマートルの木陰に逃げ込んだという逸話が、西洋には残されています。この木を選んだセンスが素晴らしいと思いますし、また酸っぱいトップノートにせよ、清らかすぎるミドルノートにせよ、この香りによって隠れていてもすぐに見つかってしまうのではないかと思います(笑)
いずれにせよ、美の女神のような雰囲気を楽しんでいただきたいため、マートルは数時間後の香りを楽しみましょう。

【マートル】
学名/Myrtus communis
科名/フトモモ科
主産地/モロッコ・チュニジア・オーストリア
蒸留方法/葉・水蒸気蒸留法