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第10回 条件付き早期承認制度はどんなもの?
最近、塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症の治療薬について、条件付き早期承認制度を利用して、承認申請を行う可能性があると話題になっていますね。
適用の是非についてはさまざまな意見があるかと思いますが、今日はそれは置いておいて、条件付き早期承認制度がどのようなものなのか? 実際に適用された医薬品にはどんなものがあるのか? について見ていきたいと思います。
条件付き早期承認制度の概要
まずは条件付き早期承認制度の概要を見てみましょう。
この制度は簡単に言えば、「特定の条件を満たす医薬品/医療機器/再生医療等製)について、検証的臨床試験(P3試験)の実施が無くとも承認可能とする」制度です。
本制度の申請後は優先審査が適用されるため審査期間も短縮されることとなります。
そして上市後に有効性・安全性を再確認することを「条件」に承認とするのです。
検証的な臨床試験を行わないということは、通常よりもエビデンスが不足することになりますので、当然のことながら、何でもこの制度が適用されるわけではありません。
それを許してしまえば、有効性や安全性の確認が不十分な医薬品が世に出てしまうことになり、それは患者さんの不利益につながる可能性が高いからですね。
そのため、この制度の適用には満たさなければならない条件が定められています。
条件付き早期承認制度を適応する条件
条件付き早期承認制度の対象となる医薬品は、次の条件の「全て」を満たさなければなりません。
1-1生命に重大な影響のある疾患であること
1-2病気の進行が不可逆で日常生活に著しい影響を及ぼすこと
⇒対象の疾患が重篤である
2-1既存の治療法、予防法、診断法がないこと
2-2有効性、安全性、肉体的、精神的な患者負担の観点から、医療上の有用性が既存の治療法、予防法、診断法より優れていること
⇒医薬品の医療上の有用性が高い
3.検証的臨床試験の実施が困難、または実施可能でも患者が少ない等、相当の期間がかかること
4.検証的臨床試験以外の臨床試験などにより、一定の有効性・安全性が示されること
⇒検証的臨床試験が難しく、他で有効性や安全性がある程度示されていること
簡単にまとめると、
「重篤な疾患が対象となる医薬品で、医療上の有用性が既存の治療、予防、診断よりも優れており、検証的な臨床試験の実施が困難であるが、他の試験で有効性や安全性がある程度わかっているもの」
それが対象となりうるということです。
この制度は希少疾患に限定されるようなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、厚生労働省から発出されているQ&Aによれば、希少疾病用医薬品の限定されるものではなく、対象疾患などに応じて個別に判断されるとされています。
「検証的臨床試験以外の臨床試験等」が何を示すか? ということですが、探索的臨床試験(P2試験)の成績が主に活用されることとなります。
それ以外には治療薬の薬力学的指標として妥当な指標(代替エンドポイントに類する)の成績を確認する試験や、検証的臨床試験の代替エンドポイントによる中間解析結果などが考えられます。
少しイメージしづらいかと思いますので、具体的な事例を挙げて見てみましょう。
条件付き早期承認制度が適用された事例:ビルテプソ
条件付き早期承認制度の適用された医薬品として日本新薬のビルテプソという医薬品があります。
ビルテプソは国内初の核酸医薬品であり、対象疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)となります。
DMDは新生男児の3,500人に1人が罹患し、筋ジストロフィーの中で最も発症頻度が高いと言われています。
DMDの患者さんは、5歳頃に運動能力のピークをむかえ、その後緩徐に症状が進行し10歳頃に歩行不能となります。さらに呼吸筋や心筋の障害も加わり、最終的には呼吸不全や心不全で亡くなってしまうのです。
進行予防にステロイドのプレドニゾロンが2013年に適応を取得していますが、あくまで進行の予防です。
根本的な治療法はなく、重篤な運動機能障害、嚥下障害、痰の詰まり、消化管障害などが併発する難治性進行性疾患です。
DMDは遺伝的な疾患であり、根本的な治療は、遺伝子欠失あるいは重複変異などDNAレベルで修復し、「正常なジストロフィンタンパク質の全長を産生させる」こととなります。
つまり遺伝子治療が必要になるのですが、ゲノムDNA上の変異の修正は現時点では技術的に困難です。そこでmRNAレベルで変異を修正する手法として、エクソンスキッピング治療というものがあります。
配列特異的に設計したアンチセンス人工核酸を用いてmRNA上の特定のエクソンを読み飛ばし、全長は短縮するものの「機能するジストロフィンを発現させる」ことで、患者さんの状態を「重症のDMDから比較的症状の軽いベッカー型筋ジストロフィー(BMD)の状態へ移行させる」ということです。
ビルテプソはエクソン53を標的にしたアンチセンス人工核酸であり、エクソン53スキッピング活性により、ジストロフィンを発現させて、疾患の進行を抑制するとともに疾患の状態を改善させるという画期的な医薬品なのです。
長くなりましたが、要は、ビルテプソはこれまでの予防的な医薬品とは大きく異なる有用性が示唆されているということですね。
これらを見ると前述の条件付き早期承認制度の適用条件を全て満たしているということが分かるかと思います。
ビルテプソはこのような背景から、条件付き早期承認制度が適用され、承認を得ることができましたが、承認は下記のような「条件」が課されています。
・医薬品リスク管理計画を策定のうえ、適切に実施すること。
・国内での治験症例が極めて限られていることから、再審査期間中は、全症例を対象とした使用成績調査を実施することにより、本剤の使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。
・本剤の有効性及び安全性の確認を目的とした臨床試験及び国内レジストリを用いた調査を実施し、終了後速やかに試験成績及び解析結果を提出すること。
承認されたからそれで終わりではなく、有効性・安全性を再確認することが条件として定められているというわけです。
この制度は審査を緩くすることを目的としているわけではなく、「重篤な疾患に対して有効な医薬品をいち早く承認すること」で、患者さんに届けることが目的なのです。
そのため有効性や安全性の確認をおろそかにしているわけではないのですね。
終わりに
今日は条件付き早期承認制度の概要や適用医薬品の事例について見てきました。
塩野義製薬の新型コロナウイルス感染症治療薬に本制度を適用する是非については意見が分かれるところかと思います。
しかしこの制度を必要とする医薬品、必要とする患者さんがいらっしゃるのです。
いたずらにこの制度自体が批判されることのないことを祈っております。