薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ |
第25回「ガイドライン改訂でどう変わった? 脂質異常症」
日本動脈硬化学会が発刊している動脈性疾患予防ガイドラインが今年7月、5年ぶりに改訂されました。どのように変わったのか、変わっていない点も含めて確認していきましょう。
脂質異常症の診断基準と治療目標
基準となる数値については画像をご参照ください。今回の改訂では高トリグリセライド(TG)血症の診断基準値として随時採血によるTG値が新たに設定されました。TGは食事によって大きく変動することがあり、非空腹時の値が高い場合でも冠動脈疾患や脳梗塞のリスクに繋がるため追加されたようです。ちなみに、これまでもあった「空腹時」とは、水やお茶などカロリーのない水分摂取を除いた10時間以上の絶食を指します。
続いて、脂質管理目標値です。冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞(明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞も含む)がある二次予防か、それらのない一次予防か、大きく2つに分けられます。
そして一次予防はリスクによってさらに3段階に分けられます。このときのリスク分類に新たに採用されたのが久山町研究によるスコアです。性別・収縮期血圧・糖代謝異常(糖尿病は含まない)・血清LDL-C・血清HDL-C・喫煙を基にポイントを算定し、年齢と併せて分類されます。なお、糖尿病(耐糖能異常は含まない)・慢性腎臓病・末梢動脈疾患(PAD)のいずれかに罹患している場合はスコアに依らず高リスクとなります。
また、画像内の①②で示しているように、よりリスクのある場合の厳格な基準値も設定されました。
生活習慣の改善
- 禁煙
一次予防においても二次予防においても禁煙は推奨されています。禁煙することで年齢や性別を問わず、動脈硬化性疾患の罹患や死亡リスクを低下させることができるためです。その効果は禁煙期間が長くなるほど高まります。
ただし、喫煙本数を減らしたり、低ニコチン・低タールたばこへ切り替えたりするだけではリスク低下させられません。禁煙は必須といえます。
- 食事と飲酒
適正な総エネルギー量を摂取し、適正な体重を維持することが重要です。そのうえで、お肉の脂身や加工肉(ベーコンやウインナー)、生クリーム、マーガリンなどトランス脂肪酸の多い食べ物を摂りすぎないよう注意が必要です。
一方、積極的に摂ったほうがいい食べ物としては、EPAやDHAを含む魚や大豆、野菜、海藻類、きのこ類、ナッツ類などが挙げられます。
そして、今回の改訂で飲酒についての項目が追加されました。まずは飲酒者の飲酒頻度や飲酒量を確認し、動脈硬化予防のために飲酒の頻度や量を減らすように指導します。ガイドラインでは1日のアルコール摂取量を25g以下にすることが推奨されています。25gと言われてもピンときませんが、ビール(大瓶)で25g、日本酒(15%)1合で22g、ワイン1杯で12gが目安になります。
- 運動
血清脂質の改善を目的として、有酸素運動やレジスタンス運動が推奨されています。有酸素運動の具体的な運動時間としては1日30分以上を週3回または週150分以上、そして中強度以上の運動の実施が望ましいです。中強度以上とは速歩やジョギング、水泳、テニスなど楽〜ややきついと感じる程度です。
その他追加項目
他にも2022年の改訂で以下の内容が追加されました。
・脂質異常症の検査
・潜在性動脈硬化
・非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪肝炎
・健康行動倫理に基づく保健指導
・慢性腎臓病のリスク管理
・続発性脂質異常症