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薬局+カフェという新しいかたち ―地域とつながる健康拠点へ―

近年、薬局が単なる「薬を渡す場所」から、地域住民の暮らしや健康に寄り添う新しい形へと進化しつつあります。そうした中で注目を集めているのが、薬局にカフェを併設するというスタイルです。特に都市部だけでなく、地方の中小薬局でも取り入れる例が増えており、単なるトレンドではなく、地域密着型経営の一環として本格的に導入されるケースも見られます。

薬局にカフェを併設することで、従来の「処方箋があるときだけ訪れる場所」というイメージが大きく変わります。例えば、処方薬の待ち時間にコーヒーを飲みながらゆっくり過ごしてもらう、また薬が不要なタイミングでも「ちょっとお茶でもしようかな」と気軽に立ち寄ってもらえるような、そんな“日常に溶け込んだ空間”を提供できるのが最大の特徴です。

 


こうした場は、地域の高齢者がふらっと立ち寄って世間話をしたり、子育て世代が子ども連れでホッと一息ついたりする場としても活用されています。

薬剤師やスタッフと自然に顔を合わせる機会が増え、相談のハードルも下がることで、結果的に「かかりつけ薬局」や「かかりつけ薬剤師」としての関係性を築きやすくなります。

 


さらに、薬局併設だからこそ可能な“健康志向のカフェメニュー” を提供しているところも多く、減塩・低糖質の軽食や、薬剤師監修の薬膳ドリンクなど、「食と健康」を結びつける取り組みも見られます。

これは通常のカフェとは異なり、医療とつながる「未病対策」や「予防支援」の役割を果たす新たな形とも言えるでしょう。

 


また、カフェスペースを活用して、地域住民向けの健康講座やワークショップ、子育てサロン、認知症カフェなどのイベントを開催する例もあり、薬局が地域コミュニティの中核を担うケースも増えています。薬を処方するだけでなく、生活や健康に寄り添い、信頼を深める場として、薬局の役割が広がっているのです。

このような取り組みは、カフェの運営自体が調剤報酬に直結するわけではありません。しかし、例えば「地域支援体制加算」や「服薬情報提供料」、「かかりつけ薬剤師指導料」などの加算取得において、患者との継続的な関係構築や地域活動の実績が評価対象となる場合もあるため、間接的には経営的なメリットにもつながります。つまり、カフェは単なるサービスではなく、「加算の土台を育てる仕組み」としても活用できる可能性を持っています。


とくに中小規模の薬局にとっては、このカフェ併設型は大手チェーンとの明確な差別化につながる点で大きな意義があります。

 

資本力や認知度では劣っていても、「他にはない居心地の良さ」や「顔が見える関係性」を強みに変えることができれば、それは地域住民にとってかけがえのない存在になります。
また、「薬局らしさ」にとらわれない自由な空間づくりが可能なのも、個人薬局ならではの強みです。店主の想いや地域性に応じたコンセプトで空間を作り上げられることで、「近所にちょっと立ち寄りたくなる場所」としての認知が高まり、結果として処方箋の持ち込み数や来局頻度の向上、リピーターの獲得にもつながっていきます。

 

こうした日常的な接点の積み重ねが、薬局としての継続的な利用につながり、「かかりつけ」の定着を後押しするのです。

 


さらに、カフェを通して地域の交流を活性化できれば、薬局は医療提供施設を超えた「地域の拠点」としての機能を果たすことも可能になります。高齢化といった社会課題にも寄与できる点からも、今後ますます注目されるアプローチと言えるでしょう。

 

一方で、こうしたカフェ併設型薬局の実現には課題も多く存在します。まず大きなハードルとなるのが初期投資です。
店舗改装費やカフェ機器の導入、内装工事などのコストはもちろん、飲食スペースを確保するために賃貸契約を見直さなければならない場合もあります。


さらに、飲食店としての運営には薬局とは異なる衛生管理基準が求められます。厨房の設計や設備、スタッフの衛生教育などに加え、調剤業務とは別に接客スキルや飲食業の経験を持った人材の確保も必要となるかもしれません。
調剤薬局の運営だけで手一杯な中小薬局にとっては、人的リソースの確保が課題になってしまいます。


また、営業許可の面でも注意が必要です。薬局とは別に、飲食業としての保健所への申請・許可取得が必要で、自治体によっては運営条件や規制が異なるため、事前にしっかりと確認と準備を進めておく必要があります。

 

このように、カフェを併設するというのは、単なる店舗の工夫というレベルではなく、“もう一つの事業を立ち上げる” という感覚が必要です。薬局とカフェ、両方の目的を明確にし、それぞれの動線や人員配置、サービス内容に一貫性を持たせることが、成功の鍵となるでしょう。


薬局とカフェの融合は、一見すると「ちょっとオシャレな取り組み」と見られることもあるかもしれません。しかし実際は、地域の中で暮らしに寄り添い、医療と日常をつなぐ新しい形として、非常に実用的かつ将来性のある取り組みです。
処方箋をもらうためだけの場所ではなく、ふだんの生活の中で自然に立ち寄り、健康について気軽に相談できる――そんな薬局のあり方が、今、少しずつ各地で形になり始めています。

 

 

「ごはんを食べることから、健康は始まる」チェーン薬局発カフェ―星の子Café―( きららみらい薬局 千林店 併設)

薬局勤務の管理栄養士が主体となって運営されているその空間には、健康を支えるたくさんの工夫と想いが詰まっていました。ただ喋るだけ、食べるだけじゃない、“ここに訪れ、食べることで健康になってほしい”という願いを込めて、日々工夫を重ねている現場。
きららみらい薬局グループ 株式会社J.みらいメディカル 取締役副社長の南 恵理子様と、店長で管理栄養士の森田 眸様(以下、敬称略)に、お話を聞かせていただきました。

 

―カフェを開設しようと思ったきっかけは?

:薬局に管理栄養士が配置されるようになって、そこから「せっかくならもっと活かしたい」と思ったのが最初です。
同時に、もともと薬局で働いていた管理栄養士の社員から「カフェをやってみたい」という声があったことも大きな後押しになりました。


―メニューにはどんなこだわりがあるんですか?

森田:1日あたりの塩分は6g未満に収まるようにと厚労省が推奨しているのはご存知でしょうか? なのでメニューの1食あたりの塩分は2g以下になるよう調整しています。

なおかつタンパク質はしっかり摂れるようにし、見た目や味もしっかり満足してもらえるように工夫しています。

定番だとカレー、ハンバーグなどが人気で、「えっ、これで減塩?」って驚いてくれる方も多いです。スイーツも、米粉で作ったシフォンケーキや、今の時季だとラカントを使ったかき氷など、罪悪感なく楽しめるものを揃えています。


― どんなお客さんが多いですか?

森田:いろんな方が来てくださいます。高齢の方が定期的に通ってくださるようになって、「ここに来れば栄養の整ったごはんが食べられるから安心」って言ってくださいます。そういう声を聞くと、ここがあってよかったなと思います。最近では、近くのプロボクサーの方が食事相談をしてくださることもあり、地域の方々の役に立てている感じがとても嬉しいです。

 

― カフェだからこその価値って、どんなところにありますか?

:病院や薬局ってちょっとかしこまった空気があるじゃないですか。「怒られるかな」とか、「こんなこと聞いたら変かな」って思って相談しにくい方も多い。
でもここなら、食べている時とかお茶を飲む際に気軽に会話ができるんです。

森田:以前、摂食障害のある若い女性の方が、「ここなら安心できる」と言って食事をとってくれたことがありました。そういうふうに、構えず安心できる場として関われるのがこの場所の一番の価値かなと思います。

隣の薬局ではカフェで実際に使用している減塩の調味料などを販売しています。

 

― これからの展望を教えてください。

:ご自身の食事に不安があっても「管理栄養士に相談する」って文化は根づいてないと思うんです。でも、身近な存在になれば、「ちょっと聞いてみようかな」って思ってもらえると思っています。このカフェがそんな場所になればいいなと思います。

森田:もっと“食べること”を通じて、健康に関心を持つ人を増やしたい。いつかは「食べることに悩んでいたけど、このカフェに出会って変わった」って言ってもらえるような、そんな声をもらえる場にしたいですね。

 

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きららみらい 星の子カフェ
ー管理栄養士の考える ごはんとスイーツのカフェー
〒535-0021 大阪府大阪市旭区清水1丁目19-19
TEL:06-6958-0015
営業時間: 11:00-17:00(L.O.16:30)薬局 9:00-18:00
定休日:日曜・祝日
アクセス: 京阪千林駅より徒歩1分、大阪メトロ千林大宮駅より徒歩9分
HP:https://www.hoshinokocafe.com/
Instagram:@kmhoshinoko

 

 

地域の集会場のような薬局併設カフェ ―Café 月と太陽―( ルビー薬局 併設)

薬局に併設されたカフェが、地域の暮らしにやさしく溶け込んでいる─。
子育て世代の夫婦が立ち上げた、地域密着型の個人薬局とカフェ。
「誰かとちょっと話したい」「ふらっと寄れる場所がほしい」そんな思いから生まれた空間は、コーヒーを片手に健康相談ができる場所として、子どもからお年寄りまで幅広い世代に愛されています。この薬局・カフェのオーナー生見美優様の想いをお伺いしました。

 

― 薬局にカフェを併設しようと思ったきっかけは?

もともと勤めていた薬局では、門前薬局だったこともあり来局する患者さんが多かったためゆっくりお話しすることが難しく、「本当はもっと話したい人もいるかもしれないのに…」と思っていました。なので“薬を取りに来るついでにコーヒーでも飲んで帰る”といったゆっくりできる場所があったらいいなと思って始めました。

 

― カフェスペースの役割はどのように考えていますか?

健康相談もできるし、処方せんがなくても来られる。お散歩ついでに立ち寄ってくれるママさんや、誰かとちょっと喋りたいなっていうお年寄りも立ち寄りやすい、親戚の家みたいな雰囲気を目指しています。

 

― 提供しているメニューにはどんな工夫がありますか?

薬膳茶を季節に合わせて4〜5種類、あと米粉のシフォンケーキやチーズケーキを手作りで出しています。メニューについてはお客さんのリクエストで可能な限り対応させていただいていて、「今日はあの人来るからこれ作ろうかな?」みたいな感じです(笑)。

 

― 地域イベントなども実施されているんですね

はい、ヘッドマッサージやお弁当販売、オリジナルのリップを作るワークショップなどいろいろ行っています。場所を提供することで地域の人とつながれるのが嬉しく思っています。あと、今後は高齢者施設での講習会などもできたらいいなと思います。健康づくりのサポートとして、薬剤師が地域の中で役割を果たせたら嬉しいです。

 

― これから挑戦したいことは?

地域の高齢者の“お昼ごはん難民”を救うような取り組みや、子どもとお年寄りが触れ合えるような場づくりをしていきたいです。あと、みんなが「今日はここで何かあるかな?」と覗きたくなるような、そんな空間になれたら嬉しいですね。

 

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Café 月と太陽
〒578-0942 大阪府東大阪市若江本町2丁目5-10 西村歯科 1F
T E L:06-6224-7793
FAX:06-6224-7794
営業時間:平日 9:30−19:00/木・土 9:30−13:00
定休日:日曜・祝日
アクセス: 若江岩田駅 徒歩12分
HP:https://ruby-moonandsun.com/
Instagram:@ruby_pharmacy_wakae

 

 

薬局とカフェ— 一見異なるようで、どちらも「誰かの心と体をあたためる」場所。


今回紹介した2 つの薬局には、処方せんがなくても足を運びたくなるような、人と人とのつながりが育まれていました。薬を渡すだけではない、もっと暮らしに寄り添う場所。  
忙しい日々の中で、ふっと立ち寄れる、地域の中の“安心できる居場所”そんな薬局が、これから少しずつ増えていくかもしれません。