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第13回「再燃するドラッグ・ラグ問題」
ドラッグ・ラグの問題は薬剤師の先生方はよく耳にする話題かと思います。
ドラッグ・ラグとは海外では承認されている医薬品が、日本では承認されていない、承認が遅れているような状況のことですね。
日本における未承認薬の増加は、日本国民が最新の医療へアクセスするにあたって大きな障壁となり、国民の不利益に直結することであるため、解消していくことが重要です。
「使える医薬品があるのに使えない」これは患者さんにとって、非常に辛いことですし、医薬品を処方する医師や、薬剤師の先生方も大変心苦しいことかと思います。
一昔前はドラッグ・ラグの要因として、日本の制度上の問題が主な課題として挙がっていましたが、規制当局や製薬企業がドラッグ・ラグ解消に向けて活動を進め、承認審査期間の短縮やグローバル試験を推進していくことで、一旦は解消に向かっておりました。
ところが2010年代後半になって、再びドラッグ・ラグが目立ち始め、日本における未承認薬は増加の一途を辿っています。
この理由について、7月に政策研から資料(政策研ニュースNo.66)が発出されていますので、今回はその内容も参考に考えてみましょう。
■ピボタル試験への組み入れの低さ
政策研が2016-2020年における未承認薬増加の要因を探ったところ、最も影響の大きい因子として、ピボタル試験への日本の組み入れが無いことを挙げています。
特に、新興企業品目の日本のピボタル試験への組み入れ率が低いことが大きな要因であったとのことです。
抗悪性腫瘍薬のピボタル試験への組み入れの有無によって発生する承認ラグは約3年半とのデータもあり、ピボタル試験への組み入れがない点が、承認スピードに大きく影響することが見て取れます。
ピボタル試験とは、新規の治療薬や治療法において有効性を示す主な根拠となり、後の治療を変えるような重要な中枢となる試験のことです。
その医薬品の有効性を示すうえで必須となる試験といっても過言ではありません。
そのような試験から日本が除外されたとあっては、承認に影響があるのは致し方ないと言えるのかもしれませんね。
なぜ日本が除外されるかといった部分の詳細はまだ分かりませんが、患者登録数・登録速度などの試験期間への影響、試験開始にあたっての手続きの煩雑さ、臨床試験の費用などを踏まえて、日本ではなく、他のAsia regionを選択しているのかもしれません。
またグローバル試験において、日本が組み入れられる際には、日本人での忍容性評価等の追加的な臨床試験を事前に行う必要があり、コスト面から嫌がられている可能性も指摘されています。
敢えてお金も時間もかかるところで、臨床試験をしなくてもよいのではないか? ということですね。
この問題については、昔から言われており、製薬企業や規制当局だけではなく、医療機関やCRO、SMOも含めた治験に携わるすべての人の課題だと思っています。
■日本市場の魅力の低さ
日本での治験環境について見てきましたが、それ以前に「日本市場の魅力の低さ」という部分が非常に大きいと考えています。
これは大手の製薬企業の幹部からもよく指摘されていることでもありますが、日本は薬価削減を推し進めるあまり、イノベーションの評価が疎かになっています。有効性や安全性に優れた医薬品を上市することができても、すぐに薬価を下げられては、開発に要した資金を回収することが難しくなります。
大手の製薬企業でも大きな問題となっている薬価問題ですが、研究開発資金が潤沢に無い新興企業にとっては、さらに切迫した問題となりえます。
多くの新興企業にとって足場である米国の市場規模と成長性を基準とすると、日本の市場は規模も小さく、昨今の薬価政策から、先進国で唯一マイナス成長を遂げている状況は、日本の医薬品市場を軽視する大きな要因となりえると思います。
簡単に言えば、日本市場は医薬品を上市する魅力がないのですね。
多くの企業にとって、儲からない市場で開発を進めるモチベーションも余裕も無いということかもしれません。
日本の製薬企業にとっても他人ごとではなく、日本にありながら、海外での開発を優先するという事態に陥ることも十分考えられることなのです。
■まとめ
今回はドラッグ・ラグについて考えてみました。
社会保障費が話題になるとき、「薬価」は常に批判に晒され、製薬企業も儲けすぎと指摘されることもあります。
しかし製薬企業は余裕を失い、日本市場を見限りつつある状況です。
目先の薬価政策は将来の国民に大きな不利益をもたらす可能性があると思います。
ドラッグ・ラグの問題は国民にあまり知れ渡っていないと個人的には思っていますが、薬剤師の先生方にはぜひ身近な問題と捉えていただけますと幸いです。