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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第51回「タリビッド耳科用液とコムレクス耳科用液の比較」

前回、点耳薬の使用方法についてまとめました。

今回は、抗菌作用を持つ点耳薬であるタリビッド耳科用液とコムレクス耳科用液についてです。どちらも中耳炎・外耳炎に使われる点耳薬ですが、濃度や使用実績など異なる点についてみていきましょう。

 

 

それぞれの有効成分

どちらもニューキノロン系の抗菌薬で広い抗菌スペクトルを有しています。

 

タリビッド耳科用液

オフロキサシンが0.3%の濃度で含有されています。R(+)体とS(ー)体の両方からなります。

 

コムレクス耳科用液

レボフロキサシンが1.5%の濃度で含有されています。

レボフロキサシンはオフロキサシンの中で薬効のあるS(ー)体のみからなっています。そのため濃度は1.5%でタリビッドの5倍ですが、S(ー)体の成分量のみで比較すると10倍に相当します。

抗菌薬の有効性や安全性の観点から最適な用法用量を設定するPK(薬物動態)/PD(薬力学)理論に基づく濃度設定がされています。

 

 

共通点

■適応

両薬剤とも、中耳炎と外耳炎への適応があります。

急性中耳炎というとアモキシシリンの内服が第一選択薬となりますが、点耳薬は全身的な副作用が少なく効果も認められていることから、小児急性中耳炎診療ガイドライン(2018年版)において鼓膜穿孔のある症例で薬液が十分に投与できる場合に推奨されています。

 

■用法

冷たい薬液は耳への刺激となり、めまいを引き起こす場合があるため、手のひらで人肌程度に軽く温めてから使用します。

 

■使用期間

耐性菌の発現を防ぐために、治療上必要な最低限の期間の投与が原則です。

4週間を超える場合は真菌の発言や菌の耐性化に注意して慎重に投与する必要があります。

 

薬剤の特徴と違い

■小児への使用

タリビッド耳科用液は臨床試験で小児への使用実績があり、効果も安全性も認められています。一方で、2025年4月現在コムレクス耳科用液は小児への臨床試験の実施はありません。

 

■薬価(2025年4月時点)

タリビッド耳科用液:556円/本(薬価111.2円/mL)

ジェネリック(オフロキサシン「CEO」):242.5円/本(薬価48.5円/mL)

コムレクス耳科用液:1568.1円/本

 

コムレクスは2023年6月に販売開始になった製剤でまだジェネリックも存在しないため、オフロキサシンと比べると費用がかかります。

 

■臨床効果

タリビッド耳科用液

国内での一般臨床試験において、中耳炎では88.1%、外耳炎では81.7%の有効率を示しました。中耳炎に対してはプラセボとの二重盲検比較試験においても、有効性が確認されています。

 

コムレクス耳科用液

国内第III相試験では、中耳炎に対して「膿性耳漏」「中耳粘膜及び鼓膜の充血」「中耳粘膜及び鼓膜の肉芽」の3つの症状全てが消退した割合が46.5%でプラセボよりも有意に高いことが示されました。

また、外耳炎に対しては無作為化二重盲検並行群間比較試験において、「外耳の腫脹またはびらん・発赤の評価項目全て改善」「膿性耳漏の消退」を満たす割合が47.6%であり、こちらもプラセボよりも有意に高いことが示されました。

 

まとめ

タリビッド耳科用液:コスト面に優れ、使用実績豊富な製剤

コムレクス耳科用液:PK/PD理論に基づく濃度設計により従来薬で治療抵抗性がある場合にも期待できる

 

 参考

タリビッド耳科用液0.3% 添付文書、インタビューフォーム

コムレクス耳科用液1.5% 添付文書、インタビューフォーム

日本耳科学会ほか 小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版