おもてなしは2013年に開催された2020年の東京五輪招致活動の最終プレゼンテーションで使われたことから話題となり、同年の新語・流行語大賞で年間対象を受章しました。
従来の接客・サービス業にとどまらず、最近では介護などの医療現場従事者に対する研修にまでおもてなしが取り入れられています。
東京大学人工物工学研究センタ-と株式会社ANA総合研究所は「おもてなし」の科学的理解に向けた共同研究を開始しています。この研究では「おもてなし」の源泉を相手に対する“気づき”と仮定し、3年連続で英国SKYTRAX(スカイトラックス)社が運営するエアライン・スター・ランキングで最高評価を獲得しているANAの客室乗務員の機内における行動やチームワーク、客室乗務員間の会話などを、サービス工学の研究手法を用いて“気づき”の能力習得プロセスや様々な場面での予測行動などを科学的に分析し、モデル化することを目指しているとのことです。
ベテランの客室乗務員が体得している『乗客の要望に気づきやすい振る舞い』『乗客が声をかけやすい振る舞い』などを分析し、そこからおもてなしの本質に迫っていこうとしています。
カウンセリングで重要なことが、まさにこの“気づき”です。カウンセラーは相談者の小さな変化を見逃しません。その人のクセ、表情やしぐさ、使う言葉の特徴や傾向、沈黙している時の体の動き、視線や呼吸など、ほんの些細な変化に気づくことがとても重要です。継続して相談をしている人は前回と比べて変わったところに注意します。来所した時間、挨拶の仕方や態度、順番を待っている時の様子、髪型や服装、持ち物や化粧、声のトーンなどです。
変化の理由を考えながら、予測しながらカウンセリングを進めて行くと、その理由に気づくことが出来ます。
気づくことが出来れば、タイミングと状態を見極めた上で、気づいたことを言葉にして返します。相談者がまだ明確に出来ていない自分の変化を、カウンセラーから伝えられたことで“気づき”のきっかけが生まれます。うまくいけば(いかないこともあります)相談者は自分の変化に気づき、変われた自分を受け入れます。変われたことを受け入れると、今度は相談者がカウンセラーに対して確認のための言葉を返してきます。変われたことは自信になり、やりたくても出来なかったことに対して少しずつ積極的になれます。否定的な捉え方しか出来なかったのが、肯定的な捉え方もあることに気づきます。
人は誰かに認められた時に変わるといわれています。特に好意的に思える人から認められた時はなおさらです。その人に認めてもらうことで自分の力を信じることが出来ます。
おもてなしの語源をたどると“特に意識して待遇する”とあります。カウンセリングは相談者の全人格を受け入れ肯定し、小さな変化に気づき、気づいたことを大切にして認め合い信頼関係を構築していくものです。
カウンセリングはおもてなし、究極のサービス業だと思っています。
おもてなしの語源
もてなすは語源をたどると更に「もて」と「なす」に分解でき、なす(成す)は「そのように扱う、そのようにする」という意味がありそれに接頭語の「もて」が付いたもの。
「もて」の付く語は他に「もてさわぐ」「もてあつかふ」などがあり、動詞に付属して「意識的に物事を行う、特に強調する意味を添える」のだそうです。つまり「もてなす」は「扱う」ことを強調する場合に使う言葉、ということになります。
接頭語「もて」の語源は漢語「以」の訓読に使われる「もちて」が変化して「もて」となったものと考えるのがよいとされています。すなわち「なす」に「もて」を強調の意として接続し「もてなす」となり、それに美化語の「お」をつけて名詞となったものが「おもてなし」ということです。
そもそもの意味は「とりなす、処置する」「取り扱う、待遇する」というもので、現代のように接待に関して用いられるのは中世以降になってからだそうです。【関西大学文学部国語国文学専修 乾善彦氏】