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スポーツファーマシスト活動報告

第19回 禁止表国際基準(S3:β作用薬)~喘息の薬に注意~

β2 作用薬は気管支拡張目的で医薬品として使用されていますが、交感神経興奮作用、タンパク同化作用による筋量の増加目的で使用されるためドーピング禁止物質に該当します。

よく、「喘息の薬は使用できないのですよね?」という質問を受けますが、2010年12月31日までの規程では、サルブタモールやサルメテロールの吸入は禁止物質に該当していたため、TUE(治療使用特例)が必要でした。喘息の吸入薬を使用する場合の多くが、使用許可を受けるためにTUE申請をしなければならない状況だったため、「喘息の薬は使用できない」と認識されている方が多いのだと思います。しかし、近年では使用できる吸入薬は増えています。

以下のβ作用薬は禁止に該当しません。

○ 吸入サルブタモール(24時間で最大1600μg、いかなる量から開始しても12時間で800μgを超えないこと)
○ 吸入ホルモテロール(24時間で最大投与量54μg)
○ 吸入サルメテロール(24時間で最大200μg)

この類の薬物は、EIA(運動誘発性喘息)等の喘息治療を目的に使用される事例が多く、ドーピングとしての効果を期待できるものと、それ以外の医薬品の使用との差別化などで規定が細かくなされているところです。2018年にも細かく追記がされました。
また、のど飴などで話題となった「ヒゲナミン」はこのセクションに分類されます。生薬成分に含まれることがあるので栄養ドリンクや、漢方薬には注意が必要です。

(S4:ホルモン調節薬および代謝調節薬)
このセクションではWADAの禁止表国際基準に具体的な物質が載っていますが、これらに限定するものではないとの注意書きがあるため、禁止表に記載がないから使用可能というわけではありません。
禁止される理由は、アロマターゼ阻害薬(アリミデックス、アロマシン、フェマーラなど)、選択的エストロゲン受容体調節薬(エビスタ、ノルバデックス、フェアストンなど)等では抗エストロゲン作用を有し、男性ホルモンが増加するため禁止されます。
ミオスタチン阻害薬は、筋肉の増強を抑制するミオスタチンを阻害することにより、筋力の向上が期待できるため禁止となります。先天的にミオスタチンが欠損している動物は通常よりも筋肉量が多いと報告が上がっています。

(ミオスタチン欠損の犬イラスト)

糖尿病の方はインスリンを使用することもありますが、インスリンは筋肉におけるグルコースの利用を促進、アミノ酸の貯蔵を促進し、蛋白の合成を行い、分解を抑制するため禁止されています。しかし、経口糖尿病薬のスルホニル系、ビグアナイド系、インスリン抵抗性改善薬、食後血糖改善薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬は禁止されませんので、糖尿病の方が全てTUE申請対象ではありません。

競技者は健康な方が多く持病を持ち合わせていないと考えられがちですが、糖尿病だけでなく、高血圧などの生活習慣病の医薬品を使用している競技者もいます。有名なテニス選手が違反となった「メルドニウム」もこのセクションに分類されます。