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今月のPickUpファーマシスト

第9回 西井香織さん(NEWRON株式会社 代表取締役CEO)

今月のPickUpファーマシスト

さまざまに活動、活躍されている薬剤師&薬学生の方のインタビューをたっぷりお届けします!

西井 香織さん(NEWRON株式会社 代表取締役CEO)

1992年生まれ。2年間の休学を経て2019年近畿大学薬学部を卒業。産官学と商品開発や販促支援を行うNEWRON株式会社の代表を務め、美味しくヘルシーな食品の開発(ヘルシーラボ)、近畿大学非常勤講師、薬剤師のジョブケーション(旅する薬剤師)などさまざまな事業を展開している。

人やアイデアをつなげて、新しい価値が生まれる瞬間が好き。

—西井さんの現在手がけられているお仕事について教えてください。

 “アイデアソン思考(複数人でアイデアを出し合う過程を通して、課題を解決するための思考法)”を取り入れたサービスの提供が当社事業の主軸です。マツモトキヨシや、NTTデータ、東急百貨店など、企業様とコラボして新しい取り組みを創出しております。

他には母校の近畿大学薬学部と食品の共同開発(ヘルシーラボ)、同経営学部での非常勤講師、薬剤師不足に悩む地域の薬局と旅をしながら働きたい都心部の薬剤師のマッチング(旅する薬剤師)、地元である大阪府堺市にて起業家育成のアドバイザー、シェアオフィスでのコミュニティマネージャーなどをしています。

 

—とてもお忙しそうですね! 学生時代に起業された会社で現在も事業展開していらっしゃるとのことですが、起業の経緯を教えてください。

もともとはMR志望だったので、学生時代は普通に就活をしました。激戦を勝ち抜くために20社以上のいろんなインターンに参加しましたが、結局自分は全然MRに向いていないなと思ってやめてしまいました(笑)。でも、そこでいろんな業界を見ることができたのは大きかったです。MR以外にも就活してみましたがしっくり来ず、そもそも既にできあがっている組織に入っていくことが苦手だと気付き「それなら自分で会社を作ろう」と起業を思い立ちました。

最初の事業は、薬剤師はまったく関係のないマーケティングの事業でした。当初は「薬学部なのだから、それを活かした事業をしなければ」と思っていたのですが、就活時にやってみた自己分析と、これまで自分がインターンなどを通して経験してきたいろんなことを振り返って「自分が本当にやりたいと思うこと」を大事にしなければと気付き、固定概念を取っ払うことができました。

 

—コラボレーションやマッチングなど、誰かと何かをする事業やお仕事が多いですね。構想の原点は何ですか?

もともと、アイデアは人と対話しているときに浮かびやすいなと感じると同時に、"アイデアはすぐに消えてしまう"とも感じていました。人と人が出会うことで新しいことが生まれやすくなりますが、新しいアイデアが実現するまでのハードルってけっこう高いんですよね。出ては消えていくアイデアたちを見ながら、良いアイデアはちゃんと具現化され世の中に出ていく仕組みを作りたいと日頃から思っていました。

学生時代にある学生団体を作ったのですが、友達0人から人を集めて、1,000人規模にまで大きくなりました。人を集めて新しいことを生み出すということが楽しかったですし、「なんのスキルもコネもない自分でもできた」とやりがいを感じたので、0から新しいことを生み出していくことにはモチベーションは高いですね。人やものをつなげることで新しいものが生まれる瞬間が好きなので、それを仕事にしたいと思い、今に至ります。

個性派薬剤師メンバーで運営する「旅する薬剤師」。

—「旅する薬剤師」は、すぐにでも人材が欲しい薬局にはすごく嬉しいサービスですよね。利用している薬局さんの反応はいかがですか?

地方だと薬剤師がそもそもいなかったりするので、求人を出しても1年以上見つからないこともザラにあります。そこで年中薬剤師不足で業務過多になりがちなところを、「旅する薬剤師」を活用することで負担が減って楽になった、有給が取れるようになった、などと嬉しいお声を頂戴しています。「都市部から来る薬剤師から、今時のやり方を知ることができる」という面白い感想も頂いたりしました。

このサービスは、例えばスタッフの産休・育休など期間が決まっている間だけ採用できる点が便利だと思います。「短期間でOK」とすることで人材も集まりやすくなり、最短3日で人材が見つかり翌週から入職といったケースもありました。事前の面接であらかじめどんな人が来るのか、薬局側と薬剤師の相性を確認できるというところも喜ばれています。

どこの薬局も、コミュニケーション能力や協調性を一番に求められているので、"旅が好き"ということが"人と関わることが好き"という一種のフィルタリングになっているなとも感じます。現在サービス開始から約8か月で、登録薬剤師は約200名です。まだまだ件数は少ないですが、今のところ100%マッチングできています。

 

—サービスに関わる業務は、すべて西井さんがおこなっているのですか?

いえ、本事業は5人で運営しています。メンバーは東京、大阪、福岡と全国に散らばっていて、うち一人は同じ大学出身ですが、他のメンバーはSNSや知り合いからつながりました。みんな薬剤師ですが、変わった働き方をしていて面白いんですよ。医療系スタートアップで新規事業開発を担当しているメンバーや、健康食品のDtoC企業でマーケターをやっているメンバー、芸人、MRなど……それぞれ薬剤師とはちょっと違った仕事をしながら本事業に関わってくれています。そのため仕事のミーティングも仕事終わりの20時以降などが多いです。

みんな同じ視点で考えてくれていますし、自ら動いてくれているので、いいチームだなと思います。薬剤師免許取得を目指して努力してきた背景も同じですし、資格に縛られた葛藤を多少なりとも持ち、違う道を選んだというちょっと変わった素質も共通するので、おそらく価値観が似るのでしょうか。そのあたりが、今のメンバーと仲良くやっていけている理由の一つかなと思います。薬学部では気の合う友達がおらず、人間関係で苦しい経験をしてきたので、今のチームの有難みをとても感じています。

 

—事業上でご自身も薬剤師であることが強みだと感じられることは何かありますか?

「旅する薬剤師」の話をすると、今までやってきていた事業よりもウケが良くて、応援してもらいやすいなと感じています。それは「何をするか」よりも「誰がその事業をやっているのか」を見られるんだなと思っています。「薬剤師がやっているからこそ、薬剤師の気持ちや現状がわかっているのだろう」という周りからの評価だと受け取っています。

 

起業が自分の適材適所。自分の特性を見極めるには、とにかく動いて経験すること。

—西井さんが考える、自身の強みはなんだと思いますか?

MVP(minimum viable product)を作る能力でしょうか。必要最低限の価値を提供できる製品やサービスのことを言います。とりあえず作って検証してみてニーズがあるかどうかを確かめるスピードが、おそらくものすごく速いと思います。先ほどの「旅する薬剤師」も、2021年の1月に着想して、メンバーを集め、4月には実証実験を始めました。6~7割の完成度でとりあえず作ってリリースし改善していく。新しいことをすることにまったく抵抗がないので、それが一つのセールスポイントかもしれません。

 

—精力的に活動されている西井さんですが、課題に感じていることはありますか?

ちゃんとニーズのあるサービスや商品を作って収益を安定させること、それを自分が動かなくても、他のメンバーで事業がまわる仕組みをちゃんと作って任せられる状態にしていくことです。

「面白そう!」と思ったことを、本当にすぐにやってしまうんです。本来なら、きちんと継続して収益が上がるのか、どれくらいの市場規模でどれくらいの利益が出そうとか、といったことをちゃんと吟味してから始めたらいいんですけど、それをするよりも早く着手してしまうので……(苦笑)。ちゃんと考えてから始めようというのは、少しずつ意識しています。でもそれをすればするほどフットワークも重くなってしまうので、バランスが難しいですね。

 

—今後もっと展開していきたい領域を教えてください。

今ヘルシーラボ事業で食品開発をしていますが、もっといろんな人に食べてもらって、もっと健康になってもらいたいと思っています。私自身、幼少期に太っていたことが理由でいじめられていた過去がありますが、薬学部での講義を通して食事や運動の大切さを学びました。"美味しいのに体に良い"食品開発や、楽しく続けられる運動の機会創出に、これからもっと力を入れていきたいと考えています。薬剤師の知識をやっとこれから事業に活かせていけているなとワクワクしています。

私はいわゆる"ゼロイチ"の、今までに無かったコトや新しいことをどんどん具現化することに価値を感じるタイプなので、これからも一点集中型ではなく、いろんなことに挑戦してゆきたいと思います。

 

—最後に、読者へメッセージをお願いします!

自分が本当に何をしたいのかを自問自答する時間を持つことはすごくオススメです。ただ考えるだけではなく、自分の適材適所を見つけるためにインターンでもアルバイトでも、何でもいいのでいろんなことを経験することも大事です。それで見えるのが薬剤師ならそれでいいですし、もやもやしている人はもっといろんなことを経験して視野を広げると、やりたいことの糸口が見つかるんじゃないかと思います。

個人的に、みんなが同じことを満遍なくできるべきという価値観があまり好きではありません。みんなできる当たり前のことが、私にはできなくて非難される経験を多くしてきたからです。

ですが反対に、みんなが好きじゃないことや苦手に思うことのほうが得意で、起業したことでそれが評価してもらえるようになり、自分にも存在価値があるのだとやっと感じれることができました。

なので、ちゃんと自分の特性を見極めて適切なところに行くことが本当に大事だなと思います。採用する側にも、ぜひその人の適材適所を見極めて評価してあげてほしいなと心の底から思います。進路に悩む学生の方は、まずは動いて、様々なことにチャレンジしてみて下さい! そうすることで自分の適材適所が見つかることを願っています!