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薬剤師 吉田節子が教える!アロマテラピー

第59回 香りのメモリー 14.クローブ

クローブの香りを嗅ぐと、冬の景色に明かりが灯るように感じる方も多いと思います。海外では魔除けの意味を込めたオレンジポマンダーという、オレンジにクローブをたくさん差し込んだものを飾ります。オレンジポマンダーは柑橘も加わり、暖かく包まれるような香りを1シーズンずっと楽しむことができます。

冬の風物詩とも言えるようなスパイスの香りを楽しめるクローブ。でも、単体の精油だけを嗅ぐとやはり薬品臭というか、簡単に言ってしまえば「昔の歯医者の匂い」がします。フェノール類を多く含む精油の性とも言えますが、やはり鼻につく薬品の匂いがします。
クローブ精油の中には、特徴成分としてオイゲノール(=ユーゲノール)が多く存在します。このオイゲノールには強力な抗菌作用と局所麻痺作用があり、まさしく昔は歯医者での抜歯の際に消毒薬として使用されていた歴史があります。クローブ精油の元となるチョウジのつぼみをそのまま虫歯で穴が開いた部分に差し込んでいたという話も聞いたことがあります。

私は大学4回生のとき、薬用植物学教室のゼミ生としてクローブ精油についての研究をお手伝いしていました。他の教室の友達はみな、真っ白な白衣でいかにも薬学生といった感じの外見でしたが、私だけこのクローブが染みついてしまっており、茶色いシミと甘い薬品臭をまとっておりました。
あるとき、白衣を持って帰るのを忘れてしまい、長期休暇中、ロッカーに入れたままだったことがあります。休暇明けに白衣に手を通すと、ボロッと布の一部が取れてしまっていました。精油と言えど侮れない、これくらい強い性質をもっているのだということを再認識しました。

最近ではクローブ精油の抗菌作用、防虫作用が注目されているようで、ゴキブリなどの害虫除けにクローブ精油を通り道に撒くといった使い方が話題になりました。この匂いが苦にならない虫なんていないんじゃないかと、個人的には思います。そう考えると、オレンジポマンダーは、飾るだけで見た目も楽しく、虫除けにもなるという優れものだとわかります。

独特な香りを持つクローブですが、ハーブの世界では非常に重宝されています。小鍋でミルクを温めながら、紅茶の茶葉とクローブのつぼみ、シナモンの枝、カルダモンを入れて数分煮込んだホットチャイは、冬の幸せをぎゅっと閉じ込めたような、あたたかな幸せを感じるための必須アイテムです。
春の足音はもうすぐそこまで来ています。去っていく冬との別れを惜しむように、ホットチャイをゆっくりと味わいたいですね。

クローブ

【クローブ精油】
学名/Syzygium aromaticum
チョウジ/フトモモ科の蕾・水蒸気蒸留法
特徴成分/オイゲノール、カリオフィレン、バニリンなど
主な産地/インドネシア