前回は今年の禁止表の変更点について述べましたが、今回から今年の禁止表国際基準の解説を行っていきます。
最近、国内・海外の問題に関わらず、ドーピングに関する話題はメディアで多く取り上げられるようになりました。興味を持ってもらい、ドーピングに注意をもつようになるのは良いことなのですが、メディアの説明では不十分な点も多く、誤解して受け取っている方も多くいらっしゃいます。
その一つが、ドーピング検査は試合の時、または試合が近い時だけという情報です。
今年、薬剤師の方が投薬中に「大会の時にドーピングになるので気をつけてください」と服薬指導をしている場面に遭遇しました。その薬はβ2刺激薬で、常に禁止となる物質に分類されるものでした。せっかく、服薬指導でドーピングに注意するよう促しても抜き打ち検査で当たってしまってはドーピングになってしまいます。
そこで、まずは、禁止物質には2種類あることを知ってほしいと思います。その次に、物質だけではなく、禁止に当たる方法もあることを知ってほしいと思います。
①常に禁止される物質と方法
②競技会時に禁止される物質と方法
この二つの違いは、
①は大会期間、練習期間に関わらずいつでも禁止とされる物質や方法のことをさします。
②は大会期間のみ禁止とされる物質と方法のことをさします。
よって、①の場合は競技生活を続けている間は、よほどの理由がない限り使ってはいけません。
なぜ、2つに分類されているのか、それは、ドーピング検査は、競技会検査(ICT)と競技会外検査(OOCT)の2種類実施されているからです。競技会外検査はいわゆる抜き打ち検査のことで、早朝、深夜、練習中、授業中、勤務中などに関わらず検査が行われるものです。
もう一つ、誤解されているなと感じることは治療使用特例(TUE)についてです。この制度は、どうしても治療目的で禁止とされる物質や方法を使用しなくてはならないときに、許可をもらうための申請です。よく、「検査に当たったら診断書を提出すればよいのでしょう?」と、医療従事者からお聞きしますが間違いです。原則は事前に申請し、承認をもらう必要があります。申請しても必ず承認がおりるわけではないので、余裕をもって申請をする必要があります。
これから述べる禁止表に該当する医薬品を使用する際は、代替薬がある場合は変更を、ない場合はTUE申請が必要です。
【禁止表国際基準2018】 図1(WADA禁止表2018)
この図において、赤で囲まれた部分が“競技会時”に禁止になる物質で、青で囲まれた部分が“競技会外時”に禁止になる物質となります。
今回は①常に禁止される物質と方法のS0.無承認物質について述べます。
S0.無承認物質
人体への治療目的使用がどの政府保健医療当局でも承認されていない薬物のことです。日本で承認されていなくても、海外で承認されていれば、禁止表の別のカテゴリーに分類されています。
前臨床段階、臨床開発中、開発の中止になった薬物、動物への使用のみが承認されている物質などが該当します。日本で見かけない薬物だとしても禁止とは限らないので注意してください。
日本薬剤師会のホームページには「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック」が掲載されています。JADAのホームページには「2018年禁止表国際基準」が掲載されています。そちらに詳しく書かれていますので、参考にしてみてください。