この香りを思い浮かべると、自然と笑顔になってしまう。そんな牧歌的なイメージが似合う香り、カモミール・ローマン。その理由は、この植物が使われてきたシーンとその甘い香りにあると思います。
まず香りですが、アロマテラピーの教科書には「リンゴのような香り」と書かれています。鼻に近づけると確かに甘く果物のような香りがします。これはアンゲリカ酸エステルを始め、エステル類を多く含むからです。果物や花など、成熟した香りの成分であるエステル類は、人の神経を鎮静化させる働きを持ちますので、カモミール・ローマンの香りを嗅ぐと、緊張してピンと張りつめた心の糸がふわっとほぐれて顔の筋肉が緩みます。
そしてこの植物が使われるシーンとして有名なのが「ピーターラビット」です。育ち盛りのウサギの男の子・ピーターは、近くの畑に大好きな人参が植わっていることを知っていますから、昼間にどうしてもいたずらをしてしまい、隣のおじさんに追い回されます。夜、高まる神経を鎮めて眠りを誘うためにお母さんが作ってくれるのが、カモミール・ミルクティーです。ティーに使うカモミールはローマン種ではなくジャーマン種である可能性が高いですが、いずれにせよ、カモミールの甘い香りに癒されて、ピーターはやがて幸せに眠ってしまいます。
私自身、このカモミールの持つ鎮静作用は安心感も一緒に与えてくれるため、一種の母性のような香りだと感じています。以前、新米ママさんのためのアロマ講座を開いたときに、カモミール・ローマンの説明をして実際に使い方を提案している最中に、赤ちゃんがみんな眠ってしまったというエピソードがありました。まさにピーターラビットのようだ、とママさんたちと笑い合った記憶があります。
また、これはアロマの勉強を始めた大学時代ですが、英文学に刺激されてカモミールの芝生を作りたいと思い、家の裏にある小さなスペースの一角にカモミール・ローマンの苗を敷き詰めたことがあります。明日になれば、芝生に降り立ったときに足元からリンゴの香りがするのだとワクワクして作業を進めました。
ところが翌朝庭を見てみると、花芽が全部なくなっており、どうしたのだろうと調べてみると、アリやバッタに全部食べられていたということがありました。甘い香りは人だけではなく、虫までも虜にするのかと驚きました。
気持ちをやわらげ、安心感を与える精油、カモミール・ローマン。ちょっと疲れたときに自分に栄養を与える場面で、この香りの力を使うことをお勧めします。
【カモミール・ローマン】
学名/Anthemis nobilis
科名/キク科
蒸留方法/花・水蒸気蒸留法
主産地/ドイツ・フランス・モロッコ・南アフリカ