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女性ヘルスケア専門薬剤師 松原爽が伝える 知っておきたい! 現代女性のヘルスケア

第11回「OC・LEPとHRTの違い」

■女性ホルモン製剤にもいろいろある OC(低用量経口避妊薬)やLEP(低用量エストロゲンプロゲスチン配合剤)には女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲスチン(黄体ホルモン)が含まれていますが、HRT(ホルモン補充療法)にも同様に、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲスチン(黄体ホルモン)を使用します。
しかし、どちらも女性ホルモンを使っていますが、使用目的が違うことから含まれている女性ホルモンの質や量は大きく違います。

■OC・LEPとHRTの目的の違い OCやLEPは、一般的に排卵性月経周期を有しており、卵巣機能が正常に働いている女性が女性ホルモン製剤を服用することにより、脳下垂体より分泌されているLH*1やFSH*2などの分泌を抑え、排卵を抑制し、子宮内膜を厚くしないようにして避妊や月経困難症、子宮内膜症に伴う疼痛の治療目的で使用されます。
一方HRTは、更年期でエストロゲンの分泌が減少したり、何らかの理由で両側の卵巣を摘出し卵巣からのエストロゲンの分泌がなくなることにより、更年期障害やエストロゲン欠乏症状を有している場合にエストロゲンを補充することで治療する目的で使用されます。
このように、OCとHRTとでは目的が根本的に異なっています。
*1 LH:卵胞刺激ホルモン *2 FSH:黄体形成ホルモン

■OC・LEPとHRTの成分の違い OCやLEPは、排卵抑制が目的であるためプロゲスチンが主な役割を担っており、HRTはエストロゲンの補充が目的であるためエストロゲンが主な役割を担っています。また、HRTで使用されるプロゲスチンは、エストロゲン補充による子宮内膜がんのリスクの抑制が目的であるため、あくまでも補助的な役割を担っています。
OC・LEPとHRTに使用される薬剤の成分を比べてみると、使用されているエストロゲンに関しては、OC・LEPでは合成のエストロゲンであるエチニルエストラジオール(EE)が用いられていますがHRTには天然のエストロゲン製剤が主として用いられています。
天然のエストロゲンにはエストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3種類があり、現在国内で使用可能なHRTに用いられるエストロゲンとしては、結合型エストロゲン(主にE1を含有する)、17β-エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3種類があります。

■OC・LEPとHRTの効力の違い OC・LEPとHRTでは使用されるエストロゲンの成分が異なりますが、OCに含まれるエチニルエストラジオールと、HRTで長い使用経験がある結合型エストロゲンでは、その効力にも違いがあります。
海外の論文によるとエチニルエストラジオール5μgと結合型エストロゲン0.625mgが、エストロゲンとしてほぼ同等の効力を有するとされています。これに基づいて考えると、現在OC・LEPに使用されているエストロゲンの量は、HRTで使用されている結合型エストロゲンの1日投与量の約4-8倍に相当する量だと考えられます。つまり、OC・LEPに含まれているエストロゲンの量と言うのは、HRTとしてエストロゲンを補充する目的で使用するには多すぎるということです。

■OC・LEP服用者が更年期を迎える際の注意点 OC・LEPガイドラインにおいては、OC・LEPは初経(月経周期が確立して)から閉経まで処方できることが基本になっており、40歳以上の未閉経者では慎重投与とし、閉経以降あるいは50歳以降は投与しないこととなっています。
これは、40歳以上は一般的に加齢により心血管系のリスクが上昇する年代でもあるため、OC・LEPがそのリスクを高めてしまう恐れがあるためです。つまり、OC・LEPのベネフィットは加齢とともに低下していき、逆に加齢とともにリスクが高まってくるということです。
なお、閉経後は避妊も月経困難症の心配もないのですが、OC・LEP服用中の閉経の診断は難しいのが実情です。「閉経」は無月経となって1年が経過したときに1年前に遡って閉経したと診断できますので、実際には閉経時期をホルモン測定などで確定診断することはできません。
よって、OC・LEP服用者が更年期を迎える際には、リスクとベネフィットを正しく評価するために、目的の再確認と安全に継続できるかの診断および辞めるタイミングの相談が必要になります。


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