緊急避妊薬の在り方 ― 薬局での試験販売―
試験販売は公益社団法人日本薬剤師会が厚生労働省より受託し、実施。現在*1全国145の薬局にて購入が可能です。
販売する薬局は以下4つの条件を満たしていることが求められています。
1. オンライン診療に基づく緊急避妊薬の調剤の研修を修了した薬剤師が販売可能
2. 夜間及び土日祝日の対応が可能
3. プライバシー確保が可能な販売施設(個室等)を有する
4. 近隣の産婦人科医、ワンストップ支援センターとの連携体制を構築可能
参照:厚生労働省 地域の一部薬局における試験的運用について
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001112818.pdf
また、購入希望者は以下の条件があります。
1. 試験販売であることを理解すること
2. 研究への参加同意やアンケート等への協力をしていただけること
3. 16歳以上であること(18歳未満は保護者の同意・同伴が必要)
4. 日本語での確実なコミュニケーションが行えること。
参照:緊急避妊薬販売に関わる環境整備のための調査事業
https://www.pharmacy-ec-trial.jp/
世界ではアメリカやイギリス、ドイツなどを含む約90の国で緊急避妊薬の処方箋なしでの販売が行われている一方、日本では2017年に厚生労働省の検討会にて否決。2019年にはオンライン診療での処方が認められたが、性行為後できるだけ早く服用する必要があることからさらなるアクセス改善の必要性が求める声がありました。
そんな中ようやく一部薬局で試験的販売が2023年11月にスタート。
販売開始後、薬局現場でのリアルな声をお聞きしました。
一般社団法人 SRHR pharmacy PROject 代表 鈴木 怜那さん
一般社団法人SRHR pharmacy PROjectとは?
薬剤師を中心に、みんなのくらしの中にSRHR*が溶け込む社会を作るために活動している社団法人。
*: Sexual Reproductive Health and Rights(セクシュアルリプロダクティブヘルスアンドライツ)の略称。自分のからだは自分のものであり、プライバシーが守られ、差別や強制、搾取、暴力を受けず、自己決定が尊重されることを当たり前にしようとする考え方。(参照:一般社団法人SRHR pharmacy PROject HPより)
鈴木怜那さんは一般社団法人SRHR pharmacy PROjectを立ち上げられ、以前から緊急避妊薬のOTC化の必要性を主張。2023年11月の研究事業開始以降、ご自身が勤務されているOGP薬局荒川店にて実際に緊急避妊薬の販売に携わられています。
―一般社団法人SRHR pharmacy PROjectを立ち上げた経緯をお聞かせください。
私が産休育休から復帰したタイミングがより地域に根付いた薬局・薬剤師が重要となる時期でした。
かかりつけ薬局として具体的にどういったものが必要とされるのか、需要があるのかを考えながらさまざまな勉強会に参加する中で女性のヘルスケアについて学び、そして基本的人権の1つとして考えられているSRHRに出会いました。
学んでいく中で、この考えは生きていく中でとても大事なものだけど知っている人は少ない。別に知らなくても生きていけるけれど知っておいた方がより豊かな人生、well-being(ウェルビーイング)に繋がると思い、立ち上げました。
権利を尊重するために緊急避妊薬は必要
―ようやく研究事業という形で処方箋なしでの販売がスタートしましたが実際取り扱ってみていかがですか?
確実にニーズがあります。特に私のいる薬局は日曜日も開いているため日曜日に問い合わせの電話が鳴ることが多いです。
緊急避妊薬はできるだけ早く服用することで避妊率が高くなるものなので、多くの病院が休みの日曜日に薬をお渡しすることができるのは求める方にとって非常に有意義なことであると感じます。
お問い合わせいただく年齢層は20~40代でまんべんなく、男女ともにあります。男性からの場合、服用する女性が必要な情報を手に入れることが大事なので、本人から電話をかけていただくようにお願いすることもあります。
「出産する・しない」「家庭をもつ・もたない」は自分の意思が尊重されるべきことです。自分の身体、こころを尊重するために改めて緊急避妊薬は必要だと感じました。
また緊急避妊薬に限った話ではありませんが、男女問わず少しでも不安を和らげることができると、より“かかりつけ薬局”としての役割を果たせているような気がします。
―緊急避妊薬のOTC化についてどう思われますか?
確実に必要だと思います。
先ほどお伝えした通り、できるだけ早く服用することが大事な薬です。すぐに対応してほしいという時、クリニックの場合は時間や費用の面さまざまなハードルがあります。
自身の身体を守るための薬なのに、服用せず不安なまま過ごすという方も多くいると思うと、薬局での販売も現状決して安くはありませんがお渡しすることができるのは大きいことではないかと思います。決してクリニックがダメというのではなく、薬局という場を増やすことでどちらか選べるようになるということは、女性にとって自分自身を守る手段が増えるということです。
現在国内で承認され、取り扱っている緊急避妊薬2種
―日本だと緊急避妊薬はセンシティブなイメージを持たれていると思います。そのため薬を求めに来られた方へどう対応すればいいか悩む薬剤師さんもいるかと思うのですが、鈴木さんはどのような対応を心がけていますか?
緊急避妊薬はSRHRが尊重されるべきお薬です。産む産まないを自分自身で考えることができます。しかし、世間には偏った考えもあり、女性が負い目を感じることがあるように感じます。
緊急避妊薬を購入する際にも「申し訳ない」という気持ちや、「謝らないといけない」と言いう気持ちが前に出てくる方もいます。ですが、これが頭痛薬だった場合、謝りながら来局されるでしょうか? 女性に対しての社会の態度によって「この薬を貰う自分はどう見られるんだろう?」「恥ずかしい。」などの罪悪感がうまれてしまうのです。
医療者はそうであってはなりません。SRHRを尊重するという考えがあれば女性に負い目を感じさせる態度にはなりません。
そして、他の薬と同様、薬の適正使用について説明できれば問題ないと思っています。
もしかすると難しいこととかたずねられるかもしれませんが、よかれと思って相談に乗っても私たちはメンタルケアのようなことを学んでいるわけではありません。分からないと感じたらその地域の専門家につなげてあげることができれば問題
ないと思います。
また、研究事業対応でない薬局だとしてもその地域の緊急避妊薬のアクセスについて知っておくことは必要だと思います。
もし問い合わせが来たらそこに繋げられるようにしておくことが大切ではないでしょうか。
―今後研究が進む中で、希望する改善点などはありますか?
研究事業として処方箋なしでも緊急避妊薬を販売できるようにはなりました。ただ研究事業だからこそ、販売するに際してクリアしないといけない条件があります。
例えば日本に旅行でこられている海外の方をはじめ、まだ日本語が堪能ではない日本在住の方や留学生の方にはお渡しすることができません。また都内では5店舗の薬局のみが対象、多くの県内では3店舗のみと取り扱い場所も少ないと感じるのが現状です。
あと一歩、必要とされる方にとってアクセスしやすい薬になればいいなと思います。
鈴木さんが勤務されているOGP薬局荒川店では緊急避妊薬を求めにこられた方に「もしものおまもり(製作:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」をお渡ししているそうです。
緊急避妊薬についてや、入手の仕方、その他の避妊方法など“もしも”の場合の対応方法についてイラスト付きで分かりやすく説明されています。ご興味を持たれた方はぜひ一度ご覧ください。
問い合わせ先
Mail:srhrpharmacyproject@gmail.com