新潟県長岡市にある蔵王調剤薬局は新潟県立精神医療センターを最寄りの医療機関としており、今年4年目を迎えます。
今回は当薬局の管理薬剤師で、日本在宅薬学会バイタルサイン講習会エヴァンジェリストの三浦先生に蔵王調剤薬局における在宅医療についてお伺いします。
プロフィール
- 氏名
- 三浦 雅彦
- フリガナ
- ミウラ マサヒコ
株式会社コム・メディカル
一般社団法人日本在宅薬学会
バイタルサイン講習会エヴァンジェリスト
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三浦先生(以下 M)
当薬局は新潟県立精神医療センターからの処方箋をメーンに応需しており、現在のところ在宅訪問しているのは精神科の患者さまのみです。
在宅訪問でフォローアップしていく患者さまというと、皆さんは要支援や要介護状態になって、薬局を訪れるのが困難な患者さまというイメージを持つかもしれませんが、私が受け持つ患者さま像は、おそらくそのイメージとはかなり異なると思います。
年齢層は60歳代と若く、皆さん自立・自活しています。お薬をご自宅へお持ちすると、私がみている前で、ご自身でお薬カレンダーにセットする方もいるくらいです。
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UNIV(以下 U)
三浦先生がおっしゃる通り、在宅医療と聞いてイメージする患者さま像とは少し異なっていますね。このようにご自身で身の回りのことができる患者さまには、在宅での服薬の管理は必要なさそうに思えますが、なぜ在宅医療に介入することになったのでしょうか。
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M
きっかけは大きく2つあります。
1つ目は、訪問看護師さんから「服薬管理が難しい」という相談を受けたことです。 -
U
飲み忘れが多いということでしょうか。
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M
飲み忘れではなく、処方薬を自己調整してしまうことが問題となっていました。
精神科の患者さまは、ご自身の疾患に対する病識と薬識の高い方が多い傾向にあります。どの薬を飲むとどのような効果が得られて、どのような副作用が出るかを熟知しているのです。だから、体調に合わせて、自己判断で服用する薬を選び、コントロールしている方が多いのです。
看護師さんが相談してこられた患者さまも、このように処方された薬を自己判断で調整してしまう患者さまでした。
入院時は服薬するまでをつきっきりで見守ることができますが、退院してしまうとそれはなかなか難しいですよね。その結果、看護師さんなどの在宅に関わるコメディカルのスタッフには服薬管理が難しくなってきたのです。 -
U
それが1つ目のきっかけだったのですね。
もう1つのきっかけについても教えてください。 -
M
精神疾患の薬物治療による効果や副作用の評価を、外来調剤の場で正しくできているのかどうか疑問に思っていたことです。
精神疾患における服薬による効果や副作用の評価は、患者さまの訴え・主観によるところが大きく、血圧や血糖値といった明確な数字で現すことが難しい。ところが、外来では医師も薬剤師も患者さまと対面する時間はほんの数分という短い時間しかとれません。それで、本当に服薬に対する効果や副作用を正しく評価できているのか、常々疑問に思っていたのです。
前述の看護師さんから持ちかけられた案件のこともあり、患者さまに寄り添い、見守る役割をする人が必要なのではないかと考え、その役割には薬剤師がふさわしいのではないかと思い至りました。
なぜかというと、訪問医療チームのなかで看護師さんやヘルパーさんは時間あたりで報酬を算定するのに対し、薬剤師は1回あたりで報酬を算定するので、じっくり腰を据えて患者さまに向き合う時間をとりやすいからです。
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U
在宅医療を開始するにあたっては医師から訪問の指示をいただかなくてはならず、ご苦労されたことなどもあったかと思いますが、どのような経緯で訪問の指示が出てくるようになったのでしょうか。
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M
まずは、地域の研修会や勉強会などの機会を通じて処方元の医師や薬剤部の薬剤師と顔見知りになることからスタートしました。
こうした機会を積み重ねて人間関係を徐々に築いていき、退院して外来に移ったら自己管理が難しそうな患者さまがいた場合、薬局でフォローアップしていく体制が整っていることをアピールし続けたのです。
その結果、退院時カンファレンス開催時に声をかけられ、参加させていただくようになり、患者さまを任せられるようになりました。
実は当薬局がオープンした当初からこうした働きかけは続けていたのですが、撒いていた種が芽吹き始めたのが昨年こと。4年目の今年になって、ようやく手ごたえを感じ始めています。 -
U
次回は、いよいよ在宅医療の実際についてお伺いしたいと思います。