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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第23回「胃を切除するとどうなる?①」

 

調剤薬局で日常の業務を行っていると、既往歴等に胃切除と書かれている方を意外と多く目にします。

胃を切除する方法や切除後の注意点など知らないことだらけだなと感じたので、それらについてまとめました。長くなってしまったので2回に分けてお送りします。

今回は切除方法、術後の後遺症についてです!

胃切除に至るまで

胃は食べ物を蓄え、胃酸で消化の補助や殺菌を行い、少しずつ十二指腸に送り出してくれる臓器です。また、ビタミンや鉄分などの吸収にも役立っています。そんな胃を切除しなければならない状況とは一体どんな状況なのでしょうか。

まず、1番多いのが胃がんです。日本ではがんの中でもトップ5に入る罹患数のがんです。他には消化管間質潰瘍(GIST)や神経内分泌腫瘍(NET)、重症の胃・十二指腸潰瘍があります。通常、胃・十二指腸潰瘍は内服薬や内視鏡で処置されることが多い疾患ですが、高度の狭窄や穿孔があったり、内視鏡では止血できないような出血を伴っている場合には胃切除が必要になることもあります。

切除方法

できる限り胃の機能を残すことが望ましいので、病変のある部位などによって適切な術式が選ばれます。

  • 胃全摘術

胃全体とその周辺のリンパ節を切除。切除後は食道と空腸を繋ぐ。

  • 幽門側胃切除術

幽門を含む胃の下部3分の2ほどを切除。切除後は残胃と十二指腸または空腸を繋ぐ。胃がんに対してこの手法が取られることが多い。

  • 幽門保存胃切除術

幽門・噴門は残し、中間部分を切除。切除後は噴門側と幽門側それぞれの残胃を繋ぐ。切除による後遺症は少ないが、胃がん再発の可能性があるため定期検査が必要。

  • 噴門側胃切除術

噴門と胃の上部3分の1から2分の1を切除。切除後は食道と残胃を繋ぐ、あるいは食道と残胃の間に空腸を繋ぐ。

手術による後遺症

胃切除後は消化や吸収に関連したさまざまな全身症状の後遺症が現れる可能性があります。手術直後が最も影響を受けますが、3ヶ月〜1年ほどで身体が慣れてきます。ではどのような後遺症があるのか見ていきましょう。

  • 小胃症状

胃の大きさが縮むことで起こる症状です。食べる量やスピードに注意しないと、すぐにお腹いっぱいになってしまったり、つかえ感やもたれ感が出たりします。ゆっくりよく噛んで、一度に食べ過ぎないようにすることで、徐々に食事量は増えていく場合が多いです。

  • ダンピング症候群

胃切除によって消化されていない食べ物が一気に腸に流れ込むことで起こる症状です。ダンピング症候群は早期と後期に分けられます。

早期ダンピング症候群

食後30分以内に起こります。一気に小腸に入ることでセロトニンなどの神経伝達物質や消化管ホルモンなどが分泌され、消化を進めるために血液も小腸の毛細血管に集まってきます。これにより全身倦怠感やめまい、冷や汗、動悸、腹部膨満などさまざまな症状が現れます。

後期ダンピング症候群

食後1.5〜3時間ごろに起こります。糖質が急激に吸収されることで血糖値が急上昇します。すると血糖値を下げようと大量のインスリンが分泌されますが、食物が小腸を過ぎたあとはインスリンの作用だけが残り、低血糖状態となってしまいます。低血糖が起こりそうだと感じたら、すぐにアメやジュースを摂取すると症状を抑えられます。

  • 貧血

胃切除によってビタミンB12や鉄の吸収が減ることで起こります。特に全摘した場合は術後4〜5年で蓄積されていたビタミンB12がなくなり、約70%の方が治療が必要になります。

  • 骨粗鬆症

胃切除によってカルシウムなどの吸収が減ることで起こります。血中カルシウムの不足を補うために骨に蓄えられていたカルシウムが放出され、術後数年以上経過すると骨量の低下が見られます。

  • 逆流性食道炎

噴門の切除により逆流防止機能が低下し、胃酸や胆汁、膵液などが逆流することで起こります。胸焼けや不快感、ムカつき、喉の痛みなどが現れ、主に内服薬で症状を抑えます。

  • 下痢

食べ物が一気に腸に流れることで腸運動が異常に活発化され、消化や吸収が不十分なまま送り出されてしまい下痢となります。また、胃酸の分泌減少による腸内細菌の変化も原因となるので、腸内細菌を整えてくれる食品を摂ることも予防に繋がります。

 

次回は胃切除後の日常生活の注意点や使用される薬剤についてです!

【参考】

胃がんの手術について(国立がん研究センター東病院)

胃を切った方の快適な食事と生活のために(胃外科・術後障害研究会)

佐野武監修「胃がん手術後の生活読本」(主婦と生活社,2013年12月)