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実践!薬局3.0レポート

第23回【特別編】在宅の現場より 株式会社薬正堂 比嘉朋子氏 その1

今回は実践!薬局3.0レポート特別編として、一般社団法人日本在宅薬学会バイタルサイン講習会のエヴァンジェリストであり、株式会社薬正堂(すこやか薬局グループ)の薬剤師研修を担当されている比嘉朋子先生と、比嘉先生の研修を受けて在宅の現場で活躍している2年目薬剤師の屋良愛先生に、在宅医療等に必要な薬剤師力の育成方法や、在宅医療現場の実際、今後のビジョンについてじっくりとお話を伺いました。

プロフィール

氏名
比嘉 朋子
フリガナ
ヒガ トモコ

株式会社薬正堂(すこやか薬局グループ)
一般社団法人日本在宅薬学会
バイタルサイン講習会のエヴァンジェリスト

比嘉 朋子先生の写真
  • UNIV(以下 U)

    現在、すこやか薬局で薬剤師の研修を担当される前は別の仕事をされていらしたのですよね?

  • 比嘉先生(以下H)

    はい。第⼀薬科大学を卒業してから薬剤師国家試験対策予備校の日本医薬アカデミー福岡校で講師をしていました。

  • U

    そうなんですね。現在、沖縄にいらっしゃるのはどういった経緯なのでしょうか?

  • H

    主人の出身地が沖縄だったんです。妊娠してからも福岡でしばらく講師として教壇に立っていたのですが、出産後は「子供を沖縄で育てたい」という気持ちから思い切って移住したんです。それから少しして、すこやか薬局でパート勤務を始めました。

  • U

    調剤業務は初体験ですよね?

  • H

    そうなんです。初めてのことばかりで最初は戸惑いましたが、働き出して1年ほど経ったある日、自分では未熟で拙いと感じていた服薬指導と医師への情報提供で、患者さんと医師に感謝されたことがありました。それがとてもうれしくて......ブランクのある薬剤師や新卒薬剤師にも同じような喜びを感じてもらいたいと思い、会社の研修担当に立候補しました。

    最初は本当に手探りの状態だったのですが、「私がわからないこと」=「研修生がわからないこと」だったので、結果的にそれが良かったのではないかと思います。さらに、現場の経験を積めば積むほど、予備校で教えていたことが現場で活用できることがわかったんです。

  • U

    今は臨床現場を離れて、研修がメインなのでしょうか?

  • H

    いいえ、そんなことはありません。臨床現場と研修業務が半々です。1日があっという間に終わってしまいます。

  • U

    充実していらっしゃるんですね。実際の研修はどのような内容なんですか?

  • H

    新人薬剤師は、入社後しばらく毎週土曜日に研修を行います。

    最初に業務の流れを理解する為に、処方せんを受け付けてから処方せん・調剤録を保管するまでの作業、いわゆる「保険調剤の流れ」を一つ一つ掘り下げて教えます。その後は「Webを使った情報収集」「添付文書の活用」などの情報収集力を身につけてもらい、「妊婦や授乳婦、小児、高齢者と薬」といった注意が必要な患者さんの薬物療法について学びます。

    それから「呼吸器系疾患・耳鼻科系疾患・皮膚科系疾患・眼科系疾患・生活習慣病などの病態と治療」といった各疾患の服薬指導についての研修を行います。他にも「薬物動態」「相互作用」「コミュニケ―ション」「リスクマネジメント」などさまざまな研修があります。そのなかで⼀番大切にしていることは「自分が困ったときにどうやって解決すればいいのか」を身に付けてもらうことです。

  • U

    問題解決能力ですね。

  • H

    そうです。
    研修の中で臨床現場での問題提起をします。それを解決する為に添付文書やインタビューフォームはもちろん、適切なWebサイトから必要な情報を収集してもらいます。例えば、PubMedを使用した論文検索などです。

    そこから得られた情報を使用して患者さんへの対応を考えてもらいます。そうすることで、患者さんから質問を受けたときに自分で答えを導き出すことができるようになります。

    私が新人薬剤師達をずっと見ていられるわけではないので、私の手を離れも困らないように、いろいろなことに興味を持ち、疑問を持ち、解決のために努力する姿勢を学べるような研修が提供できるように頑張っています。

  • U

    研修前と研修後で別人のように変化していそうですね。

  • H

    そうですね。新人研修は3年目まで続きます。修了したら店舗の管理薬剤師ができるくらいに成長しています。
    他にも国家試験をパスできなかった内定者向けに「薬剤師国家試験チャレンジャー講座」を昨年行いました。国家試験の問題とオリジナルテキストを使用して授業をするのですが、一番意識したのは、「授業で得られた知識が臨床現場でこのように活用できる」と伝えることです。また、薬剤師クラークとして在宅医療の現場に同行させるなど、臨床現場での薬剤師の仕事をしっかりと見てもらいました。講座を受講した全員が国家試験に合格して、今年入社しました。「国家試験浪人の1年が無駄にならずに済んだ」という言葉の通り、臨床現場では2年目薬剤師と変わらないくらいバリバリ働いています。

  • U

    そうなんですね。研修を始められてから印象に残っているエピソードはありますか?

  • H

    今年の1月から、私が担当していた在宅業務を薬剤師2年目の屋良愛先生に引き継ぎました。
    まだ薬剤師としての経験も浅いので、最初は薬を持っていくだけで精⼀杯の様子でした。しかし、患者さんと関わっていくうちに自分に何かできることがないかと考えるようになったんです。
    それを一番実感したのはAさんという前立腺肥大を患っていらっしゃる患者さんとのエピソードです。Aさんは市販の総合感冒剤を1日に何度も飲んでいたため、抗ヒスタミン薬の影響から尿が出にくくなっていました。後に、何度も総合感冒剤を飲むのは手足の痛みを改善させるためと分かり、カロナールを提案し服用してもらいました。それでも症状は改善せず、総合感冒剤を飲み続けていたんです。しかし、よくよく話を聞くと、痛みではなくしびれを改善したいことがわかり、漢方薬を提案し服用してもらいました。その結果、手足のしびれが解消されて、患者さんから感謝されていました。
    患者さんから得た情報をもとに、自分で考え問題解決する能力が身についているなと感じました。今でも同じ店舗で働いていますが、自慢の教え子の⼀人です。

  • U

    次回はエヴァンジェリストの活動と在宅の現場について伺いたいと思います。