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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第22回「電解質その3」

今回は電解質第3弾としてマグネシウムとクロールについてです。過去2回ではナトリウム、カリウム、カルシウム、リンについて書いているので、まだご覧になってない方は是非そちらも合わせてご覧ください。

第20回「電解質その1」

第21回「電解質その2」

 

マグネシウム

薬局で働いていると酸化マグネシウムとして関わることのとても多いマグネシウム。その約半分は骨や歯に蓄えられています。残りは筋肉や軟部組織、そして血管には1%未満のマグネシウムが存在します。

多くの酵素の活性化やCa代謝、Na・Kの細胞膜透過の輸送、エネルギー産生などさまざまな場面に関与している重要な物質です。

低マグネシウム血症

摂取量が不足している場合や腎臓からの排泄量が増加している場合に起こる可能性があります。この排泄量が増加する要因として薬剤の(利尿剤、シスプラチン、PPI、アムホテリシンBなど)の長期服用や下痢、大量の飲酒などが挙げられます。主な症状としては悪心、食欲不振、傾眠、振戦、テタニーなどがあります。

治療はマグネシウムの経口投与もしくは静脈投与が行われます。経口投与の場合、小腸からの吸収は約3〜5割のため欠乏量より多く投与しなければならず、下痢に注意が必要です。また低マグネシウム血症の場合、カルシウムやカリウムも低下している場合もあるので、それらの治療も必要になります。

 

高マグネシウム血症

腎機能障害によって腎臓からのマグネシウム排泄が低下している場合や過量にマグネシウムを摂取した場合に起こる可能性があります。ただし、腎機能障害がない場合に起こるのは稀なことです。

初期症状としては吐き気、立ちくらみ、めまい、徐脈、倦怠感、傾眠などがあります。血清Mg濃度が18.2mg/dLを超えるような重度の高マグネシウム血症になると昏睡、呼吸筋麻痺、心停止といった命に関わる状態になってしまうので、定期的な検査と初期症状での発見が重要です。

軽度の場合の治療は輸液やループ利尿薬の投与で、マグネシウムの排泄を促進させます。それ以外の場合は、マグネシウム拮抗作用を持つグルコン酸カルシウムの投与や血液透析が行われます。

 

クロール(塩素)

主に細胞外液に存在する陰イオンです。NaとHCO3の濃度に影響されます。これらとのバランスを維持することで酸塩基平衡や浸透圧の維持に役立っています。また、胃酸の構成イオンにもなっています。主に食塩(NaCl)から摂取するので不足することはあまりありません。

異常低値

クロールが低いということは身体が通常よりアルカリ性になっていることを示します。

基準値より低くなる要因としては、嘔吐や利尿剤などによる喪失、ADH分泌不適切症候群(SIADH)などによる低Na血症によるもの、呼吸性アシドーシスなどがあります。

異常高値

クロールが高いということは身体が通常より酸性になっていることを示します。

基準値より高くなる要因としては、下痢や尿細管性アシドーシスなどの代謝性アシドーシス、クロールを含有する輸液による過剰摂取、呼吸性アルカローシスなどがあります。

クロールは単体で異常な濃度になることは少ないため、ナトリウムなど他の電解質の数値や動脈血液ガス分析による酸塩基平衡の状態を合わせた総合的な判断が重要になります。

 

以上、電解質についてでした。患者さんの状態や治療経過の理解に繋げられるようにしたいです。

※基準値は医療機関によって異なります。 今回は江口正信著『検査値ガイドブック第2版』(サイオ出版,2017年2月)を参考にしました。