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女性ヘルスケア専門薬剤師 松原爽が伝える 知っておきたい! 現代女性のヘルスケア

第14回
「閉経後に気を付けたい疾患 ~健康寿命に影響を与える動脈硬化性疾患~」

■女性と動脈硬化性疾患 要介護原因の疾患として、認知症や骨折、そして脳血管障害や心疾患といった動脈硬化性疾患があります。この動脈硬化性疾患は一般的に生活習慣の質がリスク因子となっていて、長い時間をかけて最終的に重篤な疾患として発病します。
動脈硬化性疾患のリスクには男女差があり、女性の場合女性ホルモンの一つであるエストロゲンが予防的に作用しているため、閉経前の女性ではそのリスクは男性と比べ低いですが、エストロゲンが減少する閉経後はリスクが急激に高まることが分かっています。

健康寿命に大きな影響を与える要介護原因

健康寿命に大きな影響を与える要介護原因

■女性の脂質代謝の変化 動脈硬化性疾患のリスクの一つに脂質異常症がありますが、脂質代謝はエストロゲン濃度に大きく影響されるため、女性の場合は男性とは違い閉経後のエストロゲン低下をきっかけに大きく変動します。
女性の総コレステロール値やLDLコレステロール値は、閉経前では男性と比較して低い値を示していますが、閉経後には高い値となります。また、閉経後は内臓脂肪の蓄積に伴い中性脂肪も上昇してきます。

■閉経後女性の脂質異常症の管理 閉経後女性の脂質異常症の管理としては生活習慣の改善が基本となります。具体的には、禁煙する、適正体重を維持する、健康的な食生活を心掛ける、塩分を控える、アルコールを摂りすぎない、適度な運動を行うなどです。生活習慣の改善で脂質の目標レベルに達しなければスタチンやフィブラート系の薬剤の投与が検討されます。
また、更年期障害がある場合は、生活習慣の改善に加えHRT(ホルモン補充療法)が考慮され、同様に脂質の目標レベルに達しなければスタチンやフィブラート系の薬剤の投与が検討されます。
但し、閉経前後に関わらず家族性高コレステロール血症などハイリスクの患者さんでは別途薬物療法が必要になります。

■HRTと脂質異常症 HRTは閉経後早期から使用すれば動脈硬化が原因で起こる冠動脈疾患を増加させず減少させることが報告されていますが、冠動脈疾患の予防や脂質異常症の治療だけを目的にしたHRTは推奨されていません。これは、動脈硬化が進行していない健康な閉経後早期の女性ではHRTの心血管保護作用の恩恵を受けることができるのに対し、閉経後10年経ち動脈硬化がすでに進行している場合はHRTの恩恵を受けることができず、逆にマイナスの影響を受けてしまうことが分かっているためです。
そのため、閉経後女性の脂質異常症の管理においても、更年期障害がある場合に限って生活習慣の改善に加えHRTが用いられます。

*HRTに関しては第6回「女性を支える医薬品 その②HRT」をご覧ください。


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