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「漢方は効く」ということをもっとみんなに知ってほしい 漢方の氣生

漢方薬の処方には「見立て」が大事である。ある日、氣生薬局に訪れた若い美人な女性客。一通り問診をして、最後に「生理は順調ですか?」と尋ねると、「実は私、女じゃないのよ。」とのお客さんからの小声の返事。「最初から見立てのやり直しになってしまった」と笑いを交えた軽快なトークの久保田氏。
新宿三丁目では9年目、そして現在までの16年間漢方専門の薬局を営み、東洋医学とカウンセリングを融合させ、人と向き合い続ける久保田氏に、漢方の魅力について迫った。

「人が好き」は東洋医学向き

―どうして漢方の道に進まれたのですか?
臓器をターゲットに診る医療に昔から疑問を感じていました。私は小学生のころから花粉症を患っていて、その症状を抑えることと副作用の眠気との闘いに辟易していました。また、現在の診療体制は疾患別が主流ですから、内科にかかったとしても消化器科だの内分泌科だのにたらいまわしにされることもありました。それと3分診療。極端なことをいうと患者の顔も見ない医師もいる。今の医学・薬学教育では患者心理やコミュニケーション学などを学んでいるようですが、昔の医療は、病気しか見ていませんでした。そんな西洋医学に疑問を持っていた私は、大学卒業後は迷わず漢方専門の薬局に就職しました。なによりも人と接するのが好きという性格が東洋医学に向いていたのだと思います。

西洋医学は自然科学、東洋医学は自然哲学

―多くの薬剤師が「漢方は難しい」というイメージを持っていると思いますが、久保田先生にとっても難しい道のりでしたか?
いえ、とにかく“面白い”の一言でした。たしかに傷寒論を漢文で読むのには苦労しましたよ(笑)。もともと興味があって進んだ道ですから、難しいというよりも探求心の方が勝っていました。ただ、漢方を難しいと感じる薬剤師の気持ちはわかります。西洋医学は自然科学であり、東洋医学は自然哲学であると言えます。もちろん見立てや漢方処方にも理論体系や根拠はありますが、西洋医学に比べれば感性が重要になってきます。数学や化学など左脳を使った学習をしてきた薬剤師にとっては、感性やスピリチュアルな部分を大事にして右脳を使う東洋医学を難しいと感じるのは無理もありません。ですが、私たち日本人はカテゴリーでいえば東洋人です。これまで学問として触れてこなかっただけで、勉強すればきっと日本人の薬剤師には馴染むものだと思っています。
また、ここ数年で漢方薬の臨床的エビデンスが次々に出てきました。西洋薬と上手に組み合わせることでこれまで以上の臨床効果を期待できるかもしれません。病院や保険薬局に勤務している薬剤師は、西洋薬と漢方薬のコラボレーションを勉強するところから始めてみてもいいかもしれませんね。

疾患だけではなく、性格や精神状態も診る

―西洋医学では治療をなしえなかった患者が漢方薬によって回復したという例を時々耳にしますが、久保田先生もそのような経験がおありですか?
はい、あります。私が一生伴走しようと決めた患者さんの話を紹介します。お会いした初めの頃はがん治療に対してとても後ろ向きの精神状態でした。漢方薬の選択のためでもありますが、この方には十分なカウンセリングを行いました。怒りのコントロールがうまくいかず、特に父親との関係があまりよくないことから症状が悪化することがあったので、肝の働きを抑える目的で抑肝散を追加したりしました。すなわち、体質や疾患がもたらす症状からだけではなく、この方の性格や生活背景などを汲むことで漢方薬を選択することができます。〇〇がんに対しては××散がよく効くという話ではありません。“人”に対して処方しなければなりません。
漢方薬を飲み始めてから腫瘍マーカーの改善が見られました。しかし、その後再び体調が悪くなり余命宣告を受けるまでに至りましたが、宣告されたタイムリミットを過ぎても今なお週1回来局され、カウンセリングと漢方薬による治療を続けています。

漢方あるある

―「漢方薬は全て妊婦が服用しても大丈夫」などのありがちな誤解についてご紹介ください。
即効性がないというのはよくある誤解の一つでしょう。風邪を例にお話しします。東洋医学では、風・寒・暑・湿・燥・火という6つの気象現象を「六気(ろっき)」といっていますが、これらの外的要因が風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火邪(熱邪)という、邪気となって人体に障害を与えるという考え方があります。風が悪さをするのが風邪です。風はあっちに吹いたりこっちに吹いたり、弱まったり強まったりと変化が激しいため、風邪の症状も短期間で変化します。寒気がしたと思ったら翌朝には発熱して、のどが痛いと思ったら咳も出るといった具合に数日の間に症状が変化しますよね。したがって、風邪には即効性のある漢方薬を用いなければなりません。葛根湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯と症状に合わせて次々に変えていくのが理想です。同じ薬を何日も継続服用する西洋医学の考えとは異なります。風邪をひいた4日目で葛根湯は効きません。
ちなみに、葛根湯は「湯」と書きますから、通常お湯で服用していただきます。しかし、ドラッグストアでは冷蔵ケースに入った葛根湯ドリンク剤を見かけますよね。あれはどうかと思いますよ。お湯の話のついでに申し上げると、当帰芍薬散などはむしろお酒と混ぜて服用するのがよいとされています。意外ですよね、お酒で飲んだ方がいい薬があるというのは。もちろんお湯で飲んでいただいても構いません。
人によって効く・効かないがあるという話をよく聞きますが、それはむしろ当然です。先ほどから申し上げていますが、西洋医学のように症状や原因菌をターゲットにしているのではなく、“人”を診て、個人に合わせて薬を選択していますから、たとえ症状や疾患が同じでも別の人が飲めば効かないのは当然です。それだけ見立てが重要ということになります。
誤解という話とは少しずれるかもしれませんが、処方薬として腎結石・尿管結石の排出促進に使われるウロカルン錠®は、中身はウラジロガシという生薬です。製品名は漢方薬っぽくなくても、中身は漢方薬だったという医薬品は意外とあるものです。普通の病院や調剤薬局で勤めている薬剤師も実は日常的に漢方薬に触れているんですよね。

漢方は効く!

久保田先生の今後のビジョンについて教えてください。
「漢方薬はビタミン剤」なんて言っている医師がいるようですね。西洋薬のおまけのような使い方をされているのかもしれません。「漢方薬は効く!」と声を大にして言いたいですね(笑)。漢方薬の魅力を多くの人に知ってもらいたいと思っています。そのための取り組みとして、『漢方茶アドバイザー・マイスター』という制度を作り、当薬局で認定取得のためのスクールを開講しています。お茶という身近なものから漢方薬や東洋医学の考え方を学びます。そこで学んだ方々に伝道師となって漢方薬の魅力を広く伝えていただくのが今の私の目標です。残念ながら薬剤師の受講生がまだまだ少ないので、読者の中から受講生が出ることを心から期待しています!

漢方症例―治療困難からの回復例

50代女性、卵巣がん、他臓器に転移あり。抗がん剤治療をやめたいと氣生薬局に相談。
2016年12月から漢方薬の服用を開始し、それに伴い抗がん剤治療は中止。初来局時はがんとの闘病に対して後ろ向きの精神状態であった。カウンセリングを併用し、徐々に前向きな気持ちを取り戻す。腫瘍マーカーは減少傾向であったが、2017年7月に再び入院し、主治医から3〜6か月の余命宣告を受ける。しかし、今なお自分の足でカウンセリングと漢方薬調剤のために氣生薬局に通っている。余命宣告時は一時的に気分がダウンするも、現在は「私は死ぬ気がしない」「仕事に復帰したい」と前向きな発言が飛び出すまでに回復している。

●腫瘍マーカー
2017年1月 2017年2月 2017年3月
CA125(35.0以下U/mL、閉経後の女性では15〜20U/mL以下) 59 34 25
CA19-9(37U/ml以下) 101H 72H 55H
●使用している主な漢方薬や生薬
漢方薬・生薬 目的
茵蔯五苓散(いんちんごれいさん) のどが渇いて、尿が少ないものの次の諸症:嘔吐、じんましん、二日酔のむかつき、むくみ
柴胡清肝湯(さいこせいかんとう) かんの強い傾向のある小児の次の諸症:神経症、慢性扁桃腺炎、湿疹
抑肝散(よくかんさん) 虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
田七人参(でんしちにんじん) 肝機能を改善、免疫力向上、血流改善など

後記

WHOによれば、世界の生薬市場は600億ドル(うち約2割が日本の市場)であるが、2050年には5兆ドルまで伸びると推計されている。漢方薬の輸出シェアにおいても、日本が本場中国を圧倒的に上回っている。また近年、生薬原料の国産化も積極的に進められ、ジャパニーズ・カンポウが国内外から注目を浴びている。とはいえ、現実問題として苦い漢方薬を敬遠する患者も多いことだろう。「良薬は口に苦し」とはよく言ったもので、よく効く薬は得てして苦いものであるというのが本当かどうかはわからないが、処方医には、ぜひともこうお願いしたいところである。胃薬の漢方薬を処方するなら、ストロベリーだかオレンジだかの味のついたファモチジンOD錠とセットにしてくれと。

久保田 佳代氏プロフィール
久保田 佳代氏

プロフィール

株式会社氣生 代表取締役
昭和薬科大学卒業後、処方箋に基づく調剤ではなく、自分で見立てて処方したいとの想いから漢方の道へ進む。八ツ目漢方薬局上野店で管理薬剤師を経験後、結婚・出産。地元長野市にて漢方の氣生を開局。東京都江戸川区、新宿三丁目と場所を移しながら一貫して漢方医学に携わっている。
漢方茶アドバイザー・マイスターのスクールを開講、これまでの修了者は50人を超える。各種メディアを通しても漢方の魅力を伝えている。

漢方の氣生HP:http://kiokio.net/

メディア情報

H26.9.12〜H28.7.29
日刊ゲンダイ連載「漢方達人をめざせ!」
H26
テレビ朝日・グッド!モーニング「もうやんカレーの人気の理由」
H27
マガジンハウス・Hanako「悩める大人の体ケア」
ぶんか社ムック・快適S vol.2「一杯から始める漢方茶の効果でシニア男性の機能向上」
H28
小学館・美的2月号「冬の感染症から身を守れ」
H29
主婦の友社・妊活スタートBOOK赤ちゃんが欲しい(秋号)「ママになりたいあなたのためのオススメ施設」
HOP!薬剤師「薬剤師が「もうやんカレー」の香辛料を監修。漢方に秘められた力とは?」
H30
CCCメディアハウス・FIGARO japon「「なんだか不調」は、早めの養生ケア」
LDK the Beauty4月号「痛み止め特集」
晋遊舎ムック「カレーの便利帳」
Excite Bit コネタ「漢方薬剤師が「もうやんカレー」のスパイスを調合する理由」
関西テレビ・にじいろジーン“おうちでも簡単にできる薬膳スープ”

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