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今月のPickUpファーマシスト

第20回 林田 千春さん(西武プリンセスラビッツ )

今月のPickUpファーマシスト

さまざまに活動、活躍されている薬剤師&薬学生の方のインタビューをたっぷりお届けします!

林田 千春さん

帝京大学薬学部を卒業、薬剤師免許取得。

卒業後は公務員薬剤師として保健所にて薬局の監査業務等に従事。
現在は調剤薬局に勤務するかたわら都内の女子アイスホッケーチーム「西武プリンセスラビッツ」のスポーツファーマシスト(トレーナー)として活躍。

アスリートのサポートをしたい

――薬剤師を目指したきっかけを教えてください。

 

身内に医療系の人がいた影響もあってか元々医療ドラマとかが好きで、高校入学くらいから医療関係に進みたいなという気持ちがありました。


自分がしたいことってなんだろう? と思い調べる中、新しい薬の開発に薬剤師が関わっていると知り、とても関心を持ちました。


また、ドクターと同様6年間しっかり学べるという点も魅力的に感じ、薬学の道に進むことを決めました。

 

 

― スポーツファーマシストという存在はいつ頃知りましたか?

 

薬学部受験の最中です。


ソチオリンピックが行われていてテレビで選手の活躍を見ていたとき、フィギュアスケートで羽生結弦選手が金メダルを獲得。

「同世代でこんなにすごい人がいるんだ…。」と感動しました。それと同時に「自分なりにアスリートを支えてみたい。」という気持ちが生まれました。

 

ただ、すでに進路が決まった後だったので「薬剤師としてどうにか支えられる道はないか」と調べたところスポーツファーマシストの存在を知りました。

 

 

―大学卒業時までスポーツファーマシストについての実態が不透明だったと思いますが、卒業後はどうされたのですか?

 

卒業後は公務員の薬剤師枠で就職し、保健所に勤務。

薬局・ドラッグストアへの開設、医薬品販売許可・監視・指導業務、薬物乱用防止啓発活動など幅広い業務を行っていました。

 

ただ、就職した年がちょうど新型コロナウイルス感染症が広まった時期と重なってしまい、身体が業務量に追い付かず1年程で離職しました。


その離職を機に、もう一度スポーツファーマシストについて調べ、向き合ってみようと思い、まずは薬局を知るために転職しました。

でも薬局で勤務していてもアスリートの方と会う機会はほぼありませんでした。

 

なので会う機会を増やすため、自分に何を+αしたら良いか考え、悩んだ結果スポーツトレーナーの専門学校に通い始めました。

 

 

― どのような経緯でSEIBUプリンセスラビッツに所属されることになったのですか?

 

専門学校に通い始めてから、そもそもアスリートのことをきちんと理解していない、業界のことも知らなすぎると感じてさまざまな研修会に積極的に参加するようになりました。

 

女性アスリートの支援についての研修会に参加した際、たまたま席が近く仲良くなった方のうちの1人が西武プリンセスラビッツの元選手の方でした。

その方とお話する中でスポーツファーマシストや私自身のことをお伝えしたところ、「今ちょうどトレーナー枠で募集があるけどどう?」というお話をいただき、現在に至ります。

 

 

― 元からチームのことはご存じでしたか?

 

申し訳ないことにチームどころかアイスホッケー自体を観たことがありませんでした。
でもお話を聞いて氷上練習に見学に行かせていただいた時、選手たちのプレイがすごくかっこよくて! 今までコンタクトスポーツに関わったことがなかったので、その迫力とスピード感に一瞬で心を奪われました。

 

それを見てからもっとアイスホッケーのことを知りたいと思い、YouTubeとかで試合動画など色々検索し学んでいきました。

今は日本でもっとアイスホッケーの認知度が高くなればいいなと思っています!


※コンタクトスポーツ:競技者間の接触のある競技のこと。

 

 

―現在チームではどのような活動をされていますか?

 

立ち位置としてはトレーナーとスポーツファーマシストの2方面あります。

スポーツファーマシストとしては、日常の体調管理や服用薬についての相談業務が主です。その他にも全日本選手権等の大会前に選手全体にむけて、ドーピングに関する注意点などのレクチャーを行ったり、あとアスリート用にJADAのWEBセミナーがあるのでそれの受講管理を行ったりもしました。


また女性のチームということもあり、ドーピングの話だけでなく女性の体調やピルについての話を伝える機会も設けたりしています。

選手とはLINEで繋がっているので、何か心配事があるときは基本的にいつでも連絡してもらって大丈夫というふうに伝えています。


これまで体調が悪く病院に行った際に貰った処方せんは問題ないか、はたまた体調を崩しているけど病院が閉まっていてどうすればいいか分からない時など色々な相談がありました。


そういうことがないのが一番良いのですが、やっぱり相談相手として頼って貰えるとスポーツファーマシストとしてのやりがいを感じることができます。

 

 

―やりがいを感じるとのことですが、スポーツファーマシストの魅力ってなんですか?

 

アスリートのそばにいれることかなと思います。
スポーツファーマシストには色々な活躍の形があるので一概には言えませんが、私はスポーツファーマシストだからこそ今のサポートの形ができると考えています。その上で選手を陰ながら支えるのが私の役割だと思っています。

 

アスリートから学ばせてもらうことは多いですし、毎日が勉強です。
少しでも競技に集中できる環境を整えられるように、日頃から自分をアップデートして選手と向き合えるよう頑張っています。

 

ここで所属しているSEIBUプリンセスラビッツの監督とキャプテンにもお話をお伺いしてみました。

SEIBUプリンセスラビッツ

1974年「国土計画女子アイスホッケークラブ」として発足。
1982年よりスタートした全日本女子アイスホッケー選手権大会には第1回より参戦し、第3回大会で初優勝。2007年には15年ぶり7度目の優勝を達成、2008年、2009年と3年連続優勝を成し遂げる。

昨年2023年第43回大会では6年ぶり13回目の優勝を勝ち取りました。
現在は25名、高校1年生~28歳までの選手が所属されています。

HP:http://princessrabbits.com/index.html
Instagram :@seibuprincessrabbits
TikTok :@seibuprincessrabbits

 

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― 林田さんがチームに入られたのが約1年半前とのことですが、それまでスポーツファーマシストという存在はご存じでしたか?

(三浦選手) 全く知らなかったです……(笑)。
(瀬野尾監督) 恥ずかしながら私も林田さんと出会うまで知らなかったです。

 

― 林田さんがチームに加わるまではどのように対応されていたのでしょうか?

(瀬野尾監督) ドーピングに関することはスポーツをする上ですごく重要な問題で、気をつけなきゃいけないことですが、詳しい説明は私含め他のトレーナーもきちんとできなくて、毎年紙を配るだけでした。


(三浦選手) 基本的には各自で管理。薬を貰う時は普通に薬局に行き、その場の薬剤師さんにドーピングに引っかからないかどうかを聞いて…。

でもその薬剤師さんも恐らく専門というわけではないので確認してもらうのにすごい時間がかかったりしたのを覚えています。


(瀬野尾監督) ちなみに私が選手だった頃はそもそも薬を飲まない。体調が悪くても気合で治す、といった感じでした(笑)。

 

― 現在、身近にスポーツファーマシストがいて「良かった」と感じることがあれば教えてください。

(三浦選手)今まで自分で調べても本当にそれが合っているのか、大丈夫なのか、という不安がありました。なので、今専門の方がいると安心して薬も飲めるし、無理なく体調管理ができるようになりました。

また、私自身日常的に服用している薬があるのですが、毎年ドーピングリストが更新される中で今年は大丈夫かどうかすぐに相談できるのはとてもありがたく感じます。


(瀬野尾監督)選手の体調が悪くなった時とか何かを治療するということに対して、スピード感をもってきちんとした対応ができるというのをすごく実感しています。

今回の遠征でも体調不良者が出てしまったのですが、病院まで同行してくださって安心して任せることができました。

もちろん、任せっきりでなく、私たちも知識を持っていなければならないのですが他にもたくさんしなければならないことがある中で、専門的にその分野を担ってくれているのは本当に助かっています。

 

― スポーツファーマシストはスポーツ業界のなかでまだ認知度が高くないのが現状だと思いますが、今後どのような広がりを期待しますか?

(瀬野尾監督)アイスホッケーでの話になってしまいますが、世界ランキング6位くらいのスポーツで私たちのチームは日本で1番になりながらもスタッフにはボランティアでお願いしているような状況です。ですが、チームとして結果を出すためにスタッフはすごく必要な存在で、やっぱり仕事としてきちんと対価を払えるような仕組みを作らないといけないと思っています。


スポーツファーマシストって多分日本のスポーツ業界の中では存在感が薄く、外部の薬剤師さんに任せればいい、みたいな認識があると思うのでスタッフを揃えるときに優先順位としては高くないのかな?と思います。


ですが選手とドーピングについては絶対に切り離せないものなので、スポーツファーマシストがいることの重要性・必要性の認識を広めて、そしてきちんとその役割で生活できるような仕組みを我々も作っていければと思います。

 

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―― 最後に、スポーツファーマシストを目指す方に一言お願いします。

スポーツファーマシストはまだ“これ”という働き方が決まっていません。だからこそ目指せば色々な幅が広がる資格だと思います。ただ、決まっていないからこそ資格を取った先のことを考えながら行動しないと資格の持ち腐れになってしまう可能性もあります。


少しでもアスリート目線で「アスリートの近くでやっていこう!」という方が増え、一緒にサポートをしていけたら嬉しいです。