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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第44回「膀胱炎に使われる抗菌薬」

 

 

膀胱炎では抗菌薬を用いた治療が行われます。

どのようなときに、どの抗菌薬が選択されるのかまとめました。

 

 

膀胱炎とは

直腸の常在菌による上行性尿路感染症です。女性に多く、頻尿や排尿時痛、残尿感、膀胱不快感などの症状がみられます。また、尿検査を行うと膿尿(細菌と戦った白血球が混ざっている尿)や細菌尿がみられます。

 

膀胱炎は大きく2つに分けられ、明らかな基礎疾患が認められない「単純性膀胱炎」と基礎疾患を有する「複雑性膀胱炎」があります。

治療方針を決めるにあたっては、単純性膀胱炎はさらに閉経前と閉経後で分けられます。

 

■閉経前の膀胱炎の原因菌

閉経前の急性単純膀胱炎では約80%がグラム陰性桿菌が原因となっています。その中でも約90%がEscherichia coliE.coliです。

閉経前に検出されるE.coliはBLI配合ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬いずれに対しても高い感受性があります。また、閉経後と比較してグラム陽性球菌の割合が高く、約20%を占めます。

 

※BLIとは?

BLIとはβラクタマーゼ阻害剤のことです。一部の細菌はβラクタマーゼという酵素を産生し、抗菌薬のβラクタム環を分解することで抗菌薬の作用が発揮できないようにします。それを防ぐために配合されるものがβラクタマーゼ阻害剤です。配合されているものの例として、CVA/AMPC(オーグメンチン、クラバモックス)やSBT/ABPC(スルバシリン)などが挙げられます。

 

■閉経後の膀胱炎の原因菌

閉経後は閉経前と比べてグラム陽性球菌の割合が低くなり、約9%です。そして、閉経後に検出されるE.coliは約18%がニューキノロン系抗菌薬へ耐性を示してしまいます。

 

 

■急性単純性膀胱炎(閉経前)の薬物治療

原因菌が不明の場合やグラム陽性球菌が原因の場合はニューキノロン系抗菌薬が第一選択薬として推奨されています。

一方、グラム陰性桿菌が原因の場合はセフェム系抗菌薬もしくはBLI配合ペニシリン系抗菌薬が推奨されています。

また、ESBL産生菌(遺伝子変異によりβラクタム環だけでなく、第3・4世代のセフェム系も分解する細菌)が原因の場合にはホスホマイシンやファロペネムが有効とされています。

 

 

■急性単純性膀胱炎(閉経後)の薬物治療

閉経後においてはE.coliのニューキノロン系抗菌薬の耐性率が高いため、第一選択としてはセフェム系とBLI配合ペニシリン系が挙げられています。ただし、グラム陽性球菌が原因の場合はニューキノロン系が推奨されています。

なお、ESBL産生菌に対しては閉経前と同様、ホスホマイシンやファロペネムが有効とされています。

閉経後は、若年女性と比べて治癒率が低く、再発率は高いといわれています。

再発予防として有用と報告されているのがクランベリージュースです。50歳以上の女性が65%のクランベリージュースを1日1回飲むことで再発の抑制が期待できます。

 

■妊婦の膀胱炎の薬物治療

妊娠初期はニューキノロン系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬、ST合剤の使用を避けるべきであり、妊娠後期はサルファ剤の使用を避けるべきとされています。そのため、妊娠中の膀胱炎にはセフェム系抗菌薬が推奨されています。

なお、原因菌がセフェム系抗菌薬に耐性の場合はオーグメンチンやホスホマイシンの投与が考慮されます。

 

 

 

■参考

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015ー尿路感染症・男性性器感染症ー