カウンセラーになるまでは営業の仕事をしていました。20年以上やっていたので、まだカウンセラーよりも営業の血が濃いです。なぜ営業の仕事を選んだかというと、当時は文系新卒で運転免許くらいしか持ってなければ営業しかないだろうと言われていたので、迷わず王道を進みました(笑)
最初にやったのはOA機器の営業でした。(ちなみに20代で三度も転職しました)PCはまだ世に出ておらず、コンピュータと言えばオフコンと呼ばれる大きくて値段の高い、一般人には縁のないものしかありませんでした。ワープロやFAXがやっと出回り始めた頃で、コピー機に拡大縮小機能がついたことを大騒ぎした時代です。
会社の雰囲気はいわゆる体育会系で、壁に貼られた模造紙に各自の売り上げ目標と実績がグラフ表示され、優越感と劣等感と緩い人間関係が同居する不思議な会社でした。新人営業員は各営業所に配属され、テリトリーを決められて毎日飛び込み営業をします。企業や商店にいきなり訪問して、図々しくオフィスの奥まで入り込み、決裁権のありそうな人に名刺交換を迫り、一方的に売り込みを始めるという迷惑極まりないやり方です。当然すぐに断られますし、時にはつまみ出されることもありました。
営業はまず断わられるところから始まる、だから断られに行くんだ!と上司から叩き込まれていました。今から30年ほど前の事ですが鮮明に覚えています。
飛び込み営業は精神的タフさが必要な仕事です。私の職業人としてのベースはこの時に出来ました。フリーで仕事をする今もこの経験が活きています。前回にも書きましたが、仕事を確保するため常に営業活動をしていますし、時々、自分が提案したことが受け入れられ、新しいビジネスに繋がることもあります。
決裁権のありそうな人に『何か仕事があれば是非お声かけください』と図々しく言えるのは営業経験の賜物だと思っています。
就職相談で『営業だけは嫌なんです』と言う若者と多く会います。理由を訊くと『ノルマがあるし、人と関わるのが苦手だし、口下手で…』という答えが返ってきます。やったことがあるのかと訊くとほぼ全員『いいえ』と答えます。
巷で言われている営業の悪い部分だけを取り上げて、食わず嫌いになっているようです。確かにノルマはあるし、成績が悪ければ怒られもしますが、ノルマ(目標)のない仕事はありませんし、組織で仕事をしていれば指導もされます。やってみなければ分からないという若者の特権を最初から放棄していることが残念でなりません。
正社員を目指す若者が仕事を選ぶ時に、営業を除外すると非常に困ります。特別な資格もない文系出身者が営業以外で正社員を希望すると選択肢が極端に減るのは昔と同じです。営業は求人数が多い分、仕事の中身は多種多様なので、仕事の内容をちゃんと研究すれば自分に向いた仕事を探すことは十分可能です。また営業は様々な人や業界との関わりが出来るので、自然と世間が広くなり自己成長を強く感じられます。社会経験の浅い若者ほど大きな成長のチャンスになります。先々で転職をするにしても、営業の経験はあらゆる仕事に活かすことが出来ます。
カウンセラーも超接客業ですから、駆け出しの頃はカウンセリングの技術よりも営業経験の方が役に立ちました。
AIが進化すると従来の職業が人工知能やロボットに代替えされていくと言われています。
10~20年後、国内労働人口の49%にあたる職業が人口知能やロボットで代替される可能性が高い【野村総研】
今の小学1年生が大学を卒業する頃に就く仕事の65%は現在存在しない仕事【キャッシー・デビットソン 米の学者】
代替えされる可能性が高い仕事は、秩序的、体系的な操作をする仕事や、特別な知識や技術が必須ではない仕事だと言われています。逆に代替えされる可能性が低い仕事は、抽象的な概念を整理し生み出す仕事や、協調や説得が必要な仕事だと言われています。
営業は秩序的・体系的な仕事ではありませんし、協調や説得が何よりも必要な仕事です。
20年も営業をやってきましたが、食わず嫌いの若者を説得出来ていません。