スポーツファーマシスト学習記録 |
第12回「“攣る”への対処」
こんにちは。新米スポーツファーマシストのシトロンです。
まだまだ暑い時期が続いています。皆様いかがお過ごしですか?
さて、8月は甲子園の時期ですね。久しぶりに有観客での開催となり、大会も大いに盛り上がりを見せたことでしょう。私がこの記事を書いているのはちょうど大会期間中なので結果はまだ分からないのですが、毎年この大会から将来のスター選手が誕生していますよね。今年はどんな熱戦が見られるのか、今からとても楽しみです。
ただ、先日大会関連で気になるニュースを見かけました。試合中に足が攣る選手が続出しているそうです。
https://www.yomiuri.co.jp/sports/koshien/summer/20220808-OYT1T50224/
日頃からたくさん練習してきた選手たちなのに、なぜこのようなことが起こるのでしょうか? それは、猛暑に加えて甲子園独特の緊張感が関係していると言われています。
今回はこのニュースをきっかけに、スポーツ中によく起こる「脚が攣る」症状の原因・対処法、そしてドーピングの話までをまとめていきたいと思います。
※甲子園でドーピング検査は行われていません。
①そもそもなんで攣るの?
「攣る」とは、足や手などの筋肉が異常な収縮を起こし、正常な状態に戻らなくなってしまう症状のことです。一般に急に激しい運動をしたときに起こりやすく、脚以外にも指や胸などに症状が出る人もいます。
脚が攣る原因はいくつかありますが、まず考えられるのは、筋疲労です。日頃使わない筋肉を使ったり、激しい運動をしたりした後、体には疲労物質である乳酸が溜まっています。この乳酸が筋肉の収縮リズムを調節している腱→脳へのシグナルを低下させるため、異常な収縮が起こりやすくなります。他にも、水分・ミネラル不足や熱中症、心理的プレッシャーなどが挙げられます。
②対処法
- 普段からこまめな水分・塩分・ミネラル補給を心がける
- もし攣ってしまったら……症状のある部分を伸ばす(ゆっくり息を吐きながら伸ばすと、筋肉が緩みやすい)
一時的な痙攣のとき、筋肉では血流不足が生じているので、RICE処置ではなく温める・動かすが基本です。水分なども補給しながら、焦らず行いましょう。
③薬の話
さて、ここからがスポーツファーマシスト的なお話です。一般的に、足が攣る症状によく用いられる薬はなんでしょう?
正解は「芍薬甘草湯」です。処方薬だけでなく、OTCとしても販売されていますよね。
即効性があることも人気の一つで、大手製薬会社の漢方薬販売売り上げ調査でも昨年度上位にランクインしていました。
では、ドーピング検査対象のアスリートが実際にこの薬を使いたいと言ってきたとき、スポーツファーマシストはどのように対応すればいいのでしょうか?
「芍薬甘草湯は漢方薬です。だから、基本的には勧められません。」
これが回答になります。一見シンプルに見えますが、実はこの判断が難しいのです。
生薬の中で禁止物質と決められているのは麻黄、ホミカ、ハンゲ、ブシ、チョウジ、サイシン、ナンテンジツ、ゴシュユ、動物生薬(ジャコウ、カイクジン、ロクジョウ)です。対して芍薬甘草湯に含まれている生薬は芍薬と甘草だけなので、これだけを見ると、禁止物質が入っているとは言えません。
では、なぜ勧められないという回答になってしまうのでしょうか?
JADAのHPでは以下の記載があります。
「漢方薬は、動植物や天然物から由来しており、すべての含有物質が明らかになっているわけではありません。禁止物質を含有することが知られている漢方薬以外の漢方薬についても禁止物質が完全に入っていないと保証することができません。」
以前、基礎講習会の感想を記載した記事でも同じようなことをお話ししたと思います。
「疑わしいものは摂取しない」ということですね。
私は卒業研究で生薬の分析を行なったのですが、成分が複雑すぎて目的物質を特定するのに苦労した印象があります。現在も多くの方が生薬・漢方について研究していますが、それでも未知な部分が多いのが現状です。
そのため、そもそも足を攣りやすい状況を自分で作り出していないかどうか、普段の食習慣や日頃の行動から見直していくことをお勧めします。
もし一人で考える余裕がないアスリートであれば、周りのメディカルスタッフに相談することも選択肢の一つだと思います。きっと親身になってくれるはずです(私もそんな存在になりたいと思います)。
また、もし頻繁に起こる・その他気になる症状がある場合は別の病気の可能性があるので、一度病院を受診することをお勧めします。
では今回はこのあたりで。
一刻も早く感染状況が落ち着くことを願って。
以上、シトロンでした。