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薬剤師が奨学金返済のために知っておきたい12のこと

第1回 奨学金と薬学部生、若手薬剤師の実情を考える

保護者世代にとっての奨学金のイメージは、“優秀な学生のための特別な制度”といったものでしょう。確かに昔はそのような要素が強かったです。

しかし、現在では大学生の2人に1人以上が何らかの奨学金を利用しています。
大学生の半数以上ということは、決して成績優秀ではない学生も利用していることになります。

日本の奨学金事業予算規模の9割近くを占めているのが、日本学生支援機構の奨学金です。

平成29年度の進学者から、ごく一部の学生を対象に給付型奨学金が新設されましたが、ほとんどの学生は返済が必要な貸与型、つまり借金を背負って進学しているのが実情です。

なぜ、大学進学者の半数以上が奨学金を利用するようになったのか?
その答えは、家庭の収入の減少と学費の高騰に尽きると思います。

■昔と比べて2倍に高騰した学費 総務省の「家計調査」では、収入から税金や社会保険料などを差し引いた実質可処分所得が30年以上前の1985年よりも低くなったことが報告されています。

そこで、同じ1985年度と30年後の学費について調べてみました。

◆1985年度(入学金+年間授業料等)
国立大学 372,000円
私立大学 711,000円

◆2015年度(入学金+年間授業料等)
国立大学 817,800円
私立大学 1,312,000円

家庭の実質所得が減少しているにも関わらず、30年の間に初年度の学費は、国立大学2.2倍、私立大学1.8倍も高騰しています。

今や国公立大学の学費は安いというのは幻想になりましたが、注意しなければならないのが私立大学です。

これはあくまでも平均額であり、私立大学は、学部学科系統により学費が大きく異なります。

文系に比べて理工系、医療系学部の学費は高額です。

その中でも薬学部はとりわけ高く、初年度の平均学費が212万円(入学金36万円、年間授業料146万円、施設費等30万円)となっています。

6年間合計すると、学費だけで1,092万円。
ひとり暮らしの家賃や生活費も含めると1,500万円以上は必要になるでしょう。
これは地方都市ならば、ファミリータイプのマンションが買えるほどの金額です。

私立の薬学部進学は、医学部や歯学部を除いて最も学費の高い進路といえます。

では、奨学金で、高額な薬学部の学費をまかなうことができるのか?
次に奨学金について考えてみます。

■日本学生支援機構奨学金の内容 日本学生支援機構には、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります。そのほか、入学時の一時金として10万円から50万円借りられる入学時特別増額貸与奨学金がありますが、今回は毎月支給される第一種と第二種奨学金で見ていきましょう。

繰り返しますが、いずれのタイプも貸与型なので、学生自身が背負う借金です。

<第一種奨学金の貸与月額>
国公立大学/自宅通学(45,000円) 自宅外通学(51,000円)
私立大学/自宅通学(54,000円) 自宅外通学(64,000円)
※平成30年度より、上記の金額か2万円~5万円の中での選択制となります。

<第二種奨学金の貸与月額>
進路や通学環境に関わらず、3万円、5万円、8万円、10万円、12万円の中から選択。
※私立大学の薬学部進学者が12万円を選択した場合、さらに2万円の増額が可能。

■6年間の貸与額の合計 <第一種奨学金>
国公立(自宅)  45,000円×12ヶ月×6年間=3,240,000円
国公立(自宅外) 51,000円×12ヶ月×6年間=3,672,000円
私立(自宅)   54,000円×12ヶ月×6年間=3,888,000円
私立(自宅外)  64,000円×12ヶ月×6年間=4,608,000円

<第二種奨学金>
30,000円×12ヶ月×6年間=2,160,000円
50,000円×12ヶ月×6年間=3,600,000円
80,000円×12ヶ月×6年間=5,760,000円
100,000円×12ヶ月×6年間=7,200,000円
120,000円×12ヶ月×6年間=8,640,000円
140,000円×12ヶ月×6年間=10,080,000円

私立大学の薬学部の6年間の学費の平均額が1,092万円であることは先に触れましたが、第二種奨学金の最大月額の14万円を借りても平均額にはわずかに不足します。

そのため、第一種奨学金と第二種奨学金の両方を借りる「併用貸与」を利用している学生も少なからずいます。

併用貸与の最大額は、第一種奨学金4,608,000円(私立・自宅外)と第二種奨学金10,080,000円を合わせた14,688,000円です。

数字だけを見ると、奨学金で学費と生活費をまかなうことは可能かも知れませんが、借りる金額が多ければ多いほど、卒業後の返済月額が大きくなり、返済年数も長くなってしまいます。

したがって、奨学金を利用して薬学部に進学するのであれば、薬剤師として得られる収入と毎月の返済額をシミュレーションしたキャリアプランが大切になります。

■表面化しづらい留年による奨学金停止問題 もう一点、薬学部生が注意すべきことに留年問題があります。

私立の薬学部では、5年次への進級率が6割~8割のところが珍しくなく、中には4割を切っている大学もあります。

さらに国公立とは異なり、私立の薬学部では卒業試験が課されます。

成績不良による留年制度自体は決した間違ったことと思いませんが、問題は留年すると奨学金が停止されるということです。

仮に、卒業試験に不合格となり留年すると奨学金が停止されてしまうので、翌年の学費を奨学金以外の方法で用意しなくてはなりません。

実際、同様の事態に陥り、利息の高い信販系ローンに頼った学生にもお会いしました。

その場合、翌年に無事国家試験にも合格したとしても、奨学金に加えて高利息ローンの返済も合わせた負担がのしかかってきます。

最悪のケースとしては、学費未納で中退し、1,000万円もの奨学金の返済だけを抱えてしまう可能性があります。

■私立大学の定員割れ問題 少子化社会になっているにも関わらず、規制緩和により90年代以降新設大学が増え続けた結果、現在では私立大学の約45%が定員割れに陥っています。

これは薬学部も同様です。 全国73大学に薬学科が設けられていますが、定員割れ大学が年々増加しています。(H28年度現在)

今後は統廃合も含めた大学再編の動きが広がると言われていますが、薬学部もその流れに逆らえないでしょう。

薬剤師業界も昔よりも将来設計が描きづらくなってしまいました。
それだけに、奨学金を利用して薬剤師になった人には、より現実と将来を見据えたキャリアプランが求められていると思います。

久米忠史 先生
久米忠史 先生
久米忠史 先生

奨学金アドバイザー
株式会社まなびシード代表
http://www.shogakukin.jp/

1968年生まれ 和歌山県出身
奨学金アドバイザーとして2005年から沖縄県の高校で始めた奨学金講演会が「分かりやすい」と評判を呼び、 全国で開催される進学相談会や高校・大学等での講演が年間100回を超える。
「奨学金なるほど!相談所」では、無料メール相談も行っている。

【著書】奨学金 借りる?借りない?見極めガイド
【著書】子どもを大学に行かせるお金の話
【連載】All About(オールアバウト)「大学生の奨学金」

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