薬剤師のための心と身体のスタイル提案マガジン ファーストネットマガジン

薬剤師が褥瘡治療へ介入する必要性と重要性~医療現場における薬剤師の役割を認識できる~

はじめに

褥瘡じょくそうは疾患として認識することが医療者としてごく当然のことである。古くから床ずれと呼ばれ、患者の全身状態の悪化に伴って発症することから医療者も含め一般的に治せないものという悪い印象を持たれている。つい最近まで看護師のケアが発症に関係するとされ、医師は関心が低く、ましてや治せない褥瘡に深く関わることもほとんどなかった。要するに治らない褥瘡という先入観で対応してきた。これは看護師も同じような面がある。治療に関する知識や技術が十分でない看護師は経験則での対応を余儀なくされ、治せることが稀であった。このような背景が褥瘡には根深く存在し、未だにそう信じている医療者が多い。薬剤師は医師や看護師が対応しても治せない褥瘡に参加しても結果は同じと考えてきたと推察される。

医療法人愛生館 小林記念病院 褥瘡ケアセンター センター長 古田 勝経 先生
古田 勝経(フルタ カツノリ)
医療法人愛生館 小林記念病院 褥瘡ケアセンター センター長
日本褥瘡学会 認定褥瘡薬剤師 H19.9取得
慶応義塾大学薬学部非常勤講師
名城大学薬学部非常勤講師
国立長寿医療研究センター薬剤部研究員

褥瘡とは



褥瘡は同じ姿勢や体位を一定時間保持することで同一部位に持続性の圧迫やずれが生じ、血流が低下して不可逆性の阻血性障害を起こし、組織が壊死にいたる疾患である。圧迫やずれの外力の強さによって皮膚表面から骨までの間にある軟部組織を損傷するために、発症した褥瘡の深さもそれによって異なる。褥瘡の深さによってStageⅠ~StageⅣまであり、それぞれ損傷する深さを表す米国褥瘡諮問委員会の分類(NPUAP)が知られているが、日本では日本褥瘡学会が提唱するDESIGN®ツールが使用されている。このツールの特徴は点数化することであり、それを利用して治癒速度を算出することができるため、治療に用いる外用薬や創傷被覆材の治癒期間が割り出せる。それは薬剤師の褥瘡治療への介入がどれほど意味のあることかを明らかにするために利用できる。医師と看護師だけで治療する期間よりも、薬剤師介入後の期間の方が短縮される可能性がある。薬剤師の介入がなぜ必要なのか、そこがポイントであり、褥瘡が治せなかった重要な点が存在する。つまり、褥瘡治療には薬剤師の視点が極めて重要になるということである。

褥瘡が治せなかった理由

褥瘡が治せない理由を要約すれば、創の変形・移動による薬剤滞留障害、創の基剤特性に基づく湿潤調節の適正化の2つのポイントに集約される。結論から言えば、従来、医師、看護師の視点だけで治療が行われてきたことが大きく影響して難治化し、薬剤師の視点が無かったことが最大の要因である。

ポイントその1(図3,4)、高齢者の加齢変化に伴う皮膚のたるみである。高齢者の皮膚はたるみによって大きく移動・変形しやすいのが特徴である。これは体内水分量の減少や皮表脂質量の減少、コラーゲン線維の減少などが影響する。そのように動きやすい皮膚に損傷が発症した場合、真皮が残存するか、欠損するかで変形の有無が関係する。たるみのある皮膚に真皮が欠損した深い創が形成されると大きく変形して、創内が擦れ合うだけでなく、創内に外用薬が滞留することができなくなり、期待した効果は得られにくくなる。それを回避して薬剤滞留を維持するために動きやすい創を固定する方法を考案した。看護ケアとしての体圧分散マットレスの使用がベースではあるが、創内固定法や創外固定法など創局所の圧迫やずれから創を保護することも重要である。



2つめのポイント(図5)は、褥瘡局所の治癒基盤として不可欠な適正な湿潤状態の形成である。創傷被覆材では被覆することで適度な湿潤環境が形成できると言われているが、実際には容易ではない。外用薬を単剤で使用する場合、湿潤状態に影響する滲出液量に対応可能な守備範囲は限られておりオールマイティではない。外用薬の軟膏やクリームは構成成分の約95%以上を基剤が占め、その基剤特性が大きく影響する。そのために単剤での湿潤調節は難しい場合があり、基剤特性を調製する必要がある。ブレンド軟膏はその基剤特性を変化させて、対応できる守備範囲を拡大するために重要な役割を果たす。これまで混合した外用薬を褥瘡治療に用いることはなく、湿潤調節を行うことが困難であったが、基剤特性を調製するブレンド軟膏で湿潤調節を行うことで適正な湿潤状態を維持することにより、円滑な治癒過程を進めることが可能になった。これは薬剤師でなければ実現できなかったことから、薬剤師ならではの視点である。
このように、治せない理由は発症原因となる創への外力を抑制するための創の固定や治癒に不可欠な適正な湿潤状態を保持するための湿潤調節がこれまでの医師や看護師の視点ではないことが明らかとなった。それらに注目することで治せない褥瘡が治せるように変化し、さらに早く治せるようになった。この薬剤師ならではの視点に基づいて筆者の古田が考案した褥瘡の外用薬治療方法論が「フルタ・メソッド」である。フルタ・メソッドを遵守した薬剤師の介入で治癒期間が短縮することが明らかになったことは世界で初めてで、褥瘡以外にはない。褥瘡は貴重な分野であるとともにこの分野を薬剤師の今後の活路にしていく必要がある。

薬剤師の介入で治癒期間が短縮(図6)



褥瘡を治せない要因は前述のほかにいくつか存在する。それは外用薬の使用量が必要量に比べ少なく、創内に十分な湿潤状態が形成されないことも影響する。これは看護師が外用薬の基剤特性を理解しないままガーゼに薄く伸ばして塗布するというイメージで行うことが原因として考えられる。これは外用薬を創面に直接塗布せず、ガーゼに塗る場合に見られる。また褥瘡の治癒環境の一つに湿潤環境があり、外用薬の使用量が不足すると湿潤状態が低下することが予想されるため治癒が遷延する可能性がある。実際に看護師のガーゼ交換ではそのようなことが多く散見されるという報告がある。病態に見合った適正な外用薬が選択され、1回の使用量が適正に維持され、薬剤が創内に滞留される創環境をつくることで治せなかった褥瘡が改善しはじめる。薬剤師が介入してそのような実技指導を行うことにより治癒期間が短縮することはすでに明らかになっている。また医療コストに関しても医師、看護師による治療よりも薬剤師が加わることによるチーム医療の方が医療費を削減できることも示唆されており、薬剤師の必要性をアピールできるものと期待される。このことは厚労省も把握しており、褥瘡をきっかけとして実技指導の通知を出した経緯がある。さらにフルタ・メソッドにより治療効果は飛躍的に高まることから、治せない褥瘡というイメージが変化する。 2018年の日本褥瘡学会学術集会の教育講演において「フルタ・メソッド」は皮膚科認定講習に指定された。これは皮膚科の認定医を取得するために薬剤師の視点が必要とされると同時に、薬剤師の視点が医師に認められたことを示している。言い換えれば、薬剤師はフルタ・メソッドを知らないでは済まされないことになる。薬剤師によるフルタ・メソッドを活用した介入を進めることで、国民に薬剤師の褥瘡治療における貢献度をアピールできる。残念ながら、それを実現できる分野は褥瘡しかない。褥瘡は目に見える疾患なだけに、医師や看護師に留まらず、患者家族にも改善する経過を見てもらえる貴重な分野である。治せない褥瘡が薬剤師の介入で改善できるようになれば、今薬剤師に向けられている厳しい視線は必ず変わると思う。そうしなければならない。

薬剤師の視点とは何か

薬剤師の視点とは、処方せんに記載された薬剤を正しく調剤することだけではない。使用される褥瘡の病態や症状を薬剤師の視点で見ることである。見たことがないから分からないという薬剤師が多い。それは拒む理由にはならない。まずは褥瘡を見ることからはじめ、最初から意見を出そうと思わない。医師や看護師が行う話の内容をよく聞くことである。経験の無いことを関われない理由にしていたら、一生関われない。ケアマネージャーや主治医、訪問看護師に褥瘡の勉強をしたいと申し出ることも重要である。病院の褥瘡チームで治せるかどうかは別にして経験豊富な看護師がいるため、勉強しやすい。一緒に見せてほしいと申し入れをすれば拒否されることは少ない。褥瘡はチーム医療の原点とされている。稀に薬剤師が見ても仕方がないと言う人もいるが、押しの一手で粘ることが肝要である。それは薬剤師の視点を知らない医療者である。経過観察のためにいきなり写真撮影というわけにはいかないと思うが、できれば写真撮影し、記録係を担当するところから始めてもよい。
重要な点は、使用される外用薬が創の病態に合致しており、外用薬の効果が発揮されやすい適切な使い方がなされ、その結果効果が発揮されて褥瘡が改善する状況を観察することだ。改善しない時に意見を出して、薬剤師としての視点を提案する。外用薬の効く創環境づくりや薬剤の溶解性、滞留性を見ながら、効果との兼ね合いを見ていく。言うまでもないが、フィジカルアセスメントとして触診を行い、創の変形や移動も確認して、薬剤の滞留を阻害する圧迫やずれの影響を確認することが必要となる。例えば、目の中に点眼しなければ目薬は効かないことと同様に、創内に薬が滞留しなければ、薬は効かない。これが薬剤師の視点を示す基本的なスタンスである。薬剤が効くための創環境が重要になる。それが従来の医師や看護師の視点ではなかった点である。

薬剤滞留を実現する(図7)



高齢者の皮膚は加齢変化によりたるみが現れ、皮膚のひずみが発生する。それにより大きく移動しやすい。その状態の皮膚に深い欠損が生じれば、創は移動のみならず変形を伴うことになり、薬剤滞留障害をもたらす。外用薬は効果を減弱させる。それを前述のフィジカルアセスメントにより把握し、防止策を施す。創を伴う皮膚の動きを抑制するには創外固定や創内固定を施す。これは薬物治療のための創環境を形成することを目的とし、結果的に外用薬の効果を発揮しやすくすることから薬物療法の範疇に入る。創外固定にはバンデージやレストンスポンジを用い、創内固定にはキチン綿を使用する。固定されることによって、薬剤滞留が実現するだけでなく、創内の摩擦が減少し創面を傷つけることを防ぐために、肉芽形成を促す局所環境をつくることができる。薬剤滞留は使用する薬剤を効かせるための環境づくりの一つとなる。

治癒基盤となる湿潤状態の適正化(図8)



褥瘡の治癒過程では湿潤環境が基盤とされている。ただし、この湿潤環境は滲出液が出ていることを前提とするため、滲出液が少ない場合や乾いている場合では使用できない。そのため湿潤状態として滲出液が多く湿潤過剰な状態、滲出液が少なく湿潤不足な状態という考え方がわかりやすいため、湿潤状態という表現を基本とする。外用薬には基剤特性が影響することは前述のとおりである。単剤で滲出液量のすべてに対応できるものはない。それぞれの守備範囲は狭いために単剤での薬物治療を円滑に進めることが困難な場合がある。滲出液量に基剤を合わせることが理にかなった方法となるため、特性の異なる基剤を混合する必要性が出てくる。ただし、基剤を混合すれば基剤の安定性や成分の効果が減弱して効率的ではなくなる。そこでブレンド軟膏を考案して、外用薬の組み合わせと割合を設定した「エキスパート・F・ブレンド」を考案し、どのような滲出液量にも対応できるようにすることで薬剤の選択肢を広げ、シームレスな薬物治療が実現できるようにした。

おわりに

薬剤師の視点であるフルタ・メソッドは皮膚科認定医に必要不可欠なアイテムとなった。それは活用することで治せなかった褥瘡を治せるだけでなく、褥瘡の治癒速度を高める可能性があることを医師に認められたためである。薬剤の専門家である薬剤師は、外用薬の基剤という添加物であって添加物ではなく、主薬ではない薬効成分という基剤が重要な役割を果たすことに着目した褥瘡の外用薬治療に積極的に関わる必要性が高まった。それが褥瘡という治療に難渋してきた疾患に、新たな医療を国民に提供するために薬剤師が介入し、医師や看護師とともに医療者としてその責任を果たすべき時代の到来を示しており、診療報酬上の考慮もされる可能性がある。外用薬の重要性を見直して、薬剤師の視点が不可欠な褥瘡治療へ関わり、薬剤師の必要性をアピールすべきではないかと考える。