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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第58回 香りのメモリー 13.ローズ・オットー

いきなり私事で大変恐縮なのですが、私をよく知る方からは「吉田さんには一番似合わない香り」と言われてきた香り―それが今回お届けするローズ・オットーです。

バラの香りを表す書籍には必ず書いており、また小著にも再三書いてきたのですが、バラの香りは一言で例えれば『香りの女王』。言わずと知れた女性性を現わす香りであり、女性ホルモン様作用もあるため、自律神経の乱れや、ホルモンバランスが崩れたときに使用するとよい香りです。何かの理由で自信が崩壊してしまったとき、または自分を癒すゆったりとした時間を必要とするときに、この香りは心を優しく包んでくれます。
バラの香りを好む方はとても多く、上記の理由で精神的に傷ついた状態や、更年期の女性などから不動の支持を得ている香りと言えます。

初心者アロマセラピストだった頃、実際に施術をしていた頃に、典型的だった例をご紹介したいと思います。
そのお客様はとても疲れているように見えました。話を聴いてみると大失恋をしたばかりで、何も考えられないというのです。視線は落としたまま、こちらの顔も見てくれません。言葉に力はなく、肌や髪も色褪せてしまったように感じました。やっと聞こえた言葉は「なんだか心にぽっかりと穴が開いてしまったようなんです……」でした。―心に穴が開いたみたい―この言葉だけで、ローズを選択したくなるキーワードだと、私は考えています。

ローズ・オットーをたっぷり使ってあげたい! 瞬時にそう思ったのですが、あいにく、ローズ・オットーは非常に高価な精油です。ローズの精油には2種類あり、アブソリュート(溶媒抽出法で抽出した精油)とオットー(水蒸気蒸留法)があります。
私個人の考えとしては、溶媒抽出法を使った精油は、香りを楽しむときや雑貨を作るときには使用しますが、アロマトリートメントには使用したくないのです。いくら溶媒が揮発したとはいえ、やはりできるなら、水蒸気蒸留法で採ったピュアな精油を使って差し上げたいのです。そう思って、ボディーにはローズウッド精油やパルマローザ精油を使用し、フェイシャル用のオイルとして、ローズ・オットー精油を使って、緩やかに、極めて遅いタッチでゆったりとトリートメントを行いました。

トリートメントを終えた彼女は、別人のような表情になっていました。「癒されました」と笑顔も見え、言葉も遅いながらもしっかりとした声になっていました。施術で残ったオイルを持って帰っていただき、手や顔に塗り、その香りを継続して楽しんでいただきたい旨をお伝えしました。

ローズ・オットーは本当に素敵な香りです。人間の嗅覚の特異性を最大限に利用して、あたかも「心の免疫力」を高めるかのように働きかけてくれます。そんな素敵な香りなのに、なぜ私には似合わないと言われるのか。―これは一つには女性らしさが皆無だからでしょう。
もう一つはローズを嗅ぐとすぐに寝てしまい、本領を発揮できないからなんです(笑) ローズのハーブティーでも寝てしまいます。騒がしいやんちゃさんはすぐに寝落ちさせるくらいに落ち着かせてしまう。これもローズ・オットーの隠された力の一つかも知れませんね。

ローズ・オットー

【ローズ・オットー】
学名/Rosa damascena
科名/バラ科
抽出部位/花
抽出方法/水蒸気蒸留法
主要成分/シトロネロール・ゲラニオール・フェニルエチルアルコール・ネロール
主要産地/ブルガリア・モロッコなど