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インタビュー

ー能登半島地震から1年ー 災害時にも活躍する薬剤師になるために

昨年2024年1月1日、新年の挨拶が全国で飛び交うなか16時10分に能登半島を震源とした能登半島地震が発生しました。地震の規模はM7.6。輪島市と羽咋郡志賀町で最大震度7を観測しました。

日本薬剤師会では同日に災害対策本部が立ち上げられ、被災県薬剤師会への支援体制の構築、全国の薬剤師会ならび薬剤師の協力により被災地へ支援薬剤師が派遣。支援活動では4,000人を超える支援薬剤師や13台のモバイルファーマシーが出動しました。また2024年度には調剤報酬改定における算定要件の変更もありました。

2024年度調剤報酬改定における算定要件の変更点

2022年度診療報酬改定から新設された連携強化加算。連携強化加算とは災害や新興感染症の発生時等でも薬局が継続して地域の医薬品供給や衛生管理に関する対応を維持できる体制を評価するものです。
2024年度の変更で調剤基本料連携強化加算が2点から5点へ改定され、地域支援体制加算の該当の要件は廃止となりました。
下記資料の[主な施設基準]を確認すると、(5)~(7)において災害に関する項目があることが確認できます。
ただ、どういった内容なのか、何を求められるのか、具体的にというのは想像しにくい部分があるかと思います。

災害薬事とは

そもそも災害薬事とはなにかご存知でしょうか? 災害薬事とは、災害医療における薬学・薬事に関する分野のこと。
災害時の人員、医薬品や設備が限られた状況の中、薬学の知識を生かし、医師などの支援者とともに被災者のサポートを行うことを必要とされます。
災害薬事に関する薬剤師の資格として以下のものがあります。

それぞれ取得条件や登録資格はことなりますが、いずれも「災害時に活躍できる薬剤師である」ということを証明できるものとなります。しかし、具体的な内容が分からないまま取得しようと思い立つのは難しいですよね。


そこで実際に災害現場で活躍され、講演なども行っている渡邉暁洋先生にお話をお伺いしました。

― 災害時、薬剤師に求められる行動について具体的に教えてください。

初めに大前提として、災害時には限られた人員・限られた資機材にて対応しなければなりません。その上で、医薬品管理・医薬品供給・調剤・服薬説明など皆さんが普段されている業務に加え、医療職として環境衛生・公衆衛生を整えることに務めなければなりません。
さらにLogisticとしての、記録・調整・輸送・活動自体を支える生活環境保全(移動・宿泊・休息・資機材管理など)、データ集計など多くの役割があります。


※ 災害医療におけるLogisticとは、災害地で医療活動を展開する人員の確保、医療資機材の手配、被災地における行政機関等との調整の全般を指す用語として位置付け

 

― 日本において地震・災害は切り離せませんが、次に来ると言われている大地震までに進めなければならない・整備すべき仕組みなど考えられていることがあれば教えてください。

まず各都道府県での医薬品供給体制の確立、それらの調整、マネジメントを担う、災害薬事コーディネーターの育成・委嘱することで、地域の基盤を作らなければなりません。その上で、現場で支援活動を展開する支援薬剤師の事前登録制度を整え、薬剤師自身の有事での質の向上のための教育体制の充実化は進めなければならないと思います。

またせっかく支援があったとしても受け入れ体制が整っていなければ最大限の力が発揮されないので受援体制の構築、それにともなった薬剤師やモバイルファーマシーを現地に移動させるための制度も必要となります。


他にも空路を活用した医薬品供給体制の構築、被災状況や活動データなどのIT化、それらを自動化していくためのDX化など道のりは長いです。

 

― 日本の薬剤師中で「災害時、薬剤師に求められている役割(災害薬事)」について現段階の認知度はどのくらいだと思われますか?

体感ですが認知度は5%くらいかと思います。まだまだ足りないです。
そもそも災害医療についても認知度はまだまだ不十分だと思います。

 

災害薬事の認知度を上げるために

渡邉先生は大塚製薬株式会社(以下、大塚製薬)地域包括推進部の事業の一環である各自治体への災害医療に関する支援活動「大塚災害薬事サポーター養成プログラム」においてカリキュラム監修と講師として講演されています。

 

この大塚製薬の活動は2021年からスタート。
災害はその地域の地形や環境によって発生する問題が異なりますが、阪神淡路大震災以降、全国の地方自治体との連携・協働を進め、2024年11月現在は800以上の自治体と協定を締結しているという強みを活かし、この「大塚災害薬事サポーター養成プログラム」も市町村単位で開催。
地域ごとに異なる課題に対応しながら全国標準の3回シリーズカリキュラムでセミナーを実施されています。
それぞれ1~3は別日で開催。参加費は無料となっています。

 

全3回大塚災害薬事サポーター養成カリキュラム
日本災害医療薬剤師学会 後援
厚生労働省医政局地域医療計画課 後援

1st ステップ

● 災害医療の扉を開ける 講師:災害薬事特別講師 共通動画コンテンツ
●当該地域の災害医療体制を知る 講師:当該自治体・保健所
● 地域災害拠点病院医師から薬剤師に期待すること 講師:DMAT医師

 

2st ステップ

災害時における薬剤師の役割を理解「薬剤師だからできること」
➡災害時における衣料品供給の実際、発災後の特例措置
 薬事トリアージの実際、避難所・救護所における臨時調剤所の立ち上げ(helpscream)

 

3st ステップ

● 実践的対人スキルを習得する
 災害時のこころのケア(セルフケアを中心に・被災者のこころのケア)
● 薬剤師による災害医療への本格的な参画 次のステップへの扉を開く
➡災害時における薬事マネジメント機能(例:災害薬事コーディネーター)

 

ただ、せっかく薬剤師教育を行っても活躍する環境が整ってなければ無意味なものとなってしまいます。大塚製薬はセミナーを開催する前に開催地自治体とミーティングを重ね災害薬事体制整備支援も行われています。

 

災害薬事体制整備支援事業の事例

・市町村に対するBCP(事業継続計画)設置支援
・当該地域医療団体との会議体設置、運営支援
・救護所設置、運営支援
・軽症者トリアージポスト設置、運営支援
・各種訓練サポート

船橋会場の運営に関わった方々

 

この薬剤師教育支援(大塚災害薬事サポーター養成プログラム)と災害薬事体制整備支援の2軸によって、実際にセミナーが開催された自治体では
・行政(保健所)と薬剤師会の関係性構築

・行政と病院との関係性構築

・災害薬事に関する会議体の設置

などの自治体の中で起こる変化、

・薬剤師のヘルスケア窓口としての意識度UP、連携の加速加
・医療救護所設置に伴い訓練のスタート、薬剤師の参加人数増加
などの薬剤師の可能性の幅の広がりを見受けられるようになっているそうです。

 

地震大国と言われる日本、南海トラフ大地震も予測されているうえに近年では台風は豪雨による災害も多くなってきています。今一度自身の自治体の災害時の体制がどうなっているか調べ、知っておくことが重要ではないでしょうか?

関心をもたれた方は下記学会へご参加されてみてください。

HP:https://smartconf.jp/content/jpsdr12/

 

HP:https://www.congre.co.jp/30jadm/

 

大塚災害薬事サポーター養成プログラムにご興味をもたれた方はお近くの大塚製薬担当MRにご連絡・ご相談ください。