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薬学×付箋ノートBOOK著者 くるみぱんの薬学ノートと日常メモ

第33回「顎骨壊死と歯科治療」

骨粗鬆症に用いられるビスホスホネート(BP)製剤や抗RANKL抗体であるデノスマブ(Dmab)製剤は顎骨壊死に注意しなければならない薬剤ですね。

近年これらの他に血管新生阻害薬等によるものも報告されるようになり、まとめて薬剤関連顎骨壊死(medication-related Osteonecrosis of the jaw、MRONJ)と呼ばれるようになりました。

MRONJのポジションペーパー2023を基に、病態や歯科治療の際の休薬についてまとめました。

発症のリスク因子は?

BP製剤とDmab製剤を合わせてARA(antiresorptive agent)と言い、ARA投与にさまざまなリスク因子が加わることでMRONJの発症リスクが高くなると報告されています。

局所因子としては歯周病やインプラント周囲炎、抜歯などの侵襲的歯科治療、口腔衛生状態の不良などが挙げられます。全身因子としては糖尿病や自己免疫疾患、人工透析のほか、喫煙や飲酒、肥満などの生活習慣が挙げられます。

また遺伝的要因もあることが報告されています。

どのようにして発症する?

中心的な発症機序としては骨のリモデリング阻害によるとされています。ARAは破骨細胞の活性化を阻害することで骨密度を上昇させますが、これにより新しい骨に変わらないまま骨細胞の寿命を迎えることとなり壊死につながります。

他にも細菌感染は発症と重症化に関わっているとされています。MRONJの発症頻度は骨粗鬆症患者で22.9/10万人と報告されており、日本口腔外科学会によると発症数は年々増加しています。

どうして顎の骨だけに起こる?

ARAは全身の骨に対して作用しますが、なぜ壊死が起こるのは顎の骨のみなのでしょうか。

まずは顎の骨を覆っている口腔粘膜は他の部位よりも薄く、顎骨と歯の隙間などから口腔内の細菌が骨まで到達しやすいことが挙げられます。そして顎には毎日繰り返し強い力が加わっていること、全身の骨の中でも新陳代謝が最も早いためARAが沈着しやすいことで、顎骨壊死につながると考えられています。

歯科治療するときは休薬する?

BP製剤の添付文書を見ると「投与中に侵襲的な歯科処置が必要になった場合には本剤の休薬等を考慮すること」と記載されています。リスク因子の欄でも確認したように、抜歯などの侵襲的歯科治療はMRONJ発症のリスクとなります。しかし、抜歯に際して休薬の利益を示唆する結果となる論文はなく、ポジションペーパー2023では「抜歯時にARAを休薬しないことを提案する」とされています。

なお、抜歯以外の手術時の対応や、MRONJ発症リスクが極めて高いケースでの休薬については今後の検討が必要なようです。ARA投与開始前に必要な侵襲的歯科治療を終えておくことが発症予防に効果的です。

 

【参考】

薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023