薬剤師は、主に病院、調剤薬局、ドラッグストアや製薬会社など様々な職場で働いています。
ドラッグストアでの出来事に焦点をあててドーピングについて話をしたいと思います。
ドラッグストアでは店頭に並んでいる薬を消費者が自分で選んで購入できます。そのため、アスリートが誤った薬を使用し、ドーピング違反になってしまう危険性があるのです。
では、どのような商品がドーピング違反になってしまうのでしょうか?
市販で売られている薬には、総合風邪薬・鼻炎薬・咳止め・漢方薬・塗り薬・栄養ドリンクなど様々な商品に禁止物質が含まれています。ほとんどの商品に対して気を付けなければならないので、「たぶん大丈夫です」ではなく、“薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック”を活用し、もし手元になければweb上での医薬品検索サイトであるGlobal DRO(http://www.globaldro.com/JP/search)の利用や薬剤師会ホットラインへの相談など、しっかりした対応が必要となります。
今回は総合風邪薬を例に考えてみましょう。
“効果が高いです”、と宣伝されている総合風邪薬にはエフェドリン、プソイドエフェドリンが入っています。エフェドリンは気管支を広げ呼吸を楽にする作用から、咳止めとして使用されています。プソイドエフェドリンは、鼻粘膜の血管平滑筋を収縮させ、血流を減少させることにより鼻水や鼻づまりに効果を発揮します。しかし、双方ともに交感神経系に作用する成分であるためアンチ・ドーピングの規則としては、「興奮薬」に分類され禁止されています。いくら使用上の注意を守って用法用量を正しく使用したとしても、検出されてしまった時点でドーピング違反になります。
アスリートの気持ちになって考えてみたら、早く万全な状態で練習をしたい、試合に臨みたいという思いから、効果があると広告に書かれている薬、もしくは値段が高ければきっと効くに違いない!とこれらの成分の入った薬を手にしてしまう可能性は0ではありません。実際に購入使用してしまったトップアスリートは試合を辞退することになってしまったケースもあります。
ほんの少しの不注意なのだから、わざとじゃないのだから体調不良だし、それくらい許してあげたら・・・と思う方も多いでしょう。しかし、スポーツをする人は厳しい環境の中取り組んでいるのです。例えわざとじゃなくてもダメなものはダメなのです。この、アスリートが意図してなくてドーピング違反となってしまうことを「うっかりドーピング」といいます。
では、私たち薬剤師が、アスリートをドーピング違反から守るために、できることは何でしょう?
アスリートは体育大学や実業団の近くの薬局にしか行かないわけではありません。いつ、自分の勤務する薬局に来るかはわからないので「質問されたら本を見て調べたらいいや」ではなく、あらかじめざっと本に目を通すだけ、質問できる場所の確認だけでもしておくと安心だと思います。患者さんやお客さんがアスリートかどうかわからないから話しかけるのをためらってしまうこともあるかもしれません。しかし、“ロゴ入りトレーニングウェアを着ている”、“体形が一般の人よりもがっしりとしている”、“会話でスポーツの話題が多い”など、調剤薬局で普段患者さんと話すような会話の中や、ドラッグストアでの買い物中の会話や仕草でも、“この人アスリートかもしれないサイン”はたくさんあります。そんな時にこちらか一言、「スポーツをされているのですか?ドーピングには気を付けて商品を選んでくださいね。」と、声をかけていくことも大事だと思います。ドーピングになってしまうのはアスリートの自己責任だと最終的には言われますが、ドーピングに関するすべての知識をアスリートが覚え知っているとは限りません。積極的にこちらから声をかけていってドーピングに対する注意喚起をしていくこともアスリートを守ることにつながると考えます。
2016年から、かかりつけ薬剤師の制度ができました。「アスリートの為の、かかりつけ薬剤師」になれたら素敵だと私は思います。
次回はドラッグストアで販売されている鼻炎薬についてです。