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今月のPickUpファーマシスト

第8回 石丸 勝之さん(まちづくり薬剤師)

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教えてくれるのは

第8回 石丸 勝之さん(まちづくり薬剤師)

東京都足立区出身。東邦大学薬学部を卒業後、ふらっと気軽に健康相談ができる「調剤喫茶」を実現するべく仕事に準備に奔走中。その一歩となる「屋台喫茶」を計画し実施したクラウドファンディングではなんと数時間で目標金額を達成。

薬剤師さんとの出会い×昔からの夢=調剤喫茶

―石丸さんの働き方について教えてください。

大学卒業後は静岡県の病院で3年間勤務し、都内の施設在宅の対応をしている調剤薬局に転職、異動で山形県の門前薬局で1年半ほど1人薬剤師を経験しました。現在は再び都内に戻り、個人在宅専門の薬局に勤務しています。学生の頃から調剤喫茶が夢だったので、そこから逆算して必要な経験を積もうと思い、このようなキャリアを歩んでいます。

 
―「調剤喫茶」を志すことになったきっかけを教えてください。

僕は薬剤師とは全く関わりのないような家庭で育ち、もともと昔から喫茶店のマスターになりたいと思っていました。そんな僕が高校生のときに初めてのアルバイトでドラッグストアに勤務し、そこである薬剤師さんと出会ったことが大きな転機でした。

その薬剤師さんはとにかく地域の人に慕われていて、患者さんは処方せんを持って来るでもなく、ただその薬剤師さんと雑談をしにだけ来るような人がとても多かったのです。その薬剤師さんのまわりにはなぜかいつも人が集まって、まるで町のよりどころのようになっていたのが素敵だなと思いました。その薬剤師さんもただの雑談だけではなくて、薬や健康のこととなると目の色を変えて相談に乗られている姿がかっこいいなと感じました。

だからと言って、自分も薬剤師を目指そうとすぐに思ったわけではなく、なり方もわからなかったので、憧れつつもどこか遠い存在のように感じていました。ところがある日、クラスメイトが薬学部を受験するつもりだということを聞いて、薬剤師がすごく身近な(自分も目指すことができる)存在だと感じ、そこから薬学部を目指して猛烈に勉強を頑張りました。

そして、もともと僕は昔から喫茶店のオヤジ(マスター)になりたいと思っていました。マスターの人柄に惹かれてお客さんが通うというのが素敵で、”わいわい地域の人が集まる団らんの場を作る”ことへ憧れていました。そんな理想像とその薬剤師さんが重なりました。

 
―運命的なきっかけですね! では、大学入学時点ですでに調剤喫茶という構想をお持ちだったということですか? 

薬剤師と喫茶店をミックスさせようと思ったのはもう少し後のことです。僕はあの薬剤師さん以外を知らなかったので、まずは「薬剤師さんってどんな仕事?」ということを少しずつ知っていくことから始まりました。

そうして同級生から身近な薬剤師の話を聞いたり、自分自身も体調不良で薬局のお世話になったりする中で、僕の目指した姿と比べて「何かが違う」「何かが足りない」と感じました。世間のほとんどの薬剤師は患者さんとカウンター越しに、患者さんにとって意味があるのかどうかがわからない一問一答をして、確認作業で薬を渡していたように見えたんです。

高校時代に出会ったあの薬剤師さんとは全然違うなと感じました。足りない「何か」とは、雑談=コミュニケーションだと考えました。

そこで初めて、昔から憧れていた「喫茶店のマスターになる」という夢がつながりました。もともとなりたかった夢と、薬局に患者さんとのフランクなコミュニケーションをプラスしたいという気持ちが合致したので、両方を合わせてしまえばいいのでは? と思ったのが、「調剤喫茶」を思い立った瞬間でした。周りの頼れる大人や先輩方に意見やアドバイスを頂きながら、実現に向けて構想を練り上げています。

 

―「頼れる大人、先輩方」とはどのようにつながったのですか?

一番大きく進展したのは昨年の春から始めたTwitterです。きっかけは、僕の古い友人に調剤喫茶の夢を話したときに「想いをネットツールでアピールした方がいい。共感者を集めた方がいい。」と言われたことです。また、当時の異動先の山形は縁もゆかりもなく、周囲に一人も知り合いがいない状況でした。未熟な一薬剤師としても頼れる人が必要で、そういう人を自分で探しにいかないといけない状況だったんです。

そしてTwitter上のコミュニケーションだけでは物足りなくなってZOOMや電話で直接話すようになり、数は少なかったですが山形近辺で会える人には直接会う、というようにだんだんつながりが増えていきました。

まずはミニマルから。クラウドファンディングで「屋台喫茶」スタート。

―すごい行動力ですね。「屋台喫茶」のクラウドファンディングもそのつながりの中から生まれた発想ですか? 

そうですね。「調剤喫茶を実現するためには何が必要ですか?」と周りの大人たちに聞く中で、僕がやりたいことは普通に薬局を建ててできるビジネスではないんだということを知りました。「まずは小さくできることからやってみたらいいんじゃないの?」とアドバイスをいただき、自分が会社員として働く時間以外でできる範囲で、調剤喫茶に近いことは何があるのだろう? と、仲間と壁打ちをしました。

その中で

「本当にやりたい”街角の健康相談所”に、喫茶店のごはんは絶対に必要?」

まあ、なくてもいいかもなあ。

「保険薬局のシステムは必要?」

別になくても雑談で健康相談はできそうだから要らないかもしれないな。

……と、どんどん削ぎ落していって、その結果、料理も飲み物も薬も要らない、自分の身一つと椅子とテーブルがあれば、”まちかどの頼れるオッサン”に近づけるかもしれない、という考えにたどり着きました。

じゃあ屋台を引いて町を練り歩けばいいじゃん。屋台を購入しよう。応援してくれる仲間は、夢の一歩への一押しをしてくれるんじゃないかな。頼ってみようかな。と思い、今回クラウドファンディングに挑戦しました。

 
―そのクラウドファンディングも大成功だったとのことですが。

自分でもびっくりしました。完全に予想外で、初日の3時間ちょっとで達成してしまい……仕事中だったんですけど、同僚と飛び上がって喜びました(笑)

僕は特別な能力を持っているわけではないので、そんな人間に支払えるお金ってどれくらいかなあと。お友達価格で500円くらいなら、自分なら払えるかなあ……などと考えながら目標金額を10万円に設定しました。ですが予想外に応援してくださる方の力が強くて、すぐにネクストゴールを50万円に設定し直し、最終的には65万円を超える金額になりました。応援してくださった皆様には心から感謝の気持ちでいっぱいです。

↑完成した屋台を初めて広げているところ(部屋が汚いのはご容赦ください……)

―期待されているんですね! オープンはいつの予定ですか?

11月中にはオープンできたらいいかなと思っています(※)。屋台そのものはすでに完成しているのですが、現在は実働に向け保健所への許可申請や役所へのアピールの期間です。

ミニマルでできることに削ぎ落したとはいえ、話していると喉が渇いてしまうので飲み物を提供したいなと思い(笑)、その許可をもらうために保健所や、屋台を構えたいと思っている公園を管理している自治体にアピールする営業活動のための10月としています。

思いのほか公園の審査は厳しいのですが、クラウドファンディングの支援者の方でお店や物件を持っている方がいて、その前やスペースを使っていいよと嬉しいお声をかけてくださっているおかげで、場所に関してはすごく順調です。あとは保健所だけですね。

調剤喫茶についてですが、そもそも飲食事業と薬局事業はお互いに相容れない要素があるので、パーテーションがないといけない、入り口が別でないといけないなど保健所のハードルは高いです。ただ、このような業態を目指す方も多いようで、待ち時間にお茶を提供するような薬局はすでにあります。本当に目指している形に至るのはまだまだ時間がかかりそうですが、制度も変わっていくかもしれませんし、まずはできることから挑戦しています。

※本取材は10月に行ったもので、その後12/1(水)にオープンが決定しました。ファーネットマガジンでも引き続き屋台喫茶を追ってまいります!

 

―処方せんを受け付けなくても、保健所のハードルの高さは変わらないものなのですね。

そもそも”調剤をやるの? やらないの?”という問題が調剤喫茶の構想にはついて回ります。ですが、せっかく僕を頼ってくださったお客さんに薬剤師として提供できるのがお話だけというのでは申し訳ないじゃないですか。それに喫茶店という業態だけでは生業にするには厳しい……という現実もありますので、保険薬局の役割は担いたいなと考えています。それだと医療的なアプローチもしやすいですしね。

そうなると、先ほどお話したとおり保健所のハードルは高いです。今は屋台喫茶をするうえで削ぎ落しはしましたが、長期的なビジョンを見据えると、調剤は削ぎ落せないなと思っています。

”誰も寂しくない町”を作りたい。

―屋台の後の構想はおありですか?

今勤めている会社の社長には、2年間勤めると期限を伝えています。その期間の中で何ができるかと考えたのが屋台だったので、企業人であるうちはひとまず屋台をやっていこうと思っています。

ただその後は、ずっと屋台を続けていこうとは思っていません。やはり飲み物も提供したいですし、先々はお弁当も提供できるといいなとか、そうしたら屋台ではなくキッチンカーが必要になる? それを薬局の隣に置いたらいいんじゃないか? それが週5でできるのであれば店舗でまとめてしまえばいいのではないか?……と、ステップを思い描いています。あと1年半でどこまでいけるかは分かりませんが、キッチンカーくらいまでを目下具体的に目指して、他のメンバーも巻き込んで進めていけたら嬉しいです。

―具体的にどのようなメンバーがいらっしゃるのか教えてください。

調剤喫茶でやりたいことの一つに食事指導がありますが、食事面の栄養バランスのアドバイスなどは管理栄養士さんが必要で、このプロジェクトの肝でもあります。今は管理栄養士さんとのつながりを作っているところです。今勤めている職場にも管理栄養士さんがいるので、少しずつ力を貸してもらっています。

他には薬剤師はもちろん、町づくりをしている飲食店の方やハーブや漢方が専門の方、アロマセラピーで有名な方など、いろんな方が協力してくださっています。一般の方に調剤喫茶を広めるためには、どちらかというと非医療者の方の考え方を知らなきゃいけないなと思っているので医療者以外の方とも今後つながりを深めていきたいと思っています。

 

―改めて調剤喫茶を通して叶えたいこと、薬剤師として達成したいことを教えてください!

薬局薬剤師として、喫茶店のマスターとして、薬局の投薬カウンターを喫茶店のカウンターのように雑談に花が咲く場所に変えたいと思っています。「この辺りに腕の良いお医者さんいる?」でもいいですし、もちろん「今日学校でこんなことがあって……」という相談でもいいですね。雑談の中から何気ないお困りごとやお悩みをピックアップして、医療や介護などの機関につなげるハブの役割を担いたいと思っています。

もっとスケールを大きくすると、お客さん同士がつながる仕組みとして、調剤喫茶を活用してお客さんが何かイベントをしてくれるのもいいですね。調剤喫茶とお客さん、そこの周りの人がつながって……調剤喫茶を起点とした町ができると思います。「雑談からつながる町づくり」をして、僕は誰も寂しくない町を作りたいんです。

↑10月に開催したイベントにて。もうすぐこの姿が日常に!?