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第4回 新型コロナワクチンの国内と海外の臨床試験の違い

新型コロナウイルス感染症が世の中を騒がせ始めてから約1年。
先日、ついに日本でもワクチンが承認されましたね。
1番手はファイザー(ビオンテック)製のmRNAワクチン、コミナティでした。

海外では数万人規模の臨床試験が行われ、既に多くの国で承認が下り、全世界でも1億回以上接種されており、多くの海外の著名人も接種しています。

2月からは医療従事者の先行接種が始まり、薬剤師の皆さまや病院実習に行かれる薬学生の方も接種が始まるかもしれませんね。

そのような状況ではありますが、日本での臨床試験が不足している、日本人でのデータが少ない、といった声も散見されます。

事実、ファイザー社の国内試験では160人の第1/2相試験しか行われておりません。
海外では数万人規模で試験が行われているにも関わらず、です。

これはまずいのでしょうか?
いえいえ、そんなことはないのですよ! というのが今日のお話です。

巷には有効性や副反応の情報は溢れていますので、今日はちょっと違った観点で、
「臨床試験の中身の違いや、なぜこのような試験で日本で承認されたのか」を考えてみましょう。

■承認申請パッケージについて本題に入る前に、今回の承認申請パッケージについて触れておきましょう。
要は「製薬会社がどんなデータを提出して、医薬品としての承認を得ようとしたか?」ということです。

今回は国内第1/2相試験と海外の臨床試験データ(主に大規模第3相試験データ)を組み合わせて承認申請しています。
人数の少ない国内試験だけではなく、当然、海外の大規模試験で得られた知見も含めているのですね。 だから「ヒトへの投与データ」という面では十分なデータがあるのです。

もちろん長期的なデータはまだありませんので、万全とは言えませんが、作用機序から考えて、長期的な影響が生じる可能性は低いと考えられます。
そしてCOVID-19に罹患した場合の長期的なデータもまた不明です。
承認した各国はそのような事情を鑑み、リスクとベネフィットを秤にかけたということですね。

■臨床試験の目的の違いそれでは試験の中身を少し見てみましょう。
まず海外の大規模第3相試験ですが、こちらでは「発症予防効果」と「安全性」を見ています。

「発症予防」はワクチンのメイン目的の一つですね。
ワクチン接種によって、COVID-19が発症しなくなれば、ワクチンの目的の一つは果たされるわけです。
だからこれを主要評価項目として添えるように決められています。

しかし発症予防効果を見るためには莫大な数の被験者が必要になります。
プラセボと実薬接種後の「発症」を見なければならないからです。
だから海外の試験は大変大きな規模だったのですね。

一方で国内第1/2相試験は160人という少ない人数で「免疫原性」と「安全性」を確認することを目的としています。
免疫原性はいわば「ワクチンによってどれだけ免疫ができたか?」を確認するための指標であり、これがそのままワクチンの予防効果につながるかは未知数です。

言い方を変えれば、「COVID-19の発症予防効果について代替となる評価指標が明らかになっていないということ」です。

だから原則として、ワクチン候補の有効性を評価するために、COVID-19 の発症予防効果を評価する臨床試験を実施する必要があるのです。

■日本人で発症予防効果があるとするロジックワクチンについては発症予防効果を見なければならないにも関わらず、日本国内の臨床試験では発症予防効果を見ていません。

ではどのようなロジックで、日本人にも発症予防効果があるとされたのでしょうか。

ここで重要な点は、ワクチンについては大きな人種差は認められていないという点です。
だから日本は、「日本人で海外と同等の免疫原性が認められ、かつ海外での大規模臨床試験において発症予防効果が認められれば、それは日本人でも発症予防効果が認められると言える」という考え方にしたのです。

免疫原性=発症予防効果という形で日本と海外をつなげたのですね。

事実、日本国内の臨床試験では、日本人被験者で海外試験と同様のSARS-CoV-2血清中和抗体価の上昇が認められました。
海外と同等以上の免疫原性が得られたというわけです。
だから、日本人でも発症予防効果は期待できるとされたのですね。

ちなみに安全性についても海外と差はありませんでした。
有効性も安全性も日本人と海外で差がなかったということですね。

そしてめでたく国内で承認されたというわけです。

■まとめ本稿では新型コロナウイルスワクチンの臨床試験について、見てきました。

簡単にちょっとカッコよくまとめると、

現時点で COVID-19の発症予防効果の代替となる評価指標(例えば抗体価)が明らかになっておらず、発症予防効果と免疫原性との関連は明確ではないものの、迅速なSARS-CoV-2ワクチンの開発が求められている状況などを考慮すると、有効性については、海外の検証的試験の成績に基づき評価し、それに加えて国内臨床試験成績から日本人の免疫原性及び安全性を確認することで、日本人における有効性及び安全性を評価すればよい。
そして無事に国内の小規模試験で日本人の免疫原性と安全性が確認できたので承認された。

ということですね。
だから日本人のデータが少ないことを憂う必要はあまりないのですよ。

先行接種に赴く、みなさまの不安が少しでも減れば幸いです。

参考:コミナティ筋注審査報告書(令和3年2月12日)