先日、アメリカにてアルツハイマー型認知症の新薬、アデュカヌマブが条件付きで承認されたのはご存じでしょうか?
記事記載時点では薬価がどのくらいになるかは分かっていませんが、抗体医薬品ということでかなり高額となることが予想されます。対象となる患者さまも非常に多いことが想定されるため、市場規模としては大きいものとなるでしょう。
だからと言って、アメリカの医療財政が破綻する!とまでは、そんなに騒がれておりません。
それはアメリカが国民皆保険制度でないことに起因していると考えられます。
一方で日本は国民皆保険制度ですので、このような高額かつ対象患者の広い医薬品がもし承認された場合は、医療財政に大きな影響を与える可能性が高いのです。
今日はそんな日本とアメリカの保険制度の違いについて見てみようと思います。
■日本の国民皆保険制度さて、ご存じのとおり日本は国民皆保険制度であり、また基本的には上市された医薬品は保険適応されます。(保険適応されなかったお薬は前回の記事でご紹介しましたね)
つまり自己負担の金額は安くなります。
そして自己負担が一定の水準を超えた分は税金で支払われます。
つまり超高額の最先端の医薬品も安価で使用することができるのです。
それは「日本国民は高い水準の医療をおしべなく受けることができる」ということですね。
ただ冒頭で挙げたような高額医薬品が登場してきたため、この制度に無理が来ているのも事実としてあります。
ノーベル賞受賞で有名になった抗がん剤のオプジーボが医療財政を破壊すると騒がれたのも記憶に新しいかと思います。
オプジーボは初回の薬価収載時は729,829円でした。
今はゾルゲンスマのように億越えの医薬品もありますので、インパクトは薄いかもしれませんが、かなり高額な医薬品と言えます。
しかし当初は適応が根治切除不能な悪性黒色腫という非常に狭い範囲での適応しか取得していなかったため、医療財政に与える影響は軽微と考えられていました。
高額と言えど、対象患者が少なければ、国から出るお金は少しで済みますからね。
ところがその後、患者の多い一部の肺がんの適応を取得し、対象範囲が急拡大したため、医療財政が崩壊する!と騒がれたのです。
認知症治療薬アデュカヌマブが日本で承認されたとき、対象患者の範囲や薬価次第では、この議論が再燃することはまず間違いないでしょう。
そんな構造上の問題はありますが、高い水準の医療をおしべなく受けることができるという点では、日本の保険制度は非常に良い制度ではないかと思います。
日本にいるとこの恵まれた医療環境が当たり前のように思えますが、世界的に見るとそう多くはありません。
今日話題に挙げるアメリカも国民皆保険制度ではない国の1つです。
よくハワイで出産したら数千万円請求されたとか、海外旅行中に病院にかかったら、とんでもない金額の請求があったなんて話を聞いたことはありませんか?
正確に言うとアメリカには公的保険制度はありますが、全てをカバーしていないということになります。
ではアメリカではどんな制度があるのでしょうか?
■アメリカの公的保険制度アメリカの公的保険制度は2種類あります。
・メディケア(Medicare)65歳以上の高齢者、65歳未満の身体障害者および透析や移植を必要とする重度の腎臓障害を持つ人を対象とした制度であり、連邦政府が運営しています。
2018年時点では加入者は約18%※です
・メディケイド(Medicaid)低所得者を対象とした制度であり、州政府が運営しています。
2018年時点では加入者は同様に約18%※です
上記を見るとわかる通り、公的保険では到底全てをカバーしきれていません。
つまり公的保険に入れない方は、別途民間保険でカバーしているのです。
その割合は2018年時点では約67%※になります(公的保険と重複もある)。
なお未加入は約9%です。
※Health Insurance Coverage in the United States:2018より
日本の国民皆保険制度と比べると、だいぶ異なる状況であることが分かるかと思います。
保険なんてなくても大丈夫! と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし日本の民間保険と同じで考えてはいけません。
日本は国民皆保険の上で、さらに追加で民間保険を選択しているわけです。
例えば、ニューヨークで盲腸の治療を受けるといくらかかると思いますか?
入院1日で100万円以上かかります。
歯の治療を受けるといくらかかると思いますか?
1本10万円以上かかります。
つまり無保険という状態は非常にリスキーな状態であるわけです。
そのため、公的保険を受けられず、特別な事情がない限りは民間保険に加入することになります。
■アメリカの民間保険制度では民間保険はどのようなものがあるのでしょうか?
大きく分けると4種類あります。
ここでは詳細について述べるのは避けますが、保険のランクによって、下記のような違いがあります。
・主治医:ランクが低い保険は主治医を選んでその主治医にかかる必要があります。
・医療機関:ランクが低い保険は特定の医療機関にかかる必要があります。
・医薬品:ランクが低い保険では使える薬に制限があります。
ハイレベルな保険であるほど、当然保険料は割高になりますが、利便性は上がり、使える薬の選択肢も増えていくのです。
医療の格差が明確に発生するというわけですね。
ちなみに薬価のつけ方も日本とアメリカでは異なっており、それがゆえにアメリカは世界最大の市場となっているのですが、そのお話はまた別の機会に。
■まとめ今日は日本とアメリカの保険制度について見てきました。
日本とアメリカ、どっちの保険制度がいいと思いますか?
日本に住んでいると実感しにくいですが、視野を広げて日本の制度の良いところや悪いところについて考える良い機会となりましたら幸いです。
そして先生方も海外に旅行に行かれる際や学会に参加される際は、保険に入ることをお忘れなく!