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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第57回 香りのメモリー 12.クロモジ

この植物については、語り出したら止まらない――クロモジは私にとって、そんな植物です。
クロモジと聞いて、「爪楊枝ですね」と答えられる方は、案外いらっしゃいます。和菓子の横に品良く添えられている、高級和菓子を食べるときに使う、あの小枝のことです。

なぜ「クロモジ」という名なのかには諸説ありますが、黒みを帯びた表皮に、まるで文字を書いたかのような白い線が現れるから黒文字という名になったと言われています。
ちなみに、白文字という植物も存在しますが、こちらには香りは感じられません。

クロモジから精油を抽出したのは、日本の企業です。ローズウッドに高濃度で含まれるリナロールという芳香成分が50%も含有されるという分析結果が出て、大発見だと騒がれたそうです。確かにクロモジ精油の香りは、日本産アロマの中では間違いなく一番良い香りと評価する方が多いと思います。優雅で気品ある、素晴らしい香りです。
一般的には“リラックスできる香り”として紹介されていますが、ユーカリ精油の主成分である1,8-シネオールも20%程度の濃度で含有されているため、人によっては「目が覚める感じがする」との感想を持たれる方もいらっしゃり、嗅覚がどちらの成分にフォーカスしやすいかで作用も変わるのだと深く思い至ったことがあります。

抗菌作用があるため、地方ではクロモジ茶として、枝葉を細かく折って水やお湯で抽出したものを飲む習慣があるところも存在します。ただし、良質なクロモジは非常に高価で手に入りにくくなっています。
また、天皇の即位式のときのみ限定して、クロモジの小柴垣を作り、そこにお湯をかけるという習わしのある神社が数か所だけあります。お湯をかけた瞬間、気品ある香りが辺りに立ち込めて、祝福する人々を優雅な世界へと誘うのは、やはりこの香りにしかできない逸品の技であると思います。

豊かで類まれな香りを放つクロモジですが、山林の中ではなかなか見つけられません。これは、見た目にそんなに特徴が無いからです。花が咲く初夏には辛うじて分かりますが、クロモジを探すアンテナがついている方にしか、見つけられない植物です。
ひょっとしたらあなたの横にある、ごく普通の小枝が、実は和の香りの女王かも知れないなんて、ちょっと日本の奥ゆかしさを感じて素敵なエピソードだと思いませんか?

クロモジ

【クロモジ】
学名/Lindera umbellate
クスノキ科
枝・葉部の水蒸気蒸留