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スポーツファーマシスト学習記録

第25回「食べ物でドーピングになっちゃうことってあるの?」

こんにちは。スポーツファーマシストのシトロンです。

 

とうとう9月になりましたね。

暑い夏から少しずつ気候が変わり、体が追いつかない方も多いのではないでしょうか?

 

実はこの時期「9月病」と言われる状態が起こりやすいと言われています。

 

5月病はよく聞きますが、9月もあるのかと驚きました。

 

徳島県医師会によると、夏の暑さがストレスとなって心身(自律神経)の調子を崩すことを指し、倦怠感・気分の落ち込み・不眠などの症状が現れます。

私も休み明け少しぼーっとする・朝起きるのが辛い等の症状が出たこともあったので、今振り返るとこのことだったのかなと思っています。

季節によって生じやすいことがあると知っておくと、今後対処法も調べやすいかなと思います。ぜひ参考になれば幸いです。

 

 

それでは本日の話題に移ります。

 

今回のテーマは

です。

 

スポーツファーマシストが関わる範囲というと医薬品やサプリメントは容易に想像がつくと思いますが、実は食べ物から違反物質が出てしまったこともあります。

その食べ物とは…お肉です。

では、その事例についてみなさんと一緒に勉強していきたいと思います。

 

その事例が報告されたのは、2011年11月20日に開催されたWADA(世界ドーピング防止機構)理事会でのことです。

禁止物質であるクレンブテロールを含んだ食肉を食べたことが陽性の原因とされました。

《クレンブテロールの食物汚染に起因するドーピング問題についての注意喚起》

(参考:JADA ニュースリリースより)

 

これだけ聞くと、

「アスリートってお肉結構食べているよね?大丈夫なの?」

と心配になってしまう方もいると思います。

 

なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?

 

原因は生産過程にありました。

クレンブテロールは筋肉増強作用があるため、禁止物質となっています。

 

動物用医薬品としても気管支拡張薬や子宮弛緩薬として承認されていますが、一部海外地域では成育促進のために承認内容外の目的として使用されているケースが存在します。

 

そのため、それらの地域で提供される肉料理を食べた後ドーピング検査を受けると、体内から検出されてしまう恐れがあるのです。

 

現在報告されている地域は中国・メキシコ・グアテマラの3ヶ国です。

 

とはいえ、遠征やトレーニング合宿などが行われる場合、その地域で食事をすることになると思います。

アスリートはどう対応すればいいのでしょうか?

 

 

JADAから推奨されている行動は以下の2つです。

 

1) 競技会主催団体または国際競技連盟が指定するレストランで食事を摂ること


2) 指定のレストラン以外で食事をする場合には、複数名で食事をしたうえで、食事内容、時期、場所を記録すること

 

この記録、実はとても重要なことなのです。


もし、万が一検査で陽性になってしまっても、この記録を提出することで判断材料の裏付けとなり規則違反にならない場合があるからです。

 


2019年5月にWADAが発表した通知によると、食肉が原因だと思われる低濃度(5ng/ml未満)のクレンブテロールが検出された場合、まず競技者に当該地域への渡航歴や食事状況を確認します。

その回答が分析結果に符合するものであった場合は規則違反になりません。

 

日本人選手でも実際このケースに該当した方がいます。
東京五輪にも出場した競泳の松元克夫選手です。


彼は2020年に競技会外検査でクレンブテロールが検出されました。

その後メキシコ合宿中に食べた食事によるものだと証明されたため、規則違反とはなりませんでした。

松元 克央選手の FINA 競技会外ドーピング検査結果における経過について

(公益財団法人 日本水泳連盟HPより 2020年8月27日)

 

 

アンチドーピングってこんなことまで気をつけないといけないのか、と感じた方もいらっしゃると思います。

アスリートは日々の練習・トレーニングで一生懸命の中、他のことにも注意深く対応しないといけません。それがアスリートの責務であることは間違えありませんが、不安になることもあるでしょう。


選手が頼ってくれたとき、事例を多く知っておけばそれに伴った対応もしやすくなります。


またこうして皆さんと勉強できる機会も増やしていきたいと思っています。

 

 

いかがでしたでしょうか。
少し長くなってしまったので今回はここまで。


冒頭にも話しましたが、体も疲れやすい時期になっています。
皆様体調にはくれぐれもお気をつけてくださいね。

 


以上、シトロンでした。