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スポーツファーマシスト学習記録

第6回 「TUE(治療使用特例)申請」について

こんにちは。新米薬剤師シトロンです。
12月になり、一気に冬らしい気候になってきました。みなさんお元気でしょうか。

私は今社会人になって一番テニスに打ち込んでいます。自分自身テニスが上手くなりたいという純粋な想いもあります。ただ、それだけじゃありません。最大の理由は、少しでもアスリートと同じ目線に立ちたいからです。

もちろん、今からプロになってトップアスリートのように世界を転戦して……というのはなかなか無茶な話だし、全く同じ目線に立つのは厳しいかもしれません。しかし、自分自身が試合に出場したりコンディショニングをしたりすることで、試合前の流れを経験することができます。

個人的にすごく勉強になったのはメンタル面です。私は11月に2回試合に出場したのですが、最初の試合「勝ちたい!」という気持ちが先行しすぎてしまい、大事な場面で実力を発揮できず負けてしまいました。とても悔しくて、ここだけの話泣きながら帰宅しました。


私でもこんなに緊張するのに、プロのアスリートはどれほどのプレッシャーの中で戦っているのだろう。もちろん選手によって個人差はあると思いますが、想像するだけで手が震えてしまいます。ここで感じた気持ちを、実際に選手をサポートする際にも忘れないようにしたいです。

 

さて、前回は勉強を休憩し、私が大学時代にやっていたことについてご紹介しました。少しは学生の皆様の参考になっていれば幸いです。

今回は勉強に戻って、TUE申請についてお話しようと思います。

なぜこれを今回のテーマにするかというと、私が一番実感しづらい分野だったからです。この記事で取り上げることによって自分の理解も一緒に深めていきたいと思います。

 

以前の記事で、アスリートには使ってはいけない薬があるということをお伝えしました。しかし、健康上の理由でどうしても使用しないといけないときもあります。そんなときに必要な手続きがTUE(Therapeutic Use Exemptions=治療使用特例)申請です。この申請が認められれば、治療のため禁止物質を使用していてもドーピング違反には該当しません。

 

この手続きは競技会などの30日前までに行う必要があります。

「選手が書類書けばいいだけでしょ?」と思ったそこのあなた! この手続き、けっこう面倒です。今回は通常JADA(日本アンチ・ドーピング機構)に申請する場合についてお伝えします(申請書記載例はJADA HPも併せてご覧ください)。

 

申請には申請書12枚と疾患別の医療情報が必要です。

医療情報とは、病名診断書の他に検査結果等も含まれます。TUE申請には医師の協力が必要不可欠です。さらに、たとえ国内の競技会であったとしても申請書は全て英語での記載となります。想像以上に書類の準備に時間がかかることをお分かり頂けるのではないでしょうか。初めての申請であれば尚更です。

わからないことも多く、書類不備により再提出になるケースもあります。実際、不備のない書類はわずか10%程度であったという調査結果が2016年に報告されています。

 

再提出してよし終わり! ではなく、ここからが本番です。書類を基に審査が行われ、使用が許可されるか否かが判定されます。

 

 

私はまだTUE申請に該当するケースを経験したことはありません。ただ、記載例などのリーフレットを見るたび、これはアスリートにとっても医療従事者側にとっても大きな負担がかかっているのではないかと思います。

生まれつき病を抱えている人だっています。そのために薬を使うのはその方の健康にとって必要なことです。全てのアスリートが平等に競技を行うために申請は必要な手段かもしれないけれど、せめて国内大会は日本語で申請できるようなシステムになれば少しでも負担軽減になるのではないかと個人的には思っています。

 

年明け令和4年1月24日からいよいよとちぎ国体が始まります。10月に行われる本大会の前に、冬季種目であるスケート・アイスホッケーの選手たちが日光市に集結します。

国体もTUE申請対象大会です。出場選手たちもしっかり事前準備してこの大会に臨んでいることと思います。出場選手が練習の成果を発揮できるよう応援しています。

ちなみに将来国体レベルの選手もサポートしたいという想いから、私も10月の本大会にはボランティアとして参加する予定です。

 

今回はここまでです。

次回は2回目の講習である実務講習会についてお伝えできるかと思います。それではよいお年を。