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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第56回 香りのメモリー 11.スギ

今でこそ日本産アロマというジャンルが知られるようになり、数多くの精油が販売されるまでになりましたが、私が仲間を募り日本産アロマの商材を世に送り出す企業を立ち上げた頃には、まだヒノキくらいしか一般的にはなっていない頃でした。スギは日本の固有種であり、古来親しまれてきた樹木です。

関西を中心に主に西日本の山々をめぐり、協力者とともに森に入り、初めて精油を精製できたのがスギの葉でした。ビギナーズラックとでも言いましょうか、最初に抽出したスギ精油の香りが素晴らし過ぎて、その後は採るたびに香りが違い、みんなで頭を悩ました記憶があります。これはやはり、スギの木自身が育ってきた生育環境(日光の当たり具合、水、土地など)にもよると思いますし、個体差もあると思います。その土地の香りであると思えば、香りの違いも楽しめるかも知れません。

スギ精油の話をすると、「スギ花粉症ですが、精油を嗅いでもアレルギー症状はでないでしょうか?」とのご質問をよく頂きますが、答えは「心配ご無用」です。なぜなら、スギは水蒸気蒸留法で抽出されるのが一般的であり、100度の蒸気で芳香成分が揮発し、それを冷却器で冷やすことにより液体となったものが精油です。その工程に花粉が混入されることは、まず無いと言えるでしょう。

スギの利用法は数知れずありますが、建築材として使われるのは、この木が軽いのに丈夫で真っ直ぐに伸びるから。「真っ直ぐ」から「スギ」と名付けられたとも言われています。また、桶や樽に使われたのは、抗菌作用が高く、香りもきつくなく、食糧を長期保存するのに適していたからです。日本の林業が盛んだった頃には、この木を植えれば利用価値が高く、高値で売れるため、日本の山々には等間隔で植えられています。

香りの作用としては抗菌作用の他に、リフレッシュ作用が期待されています。芳香成分の組成を見ても、モノテルペン炭化水素が主成分であり、フィトンチッドと呼ばれるような、森林の空気中に存在するリフレッシュ作用を有する成分と似ています。そのため、ストレスを感じやすいオフィスなどでの芳香浴に最適な香りと言えます。私はスギ精油を使ったスプレーを職場に置いて、気分転換したいときにシューっと一振りして楽しんでいます。

なお、メーカーによっては幹・枝・葉など、抽出部位によって精油を分けて販売しているところがあります。これは精油成分が部位によって変わり、香りも違うため。どちらかというと幹に近づくほど分子量が大きく、香りも重いベースノートとなり、リフレッシュというよりはリラックス作用を示すものが多く、反対に葉に近いものほど香り立ちが良いトップノートとなり、前向きにリフレッシュ作用を示すものが多いようです。その日の好みに応じて使い分けることをお勧めします。

スギ

【スギ】
学名/Cryptomeria japonica
科名/ヒノキ科スギ属
抽出部位:木部・枝部・葉部/水蒸気蒸留法
産地:日本