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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第24回「胃を切除するとどうなる?②」

 

前回に引き続き、胃切除に関連したお話です。前回は切除方法や後遺症を中心にまとめました。今回は日常生活の注意点、胃切除後に使われる薬についてです!

 

日常生活の注意点

  • 1回の食事量を少なくして、回数を多くする

胃切除後は胃が小さくなっているので、一度にたくさん食べることが難しい状態です。そのため1日3食ということにこだわるのではなく、1日5〜6食に分けて食べるようにします。少ない量でも栄養を摂れるよう、主菜を中心にゆっくりとよく噛んで食べることを習慣づけることが大切です。

また、よく噛むことで唾液の分泌が増加し消化の助けになります。

 

  • 食後30分程度は横にならない

胃切除後は噴門の機能低下により、胃酸だけでなく胆汁や膵液も逆流してしまうことがあります。食後は座ったり、ベットの頭を高くしたりすることで逆流を防ぎます。

一方で、早期ダンピング症候群が見られている場合は、胃から腸への流れを遅らせるために食後30分程度横になったほうがいい場合もあります。

 

  • 水分は食間に意識的に摂る

食事中の過剰な水分摂取は食べた物の胃から腸への流れを早めてしまうので、水分を控え目にすることがダンピング症候群などの予防につながります。ただし、脱水や腸閉塞には注意が必要なので、食間に水分をしっかり摂取することが大切です。

 

  • 体重変動に神経質になり過ぎない

個人差はありますが、胃切除により体重はおよそ1割減少すると言われています。元の体重までは戻らない場合が多いですが、半年から1年ほどで徐々に体重は増えていきます。健康な人が普通に生活していても体重変動はあるものです。1kgの変動に神経質になりすぎる必要はありません。

ただし、体重減少が続き、短期間に2、3kg以上減ってしまうような場合は、栄養が足りていない可能性があるので医師への相談が勧められます。

 

  • 少しずつ日常生活へ

日常生活への復帰に向けて、まずは家の周りの散歩などから少しずつ体を慣らしていきます。また筋トレなどの運動療法を行うことで術後体重減少の抑制が期待されています。ただし、激しい運動や体力を使うような仕事などは術後3ヶ月以上経ってからが望ましいです。

胃切除後に使われる薬剤の例

  • カモスタット

切除範囲や手術方法にもよりますが、胃酸の逆流だけでなく膵液や胆汁を含んだアルカリ性の十二指腸液が食道内に逆流してくることがあります。カモスタットめメシル酸塩は消化液中のトリプシンを阻害するため「術後逆流性食道炎」という適応を持っています。

 

  • α-グルコシダーゼ阻害薬

食べ物が一気に腸に流れることで血糖値が上昇して起こってしまう後期ダンピング症候群。α-グルコシダーゼを阻害し、糖質の消化・吸収を遅らせて食後過血糖を改善する働きのあるα-グルコシダーゼ阻害薬がこの後遺症を防ぐ目的で処方されることがあります。

ただし、ボグリボース・アカルボース・ミグリトールいずれも後期ダンピング症候群への適応はないので、適応外での処方となります。

 

  • クエン酸第一鉄ナトリウム

胃切除後は胃酸の分泌が減ることで、鉄分の吸収が約1/10〜1/100ほどになると言われています。そのため、術後半年から数年で鉄欠乏性貧血になることがあります。そこで使用されるのが経口鉄剤ですが、鉄剤であればなんでもいいわけではありません。

クエン酸第一鉄ナトリウムはクエン酸と鉄の錯体構造をしていることで、酸性から中性の広い範囲で溶解・吸収されます。さらに、全摘した場合でも有用であったという報告がされています。

 

  • メコバラミン

胃の壁細胞からの内因子の分泌が減るとビタミンB 12の吸収が低下します。胃を全摘した場合、術後4〜5年ほどで体内に貯蓄されていたビタミンB 12が枯渇し、巨赤芽球性貧血となる方が多くいます。

これに対する原則的な治療は、定期的なビタミンB 12の注射です。ただし近年、経口製剤の有効性も報告されており、適応外ではありますが処方される機会が増えています。

 

2回に渡って胃の切除に関してまとめました。数年後に起こる体調変化も見逃さないようにしたいですね。

 

【参考】

胃がんの手術について(国立がん研究センター東病院)

胃を切った方の快適な食事と生活のために(胃外科・術後障害研究会)

佐野武監修「胃がん手術後の生活読本」(主婦と生活社,2013年12月)