第10回 永井 貴充さん(みどり薬局(合同会社ソラ・コレード) CEO・薬剤師)
卒後は大手ドラックストア、クリニック内の院内調剤、調剤薬局に勤務。
調剤薬局では薬局長兼3店舗の店舗運営を行う。
2019年8月 神奈川県横浜市で、みどり薬局を事業承継にて開局
POINT
・処方箋を「捌く」のではなく、患者さんとしっかり「向き合える」薬局を作りたい。
・患者さんとの会話の中で薬局運営のカギを探す。
・薬局外の人とのコミュニケーションの中で自分を磨くことも大切。
―独立を目指したきっかけや理由を教えてください。
たくさんの処方箋を少ないスタッフで「捌く」のではなく、一人の薬剤師として患者さんとしっかり「向き合える」薬局を作りたいと思ったからです。薬局は門前の処方元医療機関があってこそ成り立っている部分があるため、ドクターの顔色を窺わなければならないことがあります。薬剤師として正しいと思った行動が、会社にとってはそうではないと指摘されたこともありました。私は、ただ処方の内容を伝えるのではなく、患者さんとしっかり向き合って、健康づくりのサポートができる薬局を作りたいと思っています。
薬剤師は国家資格なので、自分の言葉に責任を持って患者さんと向き合う必要があると思います。それが認められる環境で働きたいという気持ちで独立を目指しました。
―薬局を譲受する前と現在の実績を比べていかがでしょうか?
薬局を引き継いだときは月350枚だった処方箋枚数が、現在は850~900枚くらいまで増えてきました。冬だけでなく夏の一番少ない8月でも900枚に届くくらいです。
これまでの繋がりで施設を2件任せていただいています。もとの350枚から施設250枚の上乗せで600枚になりました。あとの300枚は開局してから3年間の積み重ねで増えていきました。患者さんを待たせないことを意識したり、一人ひとりの患者さんの対応を丁寧に行ったり、近隣住民の方と親しくなるなどの心掛けはしています。900枚のうち半分くらいが特定の主要処方元からで、他は多くの医療機関から来ていただいています。
「処方箋を増やすためにどんな取り組みをしていますか?」と聞かれても簡単には答えられません。小手先のテクニックで処方箋が増えるなら、どこの薬局でもやっていると思います。処方箋の枚数は患者さんの役に立った回数だと思っているので、「この人の役に立つにはどうしたらいいか」という気持ちで毎日仕事をしていることが処方箋枚数の増加に繋がったと思っています。
―薬局運営で苦労されていることはありますか?
どこもそうかもしれませんが、薬の流通が滞っているので、薬の確保にすごく苦労しています。昔からある薬が、ある日突然出荷調整になることもあります。新規で処方箋を持ってきてくれた患者さんが「今まで使っている薬をみどり薬局でお願いしたい」と言って持ってきてくださったときに渡せないこともあります。その場合は、代わりの薬を患者さんやドクターに提案することがあります。
患者さんが来店されたときに薬がない、ということにならないよう精一杯努力はしていますが、薬価の引き下げがなければもう少し良かったんじゃないかと個人的には思っています。
―薬局では野菜の販売や抗原検査キットの販売・抗原検査もされていらっしゃいますね。喜ばれる患者さんもいらっしゃるのではないかと思いました。
長野県の実家が農家なので新鮮な野菜を送ってもらっています。加えて、患者さんから紹介してもらった無農薬野菜を作る農家さんからも仕入れています。販売している野菜は患者さんとのコミュニケーションツールな側面もあって、商品がきっかけで患者さんと距離が近くなることがあります。患者さんに薬局で野菜を販売している想いを伝えると、その患者さんが共感してくれてまた誰かを連れて来てくれることもあります。人と人の繋がりはすごく大切にしようと思っています。
薬局は処方箋調剤をするだけの場所ではなく、コロナのPCR検査など新しい役割にも積極的に取り組み、少しでも地域住民の健康に寄与できるのであればやるべきだと思っています。薬にはできることに限りがあり、薬には何かしら副作用がついて来るので、飲まないに越したことはありません。飲まないといけない状況になる前に何かできることがあるなら、そこに寄与していきたいと考えています。
薬局も一般的なお店と同じで、サービスや扱う商品の質で売り上げが決まると思います。何が求められているのか? どうすれば喜んでもらえるか? 患者さんとしっかり向き合い、カタチを変えながらお店もスタッフも成長して行きたいと考えています。当然それは私一人ではできないので、スタッフと一緒に考えています。みどり薬局のスタッフがなんでも意見しあえてスタッフが居心地よく働けるような環境作りをすごく大事にしています。
―青葉区薬剤師会としての活動にも注力されていらっしゃるのですよね。そちらの活動についても教えてください。
薬局での調剤業務は店舗で完結できますが、薬剤師会の活動は地域住民に向けた公衆衛生事業などを薬局の垣根を越えて取り組みます。コロナワクチンの集団接種のへ協力や学校薬剤師による薬物乱用防止教室など、行政から委託される事業と共に薬局以外の場所でも薬剤師の職能が求められていることが増えていると感じます。
新型コロナウイルスや診療報酬改定などに対しても薬剤師会に入っていると情報が早く、重要性も温度感もよくわかりますし、患者さんが不安に感じていることを早く正確に伝えることができるので薬局の信頼度も上がります。忙しい毎日の中で薬剤師会の活動に時間を割くのは容易ではありませんが、ここで得られる経験は自分のため、薬局のための大きな財産になります。このような活動を継続していくことで「薬剤師の社会的地位」も高まると思います。
―これからの薬局業界についてどのようにお考えですか?
今までの調剤薬局というビジネスモデルはもはや成り立たないと思っています。国の目標が薬局の数を増やすことから質を高めることになっていると感じます。これからは薬局だけでなく、一人ひとりの薬剤師の質が非常に求められると思います。
ましてやオンライン診療が始まったら、門前がなくても日本全国エリア関係なく自分が話を聞きたい薬剤師と繋がれる状況になります。例えばカロナールはどこでもらっても質は同じですが、それを活かすも殺すも薬剤師から薬と一緒に渡される情報次第だと思います。それをきちんと提供できる薬局でないと、患者さんの役には立てないと思います。
これからの薬局は処方箋調剤だけをしていても利益は出ません。保険調剤プラス何か別の事業で収入を得て、処方箋調剤以外の目的で利用してもらえるような薬局にならないといけないと思います。
それが何なのか、ヒントを患者さんから得るためにいろいろ会話をして模索しています。
売上を上げるためには、まず施設をと言われがちですが、施設は限りがあるので薬局同士で取り合いになります。それを収入の柱にしてしまうと、他の薬局に持っていかれたときに立ち行かなくなってしまいます。また、施設の処方箋調剤に追われてしまうと外来の患者さんが来たときに最低限の対応しかできなくなってしまい、本当に大切にするべきは今その場にいる患者さんのはずなので本末転倒です。
私は外来を蔑ろにして100~200人の施設在宅の処方箋を流れ作業で捌くことを優先する、という事態は避けたいと思っています。
―独立を考えられる方へ向けてアドバイスをお願いします。
いろいろな世界と接すると「自分も努力しよう」という気持ちになります。今までの調剤薬局というビジネスモデルをベースに別の世界のエッセンスを独自に加えていくことが、「他の薬局とは違う、地域住民に愛される薬局」を作るポイントだと思います。一緒に新しい調剤薬局のカタチを作っていきましょう!
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